田舎の小さな村では、村人全体が顔見知りで、プライバシーなど皆無といっていい。
そんなわけで、ディーンたちが、チャックが暗闇を怖がる理由を知ったのも、食堂のおばちゃんからだった。
あんまりな話に、みんなが一斉に後ろに立っていたチャックを振り返れば、彼はへらへら笑いながら、ちょっと困ったような顔で見返していて、無言でそれが本当の話だと認めていた。
そして、何事もなかったかのように、さも最初からそうするつもりだったとでも言うように、ちょっと親友に顔を見せに行ってくると、仲間たちに背を向けた。
向こうを向くまで、もしかしたら背中を見せたその後も、へらへら笑いは、崩さなかった。
いつになく、ディーンは考え込んでいる。
「なあグレッグ。ここの人たちは、みんなチャックの事情を知ってんだよな」
「そうだな」
「オレたちは、知らなかった。なんでチャックは、暗いところがダメな理由を、オレたちに話さなかったんだろう?」
ディーンをじっと見ているグレッグも、少し寂しそうな顔をしていることに、ディーンは気づいた。
きっとオレもだと、そう思った。
チャックに家族がいないことは、知っていた。
ディーンだってそうだ。
そして小さな村で、友だちがいて、ゴーレムが好きで、ゴーレムハンターに憧れた。
境遇が似ていることが、理由もなく嬉しかった。
二人の違いは、チャックの方の生活が厳しくて、チャックの方が友だちが多くて、チャックの方が世間を知っていて、そしてチャックはゴーレムハンターに成る所まで行ったことだ。
だいたい全部知ってると、なんとなく思ってた。
両親のことについては、ディーンはたずねた事も、チャックにたずねられた事もなかったし、自分を疫病神と思い込んでいたとしても、それはもう過去のことになったんだと、ディーンは思い込んでいた。
「もちろん、いきなり話すようなことじゃない。けど、チャックは暗がりに一人残されることを嫌がった。オレ、特別な理由があるなんて、思わなかった。けど、ちゃんとした理由があるなら、チャックの口から聞きたかった。ここじゃみんな、オレよりチャックのこと、知ってるんだ」
「ディーン。そう思うなら、なんでさっき、直接チャックにそう言わなかったんだ?」
「なんか、聞けなかった」
ディーンにしては、歯切れが悪い。
グレッグは、そんなディーンを見て、いとおしくなる。
考えなしに行動していたディーンも、ずいぶん考えるようになった。
成長しているのだ。
「どうしてだ?」
グレッグは、ディーンの考え事の後押しをしてやる。
「話さなかったのは、話したくなかったからかなって。でも、オレとチャックは友だちだろ?」
見上げてくるディーンの眼差しを、グレッグはしっかりと受け止める。
「ああ、お前はチャックを気づかって、聞けなかった。友だちだからだ。チャックもそうなのかもしれん。つらい話で、オレたちを傷つけると思ったのか、あるいは」
「あるいは?」
言葉を止めたグレッグを、ディーンがせかす。
「つらすぎる事は、口にできねぇ。聞いて欲しい、叫びたいってな気持ちは、荒れ狂うほどあったとしても、それで身が張り裂けそうになっていても、言葉にならねぇんだ。だからオレはそれを、ゴーレムにぶつけた。ゴーレムクラッシュの理由を、チャックに聞かれるまで話せなかった。話しても信じてもらえやしねぇってのは、口にできん自分への言い訳にすぎなかった」
「じゃあそれを話すことができたグレッグは、それを乗り越えたんだな」
「いや、今もう一度話せと言われても、できんな。むしろなんであの時しゃべっちまったんだか」
ディーンの目にうつるグレッグの瞳は、さっきのへらへら笑っていたチャックのそれと同じで、ひどく寂しそうに見えた。
「グレッグ、あの後チャックと別れた時、チャックは自分と同じだって言ったよな」
「そんなことを、オレが言ったか?」
「言った。正確に言った言葉を覚えてるわけじゃないけど、言った」
「そうか」
「だから今度は、グレッグがチャックに聞いてやってくれよ」
「その必要はねぇ」
即答された素っ気ない言葉に、ディーンは驚く。
「なんでだよッ!」
「ここには、チャックが自分で取り戻した、つらい事情も知っている幼なじみの親友がいる。そして旅の間はお前がいる。この村の連中が知らんチャックの事を、お前はこれからも知っていく。チャックが話せるようになり、話を誰かに聞いて欲しくなったら、きっとお前にはわかる。その時に友人として聞いてやればいい。」
グレッグがそうだろう? と、うながせば、ディーンもしっかりうなずいた。