最近キャロルは、チャックが夜中、一人で宿を抜け出しているのに気がついた。
どうせまた暗くて眠れず、どこかで時間をつぶしているのだろうと思ったが、ある日心配になって、こっそり後をつけてみた。
まあ、当然といえば当然なのだが、チャックは夜でも明るい場所、つまり夜遅くまでやっている食堂にいた。
食堂といっても、夜は酒場に様変わりする。
そんな酒場に入ってきた女の子に、客たちは一斉に目を向ける。
いつもなら、そんな視線を浴びせかけられたら、びくびくしてしまうキャロルだが、今回ばかりは酒場の客たるチャックの背中を睨みつけながら、ずんずんと大股で近づいた。
みんながキャロルに気づいているのに、全然気づいてないチャックに向かって、声を張り上げる。
「チャックさん! 未成年なのに、お酒なんて飲んじゃダメじゃないですかッ!」
真後ろからいきなり叫べば、チャックは髪の毛を逆立てんばかりに、驚いた。
「うわッ! えっ? えっと」
驚き、きょときょとし、それから振り返って、チャックはやっと状況を把握した。
そして、ひどく申し訳なさそうに、キャロルに弁解する。
「キャロル、ボク二十歳過ぎてるんだけど」
「いつ二十歳過ぎたんですかッ!」
「えーっと、半月ぐらい前に」
今度はキャロルがきょとんとし、それから顔をくしゃりとゆがめると、まなじりから光るものを次々とこぼしはじめる。
そして人目もはばからず、わんわん泣き出す。
「うあーん! どうしてご自分の誕生日を、おっしゃってくださらなかったんですかぁ! チャックさんだって、私の誕生日には、おめでとうって言ってくださったじゃないですかぁ! 私もチャックさんの誕生日に、おめでとうって言いたかったですぅッ! うわ~んッ!」
「ご、ごめん! ごめんよキャロル」
二人は酒場の喧噪の片隅で、ケーキとジュースでお祝いした。