(C)hosoe hiromi
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話せないこと

 大ほら吹きのナイトバーンが、採掘場を手に入れた。
 みんなは鼻で笑い、耳を疑い、眉に唾をつけてから、目を見張った。
 それが本当だってわかって、暮らしが楽になるって喜んだ。
 けれど以前より、仕事が増えて報酬が減るってわかって、期待して損したって言い出した。

 だけど父さんは、畑だって開墾する時が一番大変だって、ボクに言った。
 ナイトバーンならきっとやりとげるから、彼の元で働くことしかできなくても、協力するんだって。
 厳しくてもやりがいがある仕事だって、しばらく我慢しようって、笑って出稼ぎに行ったんだ。

 採掘場で父さんをなくし、ますます生活が苦しくなっても、母さんもナイトバーンのことを悪く言わなかった。
 父さんは運が悪かっただけで、それは誰のせいでもないからって。
 ボクのせいでもないからって。
 家族三人が食べるにさえ足らなかった家の畑は、父さんをなくしてから切り売りして、ますます小さくなっていた。

 かつてナイトバーンが話してくれたゴーレムハンターを、ボクは夢見た。
 けれど母さんが奉公に出るか、ボクが出稼ぎに行くか、あるいはその両方が現実だ。
 母さんは、ボクが絶望することを恐れていた。
 いずれ村を出て彼の仕事を手伝えるよう、元気にならなきゃねって。
 励まさたボクは、ただ笑みをつくって頷いた。
 ボクはとっくに絶望していて、それでも笑みを作り、形だけの希望にすがったんだ。
 亡くなる時まで、母さんもナイトバーンのことを、信じてた。

 父さんも母さんも、ナイトバーンに憧れていたボクに言ったのさ。
 この地方の苦しみをパッと取り除く魔法の呪文なんて、ありはしない。
 ナイトバーンが語った希望は、大勢の人の手で支えなければ、実現しないんだって。
 それは大変なことなんだって。

 ボクはナイトバーンを、そして父さんと母さんの言葉を信じたかった。
 だけど親友がナイトバーンを頼って村を出る時、何も言えなかったんだ。

 憧れだったナイトバーン。
 ひどいヤツだった。

 けど、ボクほどじゃない。

 今の彼に、父さんと母さんが最後までキミを信じていたと話せば、彼はひどく苦しむだろう。
 なのにボクは、それを話せないでいる。

100204
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