(C)hosoe hiromi
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彼女の笑顔

 キャロルとチャックが付き合っている、しかもうまくいってない。
 そう聞いたあたしは、二人が勘違いされてるなって、そう思った。
 キャロルがチャックをかまうのは、そういうつもりじゃないだろうし、チャックがそれに付き合ってるのも、そういうつもりとは思えない。
 だって、チャックが好きなのはルシルだし、キャロルが好きなのはディーンだし。
 教授だって、キャロルとディーンをくっつけたがって大騒ぎ。
 キャロルは困まりながらも、なんだか嬉しそうだし、ディーンを特別慕ってるのも間違いない。
 だから、キャロルとチャックの付き合いは、恋愛関係とは違うと思ってた。

「チャックさんったら、またなんですよ!」
 けれど気づけば、キャロルはいつも、チャックのことを話してる。
 けれどチャックを問い詰めれば、少し困ったような顔して笑うだけ。
 さらに問い詰めれば、キャロルの気持ちは、わかっていると言い出した。

「ボクもね、キャロルのことが、特別気になるよ。彼女は幸せであって欲しいしね」
 意外だったけど、その言葉は本心だとわかった。
 けどチャックはキャロルに消極的で、そう思ったら全部つながった。
 キャロルが怒るのは、そのせいだ。
「チャック。あんたまさか、まだ自分は疫病神だから身を引こうなんて考えてるわけ?」
 チャックは肩をすくめて笑う。
「ボクは彼女の笑顔を、未だ見ることができないでいるんだよ」
「え?」
「キミたちに対して笑ってる彼女は幸せそうだ。いつのまにかそんな笑顔を、ボクの力で与えたい、ボクに向けて笑って欲しいって、そう思うようになっていた。だけどどうにも、ボクは情けないらしい。怒られるか、心配されているかの、どっちかさ」
 チャックの乾いた笑い声は、自嘲というには、なんだか幸せそうな嘘に見えた。
「ねえレベッカ。キミもキャロルには、彼女に幸せな笑顔をもたらすヒトが相応しいと思わないかい?」
 そして、いたずらっぽい笑顔を浮かべて、こう付け足した。
「ディーンじゃなしにさ」
 片目をつぶられ、あたしは咄嗟にうつむいた。

2011/01/02
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