アヴリルへ
強硬派は宇宙へ、お前が未来へ旅立って、ファルガイアはずいぶんさみしくなりました。
温暖化しつつあった気候は寒冷化にうつり、穏健派の科学者たちによると、文明によって退けられていた氷河期が、地表を覆いつつあるとのことです。
寒い冬をしのぐために、もはや都市を暖めるセントラルヒーティングはありませんが、掘りごたつと火鉢でしのいでいます。ですが火鉢に使う炭は、日々手に入りにくくなっています。
寒い日には、いつも氷のように冷たかったお前の指先のことを、思い出します。
お前の眠る棺のある墓所に、目覚めた時に使えるよう、これらの品々を収めます。
はんてん、手袋、マフラー、みみあてつき帽子、セーター、ももひき、厚手の靴下、白金カイロ、ハラマキ、湯たんぽ。みかん。
靴下は、冷え性に効果があるという唐辛子成分入りです。昔のようなヒートテク衣類はありませんが、穏健派の作り出すものもなかなか風情があるので、使ってください。
みかんは、冷凍みかんになっているはずですから、解凍して焼きみかんにして食べてください。焼きみかんは、冷え性に効くそうです。
かあちゃんより
「これには、氷の女王たるわたくしの身を案ずる者からの貢ぎ物について、書かれています」
「ファルガイアに残った穏健派の方にも、アヴリルさんを好きな方が、いらしたんですね」
キャロルの言葉に、アヴリルはニッコリと、微笑んで見せた。