(C)hosoe hiromi
◆WA5 >  ◆短編一覧


闇を照らす

 最愛の女を失った時、俺は自ら闇を求めた。
 復讐しようと決めたのさ。
 俺が掲げた灯火は、背負った闇に明るく映えた。
 それまで俺に見向きもしなかった連中が、羽虫のようにうようよと、希望の灯を手にするつもりで、俺の手の中に集まった。

 俺を信じた連中を、俺は嗤って裏切った。
 ニンゲンの絶望だけが、乾いた喉をうるおした。
 だが俺の渇きは、絶えることがついぞなかった。

 ああ、お前らにもう先はない。苦しみぬいて死ぬだけだ。
 別にお前ら自身に怨みなんぞ持っちゃいないし、これといった理由もない。
 だが同じ理不尽を、ファルガイアは問答無用でベルーニに突き付けたんだ。
 ベルーニにとっちゃ、このファルガイアこそが希望の地だったってのによ。
 ニンゲンの俺とベルーニのアイツが、歩み寄れると信じたのにだ。
 なら、公平にいこうじゃねーか。
 ファルガイアがベルーニを滅ぼすんなら、俺がニンゲン全部を道連れにして滅んでやる。
 この地に生き残るのは、ニンゲンでもベルーニでもない、あいつ一人で充分だ。
 その後のことなんぞ、知るものか。

 ディーン・スタークも、偽りの希望に群がる虫の一匹にすぎなかった。
 だが、闇の中に踏み込んできたヤツは、まさしく太陽だったんだ。
 俺の作り出した闇の世界が、真昼の光に照らし出された。
 闇の装いを剥ぎ取られ、俺はみすぼらしい姿を、ヤツにさらした。
 よく見ろッ! これがお前らの信じた希望の真実だッ!
 手を俺の血で染めて、希望の息の根をその手で止めろッ!
 それが嫌なら、希望を偽りと認めてみせろ。俺が絶望を与えてやるッ!
 ヤツは、歩みを止めようとはしなかった。
 だから俺は、もう一度未来ってやつを、信じてみたくなったんだ。

 太陽の輝きを目の当たりにして、俺はひととき闇を忘れた。
 だが、俺は闇だ。それは、俺自身が選んだことだ。
 光に手を伸ばせば消えるしかねえ。
 それでも俺は、光を求めずにはいられなかった。

 予想外に生き延びて、愛する女も再び得て、やり直せるかと思ったさ。
 だがかつて見た夢をたぐろうと振り返り、己の闇の大きさに圧倒された。
 そしてやっと、闇の中で陽の光を受けて輝く月に気がついた。
 俺が裏切り踏みにじり、未来を奪った連中の先頭に、チャックが立っていたんだよ。

 ああ、今度は俺が復讐されるのか。
 ところがあいつは、俺を見さえしなかった。
 かつて俺が夢に見て、そして憎んだ道の先を、ディーンと一緒に目指していた。
 だがすがる思いで伸ばした手は、拒絶されはしなかった。

◆短編一覧