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(C)山北篤

第19章 スペオペヒーローズのマスター

 スペオペヒーローズは、スペースオペラの世界を再現するために、ちょっと変わったシステムを使っています。最初は、少々戸惑うかもしれません。何度かプレイしてみれば、これらの一風変わったシステムも、スペオペのスペオペらしさを再現するべく作られた自然なルールだという事が分かるでしょう。
 そこで、スペオペヒーローズのマスターのために、スペオペらしいストーリー構成と、スペオペらしいマスターのコツというものを伝授しましょう。

スペオペは読みましたか

 このRPGは、スペオペするためのものです。ですから、スペオペを1冊も読んだことが無いというマスターは、苦労するかもしれません。
 この場合、一番いいのは、巻末の参考リストを見て、本屋で適当に1~2冊買ってくることです。大丈夫、スペオペは非常に読みやすいので、読むのが遅い人でも2時間もあれば終わります。
 そうすれば、スペオペというものが、どんなものかすぐに分かるでしょう。ここで、何ページ説明するよりも、1冊のスペオペを読むほうが、よっぽどスペオペを理解できるし、手っ取り早いのです。
 ごく少数だと思いますが、それらが、どうしても面白くなかったらどうしたらいいのでしょうか。もしかしたら、その小説だけが、あなたに合わなかったのかも知れません。もう1冊くらいは読んでみましょう。それでも、どうしても面白くなかったら、その時は、スペオペヒーローズをプレイするのは止めたほうがいいかもしれません。あなたはスペオペよりも、もっと違うジャンルのRPGに向いているのかも知れません。
 もちろん、今までにスペオペを読んで、「面白い。私もこういうストーリーをプレイしたい」と思った人は、即座にプレイを始めましょう。スペオペヒーローズは、あなたのためにあります。

スペオペの標準ストーリー

 スペオペには、標準的なストーリーの流れというものが存在します。この流れに乗ってさえ居れば、慣れないマスターでも、それほど破綻を起こさずに、マスターすることが出来ます。それでは、その流れを、起承転結に分けて、分類しましょう。

 まず、「起」ですが、ここで主人公は冒険のネタを掴みます。もちろん、ここを手を抜いて、普通に仕事を受けるパターンや、既に仕事を請け負っているというパターンで始めることも可能ですが、それよりも、ドラマチックな導入の方が面白いでしょう。
 ドラマチックな導入には、主に3つのパターンが有ります。
 まずは、映画の007タイプで、メインストーリーとは何の関係もない短い冒険のクライマックスシーンから始めるというものです。そして、そのアクションシーンを終えて、やれやれといったところで、おもむろにメインストーリーに入ります。
 次は、謎めいた導入タイプです。主人公に秘宝の地図を売った情報屋が殺されたり、依頼だったら仕事を引き受けないように脅迫されたり、依頼人の正体が明らかでなかったりするものです。主人公は、このような導入に、興味を引かれて、冒険に関る訳です。
 最後は、最初から強引に関らされてしまうタイプです。突然宇宙海賊に襲われたり、犯罪者の嫌疑を掛けられたり、最初から捕虜にされていたりするものです。最初から、主人公は窮地に陥ってしまい、どうやって抜け出すかというシナリオです。
 プレイ時間が不足している場合は、ここを省略して「君達は、仕事で○○に来ている。そして、今××しようとしているところだ」と、一挙に「承」から入る方法もあります。
 「起」は、全体の時間の20%ほどを考えておくとよいでしょう。例えば、5時間のセッションならば、1時間ほどです。小説などの「起」よりも長めに取ってありますが、RPGでは、最初の状況説明やキャラクターの自己紹介などに手間取るからです。

