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世界についての妄想

ゴブ

 ゴブって何者よ。
 人語と道具を使い集団生活を営む知的生命体。
 ニンゲンが、ほとんど交流なく1万年以上すごしたら、言葉はほぼ通じなくなるだろう。
 今みんなが同じ言葉を話しているのは、ベルーニがベルーニ語を教育したからじゃなかろうか?
 まずは人を集めて働かせた時に。
 その後はテレビで。

 ゴブも同じ言葉を使っている。
 きわめて人に、ニンゲンに近いと言える。
 お話の都合だよ。Fや無印だって、魔族とニンゲン同じ言葉つかってる、なんて終わらせるのはつまらない。

 そして妄想は広がる。

 彼らもまた、古代穏健派の子孫なのだ。
 ファルガイアに残った穏健派は、やがて二派に分裂した。
 その二派の子孫が、ディーンたちを含むニンゲンとゴブ。
 ニンゲンとゴブは、双方その起源を忘れたまま、たびたび衝突しながら代を重ねていた。
 ニンゲンは畑を作り家畜を飼う。
 ゴブは狩猟と採取生活だ。
 ニンゲンの方が栄養状態がよかったため、体格的にゴブの方が小柄になった。
 だがゴブの方が、丈夫で強かった。丈夫で強い者だけが残って代を重ねた。
 ニンゲンとゴブは、にらみ合いながら、種の差を広げながら、存在し続けていた。

 だが、ベルーニがやってきたとき、そのバランスが崩れた。
 最初ニンゲンもゴブも同列にあつかったベルーニだったが、使い勝手はニンゲンの方がよかったのだ。
 支配し労働力を搾取しつつも、ベルーニはニンゲンに文明を与えた。
 ARM、ミーディアム、その他もろもろ。
 ベルーニは、ニンゲンを自分たちのために働かせるためにであっても、力を持たせて各地に連れ出した。
 ベルーニに支配されなかったが、ゴブは魔獣扱いとなり、追い払われた。 ゴブはニンゲンの小さな村を襲い、ニンゲンの力の源である文明の利器を手に入れた。
 ARMやミーディアムは、ゴブには使えなかったが、それ以外の言語を含むさまざまなものを。
 意味がわかろうとわかるまいと、何でもかんでも持ち帰り、自分たちの物とした。

 それでも今ゴブという種族は、風前の灯火だ。もはや南東地方にしか存在しない。
 かつて護りを固めた村を襲うことは、難しかった。
 だが今その村は弱体化している。そんな村を襲って奪うことはできる。
 けれど、ARMやミーディアムで武装したニンゲンには、かなわないのだ。

 

カポブロンコの生活

 隠れ里で、ベルーニの文明が直接は入ってきていない。
 だが、ハニースデイにあるものは、だいたいある。
 隠れ里であることを隠蔽するためにも、ベルーニつまり国営であるショップも、商品を自力調達して、開かれている。
 たぶん谷川から水を引く水道ポンプなんかも、きっちり設置されているはずだ。
 もっともあの地形と周辺環境なら、谷川から水をくみ上げなくても、上流から水を引く事が容易だし、わき水も豊富にあるはずだ。
 畑はハニースデイより、ずっと小さい。段々畑さえなく、山と谷の間のわずかな土地で作物を育てている。
 牛馬という大型家畜を飼育する余裕はないようだ。
 鶏がいるし、保安官は鳥を撃っている。タンパク質はこれらで足りているのだろう。
 一方ARMは数が足りてない。ディーンやレベッカは、ミーディアムを知らなかった。
 ミーディアムによるヒールがなくとも、村の入り口にはヒールベリーがある。
 ベルーニがやってくる前の自給自足の生活+ベルーニの文明のいいところを少しだけ、最低コストで取り込んでいる感じだ。

 村自体の規模や畑を見る限り、カポブロンコはハニースデイ以下の規模だ。
 だが、ディーンはあの年齢ながら、一軒家に一人暮らしだし、食べ物に困ったという話もない。
 一定年齢になったらARMをもらって、村の外にも出るのが通例のようだが、ハニースデイのように村で食えずに働きに出るとか、年貢のかたに労働力を取られるといった悲壮感やうらぶれた感じはない。
 どちらかというと、広い世間を見てくるぜ! かわいい子には旅をさせろ的なものを感じる。
 アップルパイが作れるということは、リンゴも小麦粉もバターも砂糖もあるということだ。
 乳製品であるバターや砂糖は、他の土地の生産物だろう。そして外部から持ち込まれ、ショップで販売される。
 それを買う現金があるということは、村が何かを外部に売って収入を得ていることを意味している。
 まれにやって来る渡り鳥が、村で必需品を買うとしても、それは微々たるものだろう。たぶんディーンが集めているゴーレムパーツじゃなかった鉄くずとか、村で作っている作物の余分を、ミラパルスあたりに売っているのではないかと思う。
 そうした売買は、ショップのダンナがやってるようだ。
 ダンナだけでなく、渡り鳥の中にも、商人がいる。
 荒野で出会う商人兄弟は、ベルーニ直営の商人ではなく、無免許商人・闇商人であるようだ。

 ベルーニに支払う年貢がなければ、生活面はそれで足りているようだ。
 問題があるとすれば、村の規模が小さすぎるために、支えられる人口が少ないのと、そのままだと血が濃くなりすぎてしまう、ということだろうか。
 いくらディーンとレベッカの仲がよくても、そこそこ渡り鳥の血を取り込み、あるいは村人が渡り鳥となって村をでない限り、煮詰まってしまう。
 で、ベルーニがニンゲンが居住地を勝手に変えることを禁じている以上、いわばもはや戸籍のないカポブロンコの人々が村を出るとなったら、定住地のない渡り鳥になるのが基本だろう。

 にしてもディーンやレベッカが村を出る前に、大人たちはもう少し世間のことを教えておけよと思いはする。
 もっともあの大人たちも、ベルーニを頂点とした社会からはだいぶん前に離脱しているみたいだから、今どうなってるかは、よく知らないのかもしれない。
 特にベルーニの間でUbがはやりはじめ、ベルーニ社会が破綻の不安に覆われてからのことは、知らないだろう。
 とすれば、ディーンやレベッカを、あっさり旅に出してしまうカポブロンコの人々が特別剛胆というよりは、鉄道敷設も一段落した後のベルーニの支配は、そこまで警戒する必要もない穏やかなものだったとも、考えられなくもない。