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世界についての妄想

Vの世界に宿がないわけ

 結論から言ってしまえば、ニンゲンが許可なく旅することが禁止されているVのファルガイアに宿がないのは、きわめて当然の話だったりする。

 

 だがベルーニだって旅をするし、トゥエールビットのレストランだかカフェテラスは例外としても、食堂はある。旅人がいないなら、誰が食堂を使うのか?

 まず旅をするベルーニについて考えてみる。
 が、やはり各地で宿が成り立つほどベルーニが頻繁に旅をし、なおかつ旅先で宿を求めているとは、考えにくい。

 一つは、普通の感性を持ったベルーニはベルーニ専用の宿でもなければ、絶対に泊まりたくないはずだからだ。
 ベルーニは渡り鳥の存在を知っている。ニンゲンを舐めて、わざわざ魔獣対策用にARMを支給するぐらいだから、渡り鳥のことも舐めていて黙認しているんだと思う。
 だからこそ、ニンゲンが用意する宿泊施設があれば、渡り鳥が使っていることを知っている。

 で、はっきりいって普通の感性を持ったベルーニなら、ニンゲンが使ったベッドを使うなんて、絶対に嫌であるはずなのだ。
 もちろんニンゲンなんて下等動物と寝床を一緒にしたくない、という感情的なものもあるだろう。
 それよりも優先し、理由を与えてくれるのは、Ubに感染するかもしれない、という恐怖である。
 つまり実際にはどうであれ、印象的にはニンゲンがUbの保菌者でありキャリアで、抵抗力のないベルーニが感染してばたばた倒れ死んでいる、という状況をイメージしないわけにはいかないのだ。
 防護服まで着ておいてニンゲンと同じ宿を使ってたら、意味がない。
 いや実際には防護服、全然Ubの役に立ってないし。それが分かってるから偉いベルーニとバスカーは、ああいうの着てないんだろうし。
 だからそういうこと気にしても意味ないんだけど、命が掛かっていて、その原因がはっきりせず、対処法もわからないとなったら、そりゃあ藁でもつかむし。意味ないって知ってる偉いベルーニたちも、それを言ったら不安をあおり立てるだけだから、そんなこと言わないし。
 あれを脱ぐのは、名目だけでも気密がたもたれて、ニンゲンと分け隔てられた場所のみ。ライラベルでも、ニンゲンがうろうろしているエリアでは、着用がデフォだし。
 RYGS邸がニンゲンが敷居をくぐることまかり成らんのは、そういう意味なのかもしれない。
 となるとファリドゥーンもダイアナも、無意味なのを知ってるけど、ニンゲン禁止というルールは残ってて、それを守ろうとするファリは、まあファリなんだからしかたない。
 Ubが確認される前からRYGS邸はあったような気がするから、それだけじゃないだろうけど。
 まあとにかく、実は普通のベルーニも、防護服が溺れる者の藁にすぎないことは、知っていると思う。実際発病を防げてないだろうし。
 けどわずかでも感染を避けられるなら、あるいは神経参りそうな状況でわずかにでも気休めになるのならと、本当に切羽詰まっているはずで、そういう状況での着用であるはずで。
 その状況で、ニンゲンが使いもする宿で、シーツが取り替えてあってもニンゲンが寝たであろうベッドに寝るのは気分的に嫌だろうということ。
 どうしてもどこかに泊まらなければならないなら、自分のテントで自分の寝袋に潜り込んだ方がマシなんじゃないかと。
 けれどそれも避けたい。長居をすれば食事の問題も出てくるし。まあ弁当持参でもいいけれど。
 まあ全部、発症しちゃったらどうでもいいんだけど、ニンゲンは雑菌でいっぱいで、気持ち悪いという感情は残るかもしれない。
 もっとも雑菌については、ベルーニは耐性があるけどニンゲンはない雑菌を、ベルーニも持ち込んでるとは思うんだけど。

 

 …食堂。
 じゃああれは、誰のための食堂か?
 確認できるのは、ミラパルス、ハニースデイ、トゥエールビット、ハウムード。

 トゥエールビット除けば、住民のためと解釈していいんじゃないかと。
 各家庭に専業主婦がいて、家事に専任できるような状況じゃないはずで。いや文明レベルよっても違うんだけど、大量生産品がなく家電が普及していなければ、生活の維持をするための家事の量が膨大なものになるから、専任でそれをする人がいるんだけど、どうもそうではないらしい。
 テレビがあるなら電気がある。
 電気があるなら電化製品もあるはずで。
 送電線がないから、電池式っぽいものなのかもしれないけれど。

 とにかくベルーニが来ると同時に、大量生産品も電気も家電も、その流通の仕組みも一気に普及したとは思う。
 けどそれは年貢やらそれらの購入費用といった出費の増加でもあったわけで。