 次に、「承」です。ここでは、主人公は、様々な活躍をしますが、なかなかうまく行きません。ようやく見つけた証人を殺されたり、依頼人を誘拐されたり、運んでいる荷物を奪われたりします。
 このようなシーンで、主人公にNHPを稼がせるようにすれば、クライマックスでHPが使い易くなります。そのためには、わざと主人公が成功しそうなロールを行わせて、それを失敗にするのが簡単ですし、プレイヤーを悔しがらせることにも繋がって一石二鳥でしょう。
 NHPを使う場合には、「何故それが失敗したのか」というのを小説ストーリー風に描写すると、ノリが良くなります。例えば、「カチッ。君の銃が火を吹かなくなった。弾切れだ!」とか、「君達は、襲ってきた兵士達を圧倒し始めた。その時、ズギューンという音で振り替えると、依頼者が額を射貫かれて倒れようとしていた。狙撃者だ!」等です。要は、ヒーロー達が「しまった!」と叫ぶシーンを演出すると良い訳です。
 もちろん、地道にストーリーが進むというパターンでもいいのです。けれども、最初のうち何をやってもうまくいかないとか、どんどん窮地に追い込まれていくほうが、面白いし、スペオペのストーリー的にも正しいと思います。こういうストーリーに導くために、NHPを使うのは、お薦めです。
 大丈夫です。どんな窮地に落ちても、ヒーロー達はHPを使って逆転できるのです。ですから、後で心置きなくHPを使うためにも、NHPを使ってあげるのは親切というものです。
 プレイヤー達が、NHPをたくさん受け取るためには、PCが一生懸命活動しなければいけません。活動して、それを失敗にするからNHPを受け取れるのです。逆に、どうせ失敗させられるのだから、何もしなくていいやと、手を抜いているプレイヤーは、NHPを受け取れないので、クライマックスでHPを使いまくった大活躍も出来なくなる訳です(もしくは、HPを使いすぎて経験点が減ってしまいます)。
 そういう意味で、例え失敗するとしても、「承」の時点でPCは一生懸命の活動を行なうべきなのです。マスターは、このことをプレイヤーに示唆してください。
 「承」は、全体時間の50%ほどを考えておきます。この中に、小さなエピソードを3~5つほど入れます。つまり、5時間のセッションで、30~40分ほどのエピソードを何個かで、2~3時間使います。もしも、セッションの時間が短いときは、エピソードを減らして対応します。

 そして、「転」です。ここで、主人公達は逆転のチャンスを掴みます。もちろん、今までに貯めておいた(筈の)NHPを活用すべきときです。
 ここに至ったら、マスターはNHPを多用すべきではありません。どんどんPCに活躍して貰いましょう。今まで溜まった鬱憤(NHP)を、ここで晴らすのです。少々の無茶なアクションくらいは、認めてあげましょう。スペオペを読んでも、クライマックスのヒーローの活躍は、調子良すぎるのですから、スペオペヒーローズのクライマックスでも、同様であるべきです。
 「転」で、NHPを使う場合は、大きく分けて2つです。
 まず、美しくないストーリー進行を食い止めるためです。例えば、雑魚どもを倒す前に、首領が倒れてしまったのでは、首領の意味がありません。ここは、「部下達は倒した。残るはお前だけだ!」とヒーローが宣言する方が、かっこいいストーリーになるでしょう。このような、ストーリーのかっこいい流れを守るためにNHPを使います。
 もう一つは、ラストの危機を盛り上げるためです。悪役が、ヒロインの頭に銃を突き付けて、「ふふふふふ、再び形勢逆転のようだね。さあ、銃を捨ててもらおうか」と憎々しげに笑う等といったシーンを創るために、NHPを使うのは許されるでしょう。もちろん、このような危機はHPを使って突破されるのです。淡々とエンドに向かうよりも、NHPを受けて危機になる、HPを使って突破するとしたほうが、HP使用のバランスは同じで、しかもより面白いストーリーが期待できます。
 ここは、大目に時間を取ります。全体の30%ほどをこれに掛けるとよいでしょう。つまり、1時間以上の盛り上がるシーンを提供します。

 そして、「結」です。ここでは、首領を倒して大団円となるか、さもなければ、首領が逃げて次回に続くか、2つに1つでしょう。中には、『ダーティーペア』のように、シナリオは終わったが、大災害というのも、面白いかもしれません。
 ともかく、今回のシナリオは終了です。終わりらしい描写(クライマックスが深夜だったら朝日が登るなど)をして、セッションを終了します。逃げた首領や、そのまたボスが謎めいた台詞を吐くのも、次回に引いて面白いでしょう。
 「結」でNHPを使うことがあるとしたら、2つです。
 まずは、首領(もしくは幹部など)が脱出する場合です。「はははは、また会おう」とか「おのれおのれ、○○め、必ず復讐してやる」とか言いながら逃げて行く悪役というのは、一つの形式です。
 もう一つは、コメディタッチのスペオペなら、ずっこけシーンで終わるのもいいものです。ついでに、このずっこけシーンのために、NHPを使えば、プレイヤーのボーナスにもなります。セッションの出来が良かったので経験点は満点をあげたいのだけれど、1人が1ポイントだけオーバーしたので経験点が半分になってしまった場合など、その人にNHPを使ってずっこけたシーンをするのです。
 「結」は、10%もあれば十分です。30分ほどで、ストーリーをまとめて、(続くならば)次への引きを配して終わりにします。

