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アレクサンドル・ベリャーエフ 作
「両棲人間」

Александр Беляев
Человек-Амфибия

発掘禄7 オリジナルネット版のこと & 翻訳者のこと

 え! 両棲人間がネットで読める!

synaさんから、こんなお手紙をいただきました。
許可をいただいていますので、みなさまもごらんくださいませ。

2003年7月6日
はじめまして。
『両棲人間』について調べていて辿り着きました。
特に日本語版3種類と英語版を比較したページは興味深く拝見しました。
ぼくも気になったので、あかね書房版と青い鳥版を借りてきて下記のオンラインテキストと比較してみました。
http://books.rusf.ru/add-on/xussr_av/belyaa11/

 まず、結論から言いますと、あかね書房版がごく標準的な抄訳なのに対し、青い鳥版は登場人物の名前を全然違う名前に変えたり、挿話の順番を入れ替えるなど、翻案に近い抄訳になっています。
(ただし英語からの重訳という可能性はほとんどないと思います。)

 例えば、原著の各章のタイトルは、細江さんが紹介しておられる英語版のものと同じ内容で、あかね書房版で削除されている2つの章題
 Снова в море (Again in the sea) と
 Бой со спрутами (Fight with octopuses)
も原著にはあります。もちろん主人公の名前もイフチアンドル(Ихтиандр = Ichtiandr)です。

 また、青い鳥版第二章「「海の悪魔」の話」の中の挿話はあかね書房版の第二章の前半部分の内容なので、したがって本来は青い鳥版第三章「学者の意見」の後に来るものです。
そのせいでズリータ船長の台詞に「原子力時代」という1928年の原著にはあり得ない言葉が使われていたりします。

 あかね書房版はストーリー性重視で、「海の墓場」「蛸との戦い」などを削除する一方、後半の牢獄の場面などはしっかり翻訳しています。
 結末部分もあかね書房版のものが最も原書に近い翻訳です。
一方青い鳥版はより子供向けの翻訳で、登場人物たちの間の微妙な関係が伝わらず、ストーリーが分かりにくくなっています。
 しかし「ふしぎな庭」や「イフチアンドルの一日」などの部分はあかね書房版よりもずっと詳しく翻訳されています。

 ただし、以上のことは原著のごく一部分をオンライン翻訳にかけた結果から得た、個人的な印象であることをお断りしておきます。
 どちらの版がいいかと言うよりは、あかね書房版を読みながら青い鳥版で省略部分を補うという読み方がベストかも知れません。

 さて、残った偕成社版についてですが、これはまだ現物を見ていません。
 しかし原著の結末部分はほぼあかね書房版の通りで逃げた後のイフチアンドルのことは原著には書かれていません。
 したがって、こちらが完訳である可能性よりも、創作された章が新たに付け加えられた可能性の方が高いという気がします。
 現物を入手されたそうですが、いかがだったでしょうか?

syna

2003年7月7日

syna 様へ
お手紙、ありがとうございます。

> 下記のオンラインテキストと比較してみました。
> http://books.rusf.ru/add-on/xussr_av/belyaa11/

 このオンラインテキストの存在は、存じませんでした。
 興味深い情報を、ありがとうございます。

 私も、青い鳥版はロシア語版からのものではないかと思っています。
 翻訳者がロシア語関係の方ですし。

 もっとも、それ以上はっきりしたことは、わかりません。
 ロシア語どころか、英語もさっぱりですので、読み落としがあるのかもしれません。

 さて、残った偕成社版についてですが、これはまだ現物を見ていません。
 しかし原著の結末部分はほぼあかね書房版の通りで、逃げた後のイフチアンドルのことは原著には書かれていません。
 したがって、こちらが完訳である可能性よりも、創作された章が新たに付け加えられた可能性の方が高いという気がします。
 現物を入手されたそうですが、いかがだったでしょうか?

 偕成社版の後半部分については、まだはっきりわかりません。
 私も、創作が付け加えられたのでは? と思っていたのですが、この部分はかなりの量があり、また整合性の点からみて、おかしなところがないのです。

 創作でないとすれば、ロシア語版が何パターンかあるのかもしれません。

 つまり、後半部分は書かれたのだけれど、蛇足であるとしてけずられたものが、オリジナルバージョンとされた、というケースです。
 あるいは雑誌連載時はロングバージョンで、書籍は現在のバージョン、といった可能性が、ないではありません。

 内容的には、整合性や描写におかしな点は見られませんが、ない方がすっきりとまとまりますし、分量的にもほどよくなります。
 偕成社版は、300P強の上下二段組みで、かなりきつきつです。

 現在仕事が忙しいため、研究やHPの更新が滞っておりますが、これらについては後日考えをまとめ、公開したいと考えております。

 そこでお願いなのですが、そのときには、このメールのやりとりを、使わせていただきたいのですが、いかがでしょうか。

細江ひろみ


2003年7月7日  早速の返信ありがとうございます。

 そうですね、確かにロシア語のバージョンが複数ある可能性も否定はできません。今度偕成社版も見てみたいと思います。
 その後、面白いことを発見しました。
 講談社版の木村浩氏と偕成社版の北野純氏って同一人物なんですね。
 国会図書館のホームページで『両棲人間』を検索して見つけました。
 どうりで翻訳がそっくりなわけです。

 ベリャーエフのオンラインテキストは探せばいろいろありますね。
http://www.rusf.ru/books/256.htm
http://lib.ru/RUFANT/BELAEW/
http://www.kulichki.com/
inkwell/fantazy/fantrus/belaew.htm


 ベリャーエフの作品の中で次に気になる作品といえばやっぱり『アリエール(Ариэль)』ですよね。あかね書房版のあとがきでも紹介されていますが、翻訳されればいいのにと思います。

 お送りしたメールの内容はご自由にお使いください。
 真相究明に役立てば幸いです。

syna


2003年7月8日  なるほど!

