ナイトバーンがディーンを助けて落石に押しつぶされ、駆けつけようとしたディーンの腕をグレッグが掴む。
その時も、ボクは何もできなかった。
ただ石の下の男を見ていた。
周囲が次第に暗くなり、男の姿が土煙の下に霞んでいく。
あれは、誰だ?
石の下敷きになっている男は。
男に助けられた少年が、男を呼んでいる。
渡り鳥が、少年の腕を引っ張って、危機から引き離す。
小石が雨のように振っている。
大きな落石が、男とボクの間を埋めていく。
まもなくここは、闇に包まれるだろう。
ボクはまた、あの時の夢を見ているのか?
不意に、遠ざかっていく悲痛な叫び声が、ディーンだと気づいて我に返った。
こんな時にボクは、なにをグズグズしてるんだ! 助けなきゃ!
「チャックさんッ! キャッ!」
ナイトバーンに向かって駆け出そうとしたその時、ボクの名を呼ぶ声と、そして小さな悲鳴。
振り向けばキャロルが、倒れこんだまま雨のように降り始めた小石から自分を護ろうと、両腕で頭を抱えている。
ボクは何か考えたり、判断したりしたわけじゃない。
ただ気づいたら、キャロルに向かって走り、出口に向かって一緒に走っていた。
そして闇を抜けだして、真っ白な世界に身を投げ出した。
ほら、誰かを守ることが、ボクにもできるじゃないか。
いいや、ボクがキャロルを助けたんじゃない。
ボクがキャロルに、助けられたんだ。
あの時、ボクはディーンみたいに、すぐには行動できなかった。
しなかった。
ボクは今暗闇の底にいる男に災厄をもたらし、そして見捨てたんだ。