(C)hosoe hiromi
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道具

「お前はなぜ、我を許せるのだ」
 問う。だがファリドゥーンのヴォルスングに対する敬愛に、疑いはない。
「あなたの罪は、私の罪です」
 その穏やかな、そして優しく包み込むような声に、ヴォルスングの胸が詰まる。
「我はお前を、道具として利用したにすぎぬ。道具に罪があろうものか」
 顔をそらしたまま、事実を述べる。
「それこそが私の罪です。私は道具としてではなく私として、あなたの前にあるべきでした」
 ファリドゥーンは、ヴォルスングに並んで座る。
 そしてヴォルスングは、暖かな腕に肩を抱かれ、驚き顔を上げる。
「もう、お一人ではありません」
 溜め込んでいた涙が、頬をつたった。
 寂しかった。子どものころからずっとずっと寂しかった。
 けれど物心ついたときにはすでに両親にさえ涙を見せられず、泣くときはいつも隠れ、声を殺して泣いていた。
 ヴォルスングは今子どものように顔をゆがめて嗚咽を漏らし、涙で濡れた頬をファリドゥーンに晒す。
 やってきたルシルは、一瞬驚いたようだったが、彼女も微笑んでヴォルスングの隣に座り肩をよせた。

091226
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