(C)hosoe hiromi
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死神

 彼の手がボクの首にかかる。
 恐くて悲しくて嫌でならなくて、ボクはイきそうになる。
 軽い一ひねりで、頭のない身体を見上げながら、ボクは落ちていく。
 吹き出す血を浴び、全てが赤く染まっていく。
 やがてボクの頭が、土の上にぼとりと落ちる。
 少しばかりバウンドして動きを止める。
 土にまみれ、追ってきた血を浴びる。
 身体も、出来たばかりの血溜りに崩れ落ちる。
 ボクはボクの、暖かな血に包まれ、安堵する。
 温もりは急激に失われつつあるけれど、それより先にボクの意識もなくなるはずさ。
 血にまみれたその手を掲げ笑っている彼が、ぼやけた視界の片隅にうつる。
 耳に入ってくるのはぼこぼこと血が泡立つ奇妙な音だけで、彼の声が聞こえないのは残念だけど、彼はとても嬉しそうだ。
 すぐに音も途切れ、遠くなっていく。
 世界から、光も音も温もりも消えて行く。
 静寂にボクは溶け、存在を失っていく。
 それが嬉しいくて、ボクはきっと微笑んでいる。

 もう夢の中に戻れないと気づいて、切なさがこみ上げる。
 そんな自分がイヤでならない。
 彼がそんな風に、あっさり殺さないことも、わかっている。
 けれど彼は、最初から最後まで、ずっと死神のままだった。
 迷いもなく傷つくこともなく慈悲もなく、ただ死をまき散らす。
 ははは、バカげた話さ。
 彼の最後を、この目で見た。
 彼は自分勝手な人として、自分で自分を殺したんだ。

 けれど今でも夢に見る。
 疫病神など逃避にすぎないと、死神がボクを嗤う。
 生ききることも、死ぬこともできない、ただのヘタレだと。
 ボクはまったくその通りだと笑いながら、夢と知って彼に近づき、そして彼はボクの首に手をかける。
 そして少しばかりの嘘の死を、ボクは夢の中で楽しむんだ。

091226


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