NHPを使うべき時

 ゲームマスターのために、NHPの使い時の例をあげておきます。

シナリオの序盤

 スペオペにおいては、シナリオの序盤は主人公が窮地に陥ることが多いようです。
 例えば、「運送している品物を、宇宙海賊に奪われた」「ボディガードをしていたら、守るべき相手が暗殺(誘拐)された」「濡れ衣を着せられて、銀河警察に追われている」など、様々な窮地が主人公を待っています。
 このようなシナリオでは、主人公を窮地に陥れるために、積極的にNHPを使うべきです。もちろん、主人公がロールに失敗するなら使う必要もありません。
 けれども、スペオペらしい演出というものがあります。序盤でわざと難易度低めのロールを行わせ、それを失敗させてNHPを稼がせるという演出をすべきです。
 それによって、キャラクターに鬱憤が溜まります(プレイヤーがNHPを受けます)。そうすれば、クライマックスにおいてキャラクターは鬱憤ばらし(プレイヤーはHPの使用)をして、より大きなカタルシスが得られるわけです。

首領の脱出

 スペオペにおいて、悪人は、よく逃げ出します。もちろん、そのシーンで首領が倒されるのなら、NHPを使う必要はありません。けれども、次回への引きのために、逃げ出してもらわなければならない場合も多いのです。
 特に、首領クラスになると、専用の脱出ポッドを持っていたりします。そこで、クライマックスで、ボスが逃げるシーンを演出するために、NHPを使います。つまり、悪人をあと一歩のところで取り逃がして、次のシナリオに続くというパターンです。
 ただし、ゲームマスターが、自分が作ったNPCを殺されるのが嫌だからNHPを使うのでは、単なるわがままです。あくまでも、ストーリーを面白くするためにのみ使うのだという事を忘れてはいけません。

美しいシーン構成

 スペオペの決まりシーンというものがあります。
 例えば、「悪人がヒロインに銃を突き付けて『さあ、武器を捨ててもらおうか』と言う」シーンや、「足を滑らせて片手でぶら下がったヒーローの手を、『はっはっはっはっは、落ちろ!』と言いながら悪人が踏みつける」シーンなどが、この典型です。このようなシーンに導くために、NHPを使うのは奨励すべきです。逆に、そのNHPの分だけPCがHPを自由に使えるので、そのような危機から脱出できて、バランスは取れるのです。

NHPを使うべきでない時

クライマックス

 クライマックスでは、少々のご都合主義は許されるべきです。スペオペのストーリー自身がご都合主義なのですから、スペオペヒーローズのストーリーがご都合主義だと非難するのは、本末転倒でしょう。

クライマックスの戦闘

 強い奴を倒すために、主人公にHPを使ってもらうべきです。逆に、このようなシーンでは、主人公の強さを思う存分発揮してもらうべきであって、例え1ラウンドで巨大ロボットが破壊されたとしても、素直に「凄い!」と感嘆すべきでしょう。

アクションロールのやり方

難易度の設定

 ストーリーの常道では、クライマックスにこそ、最大の危機がやってくるものと決まっています。ですから、本来なら最初の頃の難易度は低く、クライマックスの難易度は高くなければいけません。
 けれども、RPGでは、最初はうまくいかないで苦闘してもらいたいし、最後には成功してもらわないといけません。ですから、最初の頃の難易度を高めに、クライマックスの難易度を低めにしなければいけませんでした。
 この2つは、矛盾します。
 スペオペヒーローズでは、NHPと無限に使えるHPのおかげで、最初の頃は難易度を低く、クライマックスでは難易度を高くしても、ゲームが破綻しなくなりました。
 ですから、序盤は普段よりも1~2ほど難易度を下げるつもりで、クライマックスは1~2ほど難易度を上げるつもりで、そのくらいのバランスでいいでしょう。

