何もない小さな村だというのに、ハニースディには、いつも一人や二人は渡り鳥がいる。
その日はことのほか渡り鳥が多かった。
日暮れ近くに最後の渡り鳥のパーティがやってきたときには、食堂の食材が底つきていたほどだ。
食材の方は、運良くだか悪くだか村を襲ってきた魔獣を襲い返して調達したが、宿の部屋が増えるわけではない。
結局宿は男渡り鳥たちが使い、女渡り鳥たちにはチャックが自分の部屋を明け渡した。
が、寝入る段になって、チャックは失敗したことに気がついた。
男渡り鳥たちは人数が多く、床に雑魚寝状態だ。
暗い中に、男たちが何人も横たわっている情景は、過去のことを否応なくチャックに思い出させてしまう。
眠ろうとして眠れず、眠ることをあきらめて外に出て、とりあえず野外食堂のベンチに座る。
月が明るい。
馬小屋か納屋で寝ることも考えたが、月明かりの下の方がよさそうだ。
宿部屋から、もう一人姿を現す。
体格からして、足の長い渡り鳥のようだ。
「悪いな。あんたの部屋を取っちまって」
どうやらチャックが、男部屋の狭さが嫌になって外に出たとでも思ったようだ。
「いや。もともと暗い場所は苦手でね。よそでも、よく宿から抜け出してる」
怪訝な顔をされたので、笑って返す。
「キミはどうしたんだい?」
足長は、チャックの向かいに座り込んだ。
「俺のツレは二人とも飲まないんで、ちょいと飲もうと思ったのさ」
「残念だったね。ここの店じまいは早いんだ」
「田舎はどこもこんなもんさ。日があるうちに買っておいた。眠れないなら、あんたも一杯いくか?」
足長が、コートの下からボトルを取り出す。
歳相応に見えないチャックの年齢については、すでに話題になって足長も知っている。
「遠慮しとくよ。全然酔わないから、もったいなくてさ。ステータスロックかかってるんだ」
月のミーディアムを持っていることを、足長に説明する。
「装備しっぱなしなのか?」
「お守りだからね。どうもボクの月はボクにとって特別らしい。他のミーディアムを装備する必要がないときは、ずっと身につけてる」
足長は空を見上げる。
「酒が嫌いってんじゃなけりゃ、今夜はあれが見守ってくれるさ」
「それもそうだ。じゃ、お言葉に甘えさせていただくよ」
チャックはもう一度笑ってミーディアムを外し、テーブルの上に置くと、盃を受け取る。
「あんたの仲間はいいやつだな。ロディは、ガキのころからの渡り鳥で、同年代と親しくなる機会が少なかったらしい。口下手なんだが、ありゃ相当喜んでる」
「ディーンも故郷の小さい村には同年代の同性がいなかったとかで、友だちを作るチャンスを逃す気ないのさ。ジェットの方は、ディーンがうるさすぎて困ってるみたいだったけどね」
並んで輝く二つの月を、二人で見上げる。
明日になれば、渡り鳥はそれぞれに飛び立っていく。
「俺はなんだか、前にもあんたたちに会ったような気がしてならないんだが」
「ああ、どこかですれ違ってるかもしれない」
渡り鳥は事情持ちが多い。荒野ですれ違っても、さして相手に踏み込まない。
言葉を交わしても、名も教え合わず別れることが大半だ。
宿で他のパーティと相部屋して語り合う機会など、普通ない。
チャックも、ディーンたちと合流するまでは、ずっと気さくな渡り鳥を演じながら、誰に対しても常に距離を保ってきた。相部屋しなければならない状況なら、その村なり町なりを出て野宿した。
いつも出会った誰かが、再び自分に遭うことがないようにと、祈りながら別れてきた。
「そうだ。次にどこかで会ったらさ、今度はボクに酒を一杯奢らせてくれないかな。ちゃんと用意しとくからさ」
「そりゃいいな。約束だ」
「ああ」と、チャックは気づく。「そうだ。"約束"するよ」
小さなボトルはまもなく空になり、足長は寝るために宿へ戻っていった。
チャックは適当な場所を見繕って横になり、月を見上げる。
誰かとちょっとした約束ができたことが、嬉しかった。
酒用の小さなボトルを手に入れよう。
それから奮発して、足長を驚かせるようないい酒を入れておこう。
グレッグなら詳しいはずだ。
それから……。
穏やかな酔いの中で、チャックはいつしかまどろんでいた。
クロスオーバーで、ザックチャック。
ベースとなる世界が違うと、人間関係まで変わってしまうけれど、ザックチャックは変わり方が甚だしい。CinFだとまだ書いてないが、殴り合いのケンカになる。別にチャックはザックに特別な悪感情もってないんだが、チャックの方が殴りかかる。
5世界だと、和やかなんだが。