 たとえばミラパルス。あそこは男ばっかりの職場で、食堂は社員食堂みたいなものと考えれば、わかりやすい。食べ物を含む生活必需品は、他から仕入れないといけない。
 農村であるハニースデイの場合、あの集合住宅はいわば小作人用住居で、「バストイレキッチン共同」で、あの野外食堂は村人全員のためのものと考えられる。
 でもなければ、何の特産物もない寒村に、まれにふらりとやってくる渡り鳥と、たまの外食のための食堂など、商売として成り立つはずがない。
 ハウムードの食堂はとても立派だ。主な客は住人としても、漁港という性質上、冷凍倉庫もありはすると思うんだけど、年貢だって一括で納めるというわけにはいかず、どうしても頻繁な買い付けや流通が必要になる。そしてそのために外部からやってくる人たちがいるから、利用者も多いんだと思う。
 ニンゲンであっても、そうした仕事に従事し、ベルーニの許可を得て働いている人がいても、おかしくはない。
 ここで気になるのが、その「人たち」にベルーニが含まれるかどうか? いたとして、食堂で食事を取るのかどうか?
 いやそもそもベルーニが、ファルガイア産の作物を口にするのかどうか? 酒は飲んでるみたいだけど、それも一般的なことなのか? いろいろわからないことはあるんだけれど。
 ニンゲンの収穫物の大半が、ニンゲンが消費していても、おかしくはないと思う。
 採掘場しかり。
 あるいは酒ばっかり作ってるゴウノンしかり。
 ライラベルやトゥエールビットのニンゲン人口も少なくはないし、ハウムードだって農作物は仕入れるだろうし。
 ただしハニースデイのような金のなさそうな寒村にまで、海の魚が十分回ってきているかどうかは微妙だけれど。
 なにせ猫が家出してハウムードにいっちゃうぐらいだし。…猫強いな、猫。あいつ本当に普通の猫か? 今に育って、エルバッキーかなんかになるんじゃないのか?

 というわけで、先の結論にたどりつく。

 が、世の中には例外がいくらでもある。

 渡り鳥だって、非合法だろうがなんだろうが、事実存在している。
 なら飯も食うし、人里にたどり着いたらベッドに寝たいのも人情だろう。
 需要があれば供給されるようになるのも世の常だ。
 どんな寒村だって、いや寒村だからこそ、地元で処理しきれないトラブルの解決を、渡り鳥に頼らなければならなくなる。
 …ベルーニ兵、あてにならないし、働いてくれないし。いやベルーニにもそれなりの言えない事情(人口減と弱体化)はあると思うんだけど、だから渡り鳥も黙認状態で。
 ともかく表向き堂々と看板かかげた宿はなくても、民宿状態でも、宿っぽい施設はあるはずで。
 食堂だって、地元民以外利用禁止、なんて固いこと言わないわけで。

 いやそれだけでなく、ちゃんと宿もあるはずで。
 まずライラベルやトゥエールビットのようなベルーニ主体の街なら、ベルーニ専用のホテルがあると思うし。
 それからライラベル。ハンターやその希望者を、全部野宿させるつもりがないなら、ギルドがそういう人たち向けに、宿を提供していてもおかしくない。いやしなかったら、野宿のニンゲンが目障りだって、ベルーニから苦情が出るんじゃないかと思うし。
 それからポンポコ山の、労働者を閉じ込めておく牢も、宿と言えなくも…。それはともかくとして、ベルーニ公認の季節労働者がいたとすれば、そうした労働者が一時的に使う施設なら宿。いやむしろ、強制あるいは騙して連れてきた労働者を、牢同然の名目上宿に閉じ込めて、ご無体なほど高い宿代を絞り上げて、無給どころか借金作らせながらコキ使うなんてことは、ありがちな話で。

 問題は、そうした施設を渡り鳥がどれだけ普通の宿として使えるか?

 まず看板出してないだけの民宿ならば、問題はない。その土地でちょっと地元の人に声をかければ、よほど怪しくなければ、教えてくれるだろう。

 ベルーニの渡り鳥ならベルーニ宿を使えるはずだけど、ベルーニ以外の仲間は拒絶されるかもしれない。いや、荒野のホコリまみれてると、ベルーニでも拒絶されたりして。
 けど教授あたりなら、キャロルと一緒に泊まっちゃいそうだ。
 もちろん教授は渡り鳥じゃないけれど。

 ギルド宿は、もちろんハンター志望者や見習いやハンターでなければ泊めない。というか、最初門戸を広げてたら、ただの渡り鳥が「志望者でーす」って泊まりまくって、条件を厳しくしていったぐらい、ありえそうだ。

 強制労働者用のなんちゃって宿は、労働者狩りに逆らわなければ泊まれるが、そう簡単には抜け出せない。

 というわけで、Vの世界には、宿がない。
 けれど渡り鳥たちは、看板出してない民宿に泊まってる。で、渡り鳥がひっきりなしに訪れ、宿を取るような土地では、民宿といっても普通の宿とほぼ同様の施設がある。
 に、500ギャラ賭けてみる。

 もちろんED後は、民宿も普通の宿として看板を掲げられるようになったし、人の移動も盛んになれば、外部からの客のための食堂も増えるだろう。
 ニンゲンもベルーニも個人の判断と財布の中身に相談しつつ、好きなところへ泊まり好きなものを食べると、大きく変化していきはすると思う。