ファルガイアに帰還した古代強硬派の子孫は、本格的な移住を前にして、まずその綿密な調査に手をつけた。
一万を越える年月の間に何があったのか?
どんな変化が起きているのか?
そして何よりも、一族の母たり人柱としてこの地に残った伝説のジョニー・アップルシード。アヴリル・ヴァン・フルールはいずこか?
彼女は堅い護りの中にあり、理論上はまだ眠り続けているはずだ。
が、一万を超える年月は、いかなる状況をも引き起こす。彼女は無事なのか?
彼女が眠る地は、旅立つ者にさえ秘されていたため、探索は困難を極めた。
古代穏健派の子孫たちが、何か手がかりを知っているかもしれない。
たとえそれが、彼女を見つけ滅したという手がかりであったとしても。
だが彼らは文明を失っただけでなく、彼らが忌み嫌ったアヴリルないしリリティアの名さえ忘れていた。
残っているのは酒としてのジョニー・アップルシードだけだ。
曖昧な伝承としてのみ残る歴史の中にも、彼女とおぼしき登場人物はない。
それはまあいい、とエルヴィスは考える。
古代強硬派は、万を超す年月を耐えうる建造物の記録について、しっかりと記録に残し、そしてエルヴィスの手に渡るまでその子孫は代々保持してきた。
それ以外の遺跡は、強硬派が星を離れた後に建造された、古代穏健派の手によるものだ。
調査した限り、古代穏健派が一時期にしろ、より高度な文明を築いた形跡はない。ならば、彼女の封印を破る術も、なかったはずだ。
彼らが彼女を発見できないまま忘れてしまったなら、むしろ行幸。
手がかりは古代から伝わる記録の中から、見つけ出すことができるはずだ。
古代穏健派の子孫たちは、エルヴィスにとっては、もはや異質だった。
長い年月の間に双方に体質的、精神的な違いが現れているであろうことは、到着前から予想していた。
だが知識の欠落、その原因である無関心は、エルヴィスにはどうにも受け入れられなかった。
狩りと農耕による自給自足の小さな集落に閉じ籠もり、知識と人の交流は、渡り鳥と呼ばれる少数の旅人たちに限られる。
古代穏健派の子孫たちは、エルヴィスのことも、遠くからやって来た渡り鳥だと思ったようだ。
その誤解を解こうにも、古代の文明や宇宙の旅は、彼らの理解の範囲を大きく超えていた。
詳しく教えようとしても、自分たちの暮らしに直接関係ないことに耳を貸そうとしなかった。
大地に密着し、自然と一体となった暮らしという彼らのお題目は実現している。
だがそのお題目も、そのために必要な惑星規模で世界を見透す技術も知識も失い、星の僅かな恵みにしがみついて流されながら生き、自然災害や疫病といった災厄の訪れには抵抗する術もない。
ならばその存在は、もはや動物に等しいとしか言いようがない。
エルヴィスはあきれ果て、そして独自の調査を続けていった。
ミーディアムの存在に気づいたのは間もなくだ。
それは彼らにとって、世界を支える六柱の守護獣であったが、エルヴィスが見たところ彼らには過ぎたるオーバーテクノロジーの存在。
そして長い交渉と説得の末、手に入れ調べ驚いた。
まさしくアヴリル自身の手になるものだったからだ。
だが、古代強硬派側には、これに関する記録が残されていない。
ミーディアムを研究し、まったく同じものを作り出してみたが、古代穏健派の子孫が使うそれを、古代強硬派の子孫たちは、同じように使うことはできなかった。
エルヴィスは歯がみする。
いかに古代強硬派の子孫たるエルヴィスたちが、古代穏健派側の子孫たちと比べ、数段上の文明を維持し、記録を保持していようが、古代文明に及ぶものではない。
だからこその、母なる星への帰還なのだ。
ミーディアムの存在は古代強硬派の子孫たちを、そしてエルヴィスが作り出したその複製は、古代穏健派の子孫たちを、大きく変えていった。
その存在の真意をエルヴィスが知るまでに、
六つのオリジナルミーディアムが、ある六人の手に渡り、世界を未来へと繋ぐまで、
さらに百年近い年月が経過することになる。