ディーンに出会うまでの2年間。オレの心は、凍りついていた。
ヤツを探して世界を巡り、一通りのことは知っていた。
ゴウノンの暮らしが生ぬるいものであったことにも、気がついた。
だが、オレの目に映ったどんな悲劇も、まるでテレビドラマのように、オレとは無縁のものだった。
キャロルは最初、オレをひどく怖がった。
尋常な怖がり方じゃない。
魔獣を恐れぬ少女が、オレに対してはそんな態度を取るのが不思議だった。
テッドと変わらぬ年の少女が、人探しとはいえ一人で荒野を渡る。それだけでも普通の事じゃない。
ああ、この子はテッドと同じぐらいの年なのだと気づき、オレはこの子にとって凶悪な犯罪者にすぎないのだと、いたたまれなくなって帽子を引いた。
その時だ。
キャロルは身をすくめ、両手で自分の頭をかばった。
ひどく震えていた。
「どうした?」
驚いて手を伸ばせば、キャロルはますます萎縮してしゃがみ込み、謝罪の言葉を繰り返す。
その一方、彼女の背中のARMが、オレに狙いを定めて起動する。
まるで彼女を守ろうとでもするように。
仲間たちのとりなしで落ち着いたキャロルは、両親にいじめられていたのだと話してくれた。
オレがキャロルに息子の姿を見たように、キャロルはオレに父親の姿を見ていたのだろう。
ただし、最悪の。
キャロルはきっと、思ったのだろう。
オレが罪状通りの、妻子殺しかもしれないと。
ディーンが根拠もなく、オレについて保証する。
「ゴーレムハンターだって、グレッグのこと信じたんだぜ」
レベッカもだ。
「ハンターの卵、だったけどね。でも、あたしもグレッグは、そんな人じゃないって信じられるよ」
そして、アヴリルも。
「そうですよ。見た目はこわい人ですが、ものごとは見た目どおりではありません。そうですよね? グレッグ」
口々に仲間たちにかばわれたが、オレはそれを否定した。
オレは妻子を殺したヤツだけは許せねえ。ヤツだけは命で罪を贖わせると。
キャロルを怯えさせるとわかっていても、オレはそう言わずにはいられなかった。
だがむしろ、キャロルは落ち着きを取り戻し、オレに対する態度を、もう一度謝った。
オレはずっと、妻子殺しと後ろ指を指されてきた。
そう呼ぶ者に、もはや心を開く気にはなれなかった。
だが初めてオレは、このオレを疑った者に、不憫を感じた。
この子にとっては、それは本当にありうる出来事だったのだ。
南東地方の悲惨さは、すでに知っていた。
親が子を売る事も、そこではありふれた出来事だ。
だが、知っていただけだ。オレとは関係ない話だった。
ニンゲンとベルーニの関係を、知ったつもりになっていたが、所詮自分のこと以外は、他人事に過ぎなかった。