成功レベル

 このゲームでは、成功の度合が決まってきます。ただの成功から、素晴らしい成功まで、いろんなレベルの成功があります。
 でも、判定の際に、常に成功レベルを考える必要はありません。世の中には、成功しさえすればそれでいい行為というのもたくさんあります。例えば、宇宙船を着陸させるには、単に成功すればそれで充分です。わざわざ、成功レベルを決める必要はありません。
 けれども、例えば、効果的成功だったら、着陸時の振動が少なかったとか、着陸マークにぴったり止められたとか、宇宙港の係員が「ほう、うめえなあ」と感心したとかいった描写をすれば、それはそれで意味のあることです。また、壊れたものの修理だったら、修理時間が短くてすんだとか、いろんな利用法はあるはずです。
 つまり、成功レベルは、どうしても使わなければならない時(戦闘時のダメージ倍率など)を除いて、ゲームマスターが、自分の力量に合わせて適宜使えば良いのです。必ずしも、いつもいつも使いつづけなければならないものではありません。

スキルと能力値

 アクションロールは、《能力値》+〈スキル〉+サイコロで決定します。この場合、ゲームマスターは、その行動に最も相応しい能力値とスキルの組み合わせを決めなければいけません。
 例えば、パワープラントが故障している場合、故障の原因を突き止めようとしているのなら、《知性》+〈エネルギー工学〉+サイコロで決定すべきです。しかし、実際に修理する場合、《器用》+〈エネルギー工学〉+サイコロで決定すべきです。
 このように、能力値とスキルの組み合わせは、シチュエーションによって様々に変わります。ただし、何を使ったら良いか悩んだ場合は、ベース能力値を使うとよいでしょう。

オープンダイス

 スペオペヒーローズでは、ゲームマスターのロールは、基本的にオープンダイス(プレイヤーに見えるように振る)で構いません。なぜなら、どんなに凄い目が出たとしても、プレイヤーはヒーローポイントによって、それを無効にできるからです。
 私がマスターをする場合、あらゆるロールは、オープンダイスでやっています。その方が、かえって盛り上がりが期待できます。名もない雑魚キャラが6の目を連発して、PCが大慌てでヒーローポイントによる回避をしたり、主役級敵キャラの目が悪くて、NHPを連発しなければならなかったりするアクシデントも、結構面白いものです。
 もちろん、これはマスターの趣味であって、シークレットダイスが好きなゲームマスターは、そのままで何の問題もありません。

プレイヤーに考えさせない

 スペオペの主人公は、次に何をすべきか悩むことはありません。ただし、次に何をすべきかは分かっているのですが、その方法としてどうすべきかを考えることはあります。
 例えば、事件の手掛かりが目の前にあって、これを追っていくのですが、その追い方について悩むのは良いのです。裏の情報屋に聞くべきか、街で聞き込みをすべきか、それとも専門家に鑑定を依頼すべきか。これは、問題の無い悩み方です。なぜなら、プレイヤーは、次に何をすべきかを知っており、その方法も知っているからです。
 しかし、何の手掛かりも無いので、次に何をしたらいいか分からないというのは、面白い状況ではありません。その場合、ゲームマスターは、どんな方法を使ってでも、ヒントを与えるべきです。それこそ、宇宙のど真ん中で、突然宇宙船同士が衝突しても構いません。無為に時間を過ごすよりも、偶然の導きで走る方が、遥かにスペオペらしいではありませんか。

宇宙は例外に満ちている。しかし、例外は宇宙に満ちていない。


 スペオペ・ヒーローズの宇宙の説明は、第8章にまとめて書かれています。しかし、この説明は、絶対に守らなければならないというものではありません。
 もちろん、一般的には第8章の説明は真実です。しかし、宇宙には例外というものがたくさん有り、しかもスペオペのヒーローは例外にぶち当たる才能を持っています。ですから、そういう例外にシナリオの中で出会っても、ちっともおかしくはないのです。
 注意すべきなのは、その例外が、突然世間の常識になってしまわないようにすることです。
 例えば、コピードライブの性能を、オリジナルと同じにする研究をしていた科学者が居たとしましょう。そして、彼が試作した、新型コピードライブというのものがあるのは構いません(これが例外です)。しかし、その新型コピードライブが、宇宙中に広がってしまうのは、避けるべきです(これが、例外を世間の常識にすべきではないという意味です)。その科学者は死んでしまって秘密は失われたとか、幸運にも試作品は完動したが実用化までには何年もの研究が必要だとか、そのような解決にしておくべきでしょう。


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