 講談社版の木村浩氏と偕成社版の北野純氏って同一人物なんですね。

 そんなことだとは、思いもしませんでした。

 HP拝見させていただきました。
 まだ全部読んでませんが、細部まで、なかなか読み応えがあり、楽しませていただきました。また、伺わせていただきます。

細江ひろみ


著作権の保護期間 
投稿者:syna 投稿日:2003/08/28(Thu) 00:00
こんにちは。お仕事ご苦労様です。
 こちらに書き込みをするのは初めてですが
『両棲人間』についてメールを差し上げたことがあります。

『両棲人間』の翻訳についてなんですが、著者が1942年に亡くなっているので、著作権はもう消滅しているのではないですか?
法律が複雑すぎてよく分かりませんが、ロシアでの保護期間は長くても死後50年と考えてよいように思います。いかがでしょうか?

 両棲人間のページ、さらなる充実を期待しています。

 先日は、ありがとうございます 
投稿者:細江ひろみ 投稿日:2003/08/28(Thu) 04:34
いただいたメールは、ぜひ紹介させていただきたいので、しっかり保存してあります。

 著作権については、ざっとですが調べてみました。
 もうしばらく、だめっぽいです。
 ロシアではもういいみたいなんですが、日本は戦争で負けた分だけ、著作権の期間が不利になっている分に、まだひっかかるっぽいのです。
 2013年ぐらいまで。

 あ……、今思いついたのですが、そのページが日本になければいい……のかな? この掲示板部分は、アメリカにあったりします。
 お、この可能性があるなら、キリル文字を勉強しないと!

 両棲人間のページを更新しましたら、こちらからお知らせいたします。


戦時加算? 
投稿者:syna 投稿日:2003/08/28(Thu) 22:24
う~ん、そうですか。ロシアや中国には戦時加算は適用されないと下記のページにあったので、大丈夫かなと思ったんですが。
http://cozylaw.com/copy/
tyosakuken/publicdomain.htm
 とはいえサイトがアメリカにあるならよさそうですよね。
 該当部分だけアメリカ(またはロシア?)の無料サイトに置くとか。

 ぼくは第二外国語でロシア語を取っていたことがありますが、
 単にキリル文字に興味があっただけなので全く身に付いていません。
 もうちょっとしっかり勉強しておけばよかったなと思います。



両棲人間トリビア 
投稿者:syna 投稿日:2004/02/13(Fri) 21:30 No.377
 こんにちは。こちらに書き込むのは久しぶりです。
『両棲人間』についてこんな記事を見つけましたので紹介します。
http://www.litportal.ru/?a=7&b=5658
 それによると、『両棲人間』は1927年に書かれ、1928年にまず三回に分けて『世界めぐり』誌に掲載されたあと、すぐに本として出版されたそうです。
 また、この作品に影響を与えたものとして、ブエノス・アイレスで行なわれた人体実験を報じた新聞記事と、ジャン・ド=ラ=イール(Jean de la Hire)というフランスの小説家の作品が挙げられています。新聞記事のほうは内容も定かではありませんが、アルゼンチンが舞台に選ばれた理由がこれで説明できそうですね。
小説のほうは『水の中で生きられる人間』(L'Homme Qui Peut Vivre dans l'Eau)という作品で、下記のサイトに紹介があります。
http://www.coolfrenchcomics.com/
nyctalope.htm
 いかにもB級な感じがしますが、上から三番目の画像がその小説の表紙で、  まあ確かに『両棲人間』を思わせる絵にはなっています。


 いつも、ありがとうございます。
 というわけで、両棲人間は三回の連載だったことが、わかりました。

 また、『ドウェル教授の首』と『無への跳躍』が収録されている、早川書房の「世界SF全集8 ベリャーエフ」を入手しました。
 この解説でも、両棲人間に関しても触れられていて、こちらにも1928年に復刊された世界めぐり1号から連載が始まったとあります。そしてまた、かなりの数の作品を、この年に発表しているようです。

 そんなわけで、◆DATAを少し書き換えました。

著作権のこと

2004.2.5追記
 調べたところ、結論として、ベリャーエフの著作権は、切れています。
 昔ソ連だったころ、死後二十年目に切れたようです。
 ロシアに対する戦時加算もありません。
 ただし、翻訳版の著作権は別です。

 というわけで、ロシア語の翻訳という無謀に挑戦してみることにしました。

次頁予告

 講談社版入手。いままでで一番高い本になっちゃいました。
 でもそれだけの価値はあったような?

講談社版のこと