キャロルは、子どもたちに囲まれたチャックを見て、ただ驚いた。
たぶん警戒する必要がないからだろう。チャックが、ネコと幼い子どもとお婆ちゃんに好かれやすいことは知っている。けれど今日は、少々様子が違った。子どもたちは、次々競ってチャックを取り合っている。
子どもたちの真ん中に座り込んだチャックは、キャロルに気づいて、助けを求めるかのようにヘラヘラ笑いながら見上げてきた。
「いや、似顔絵描いてあげたら、全員分描くことになっちゃって。あと三人だから」
キャロルがチャックを捜しに来たのは、もう出発だというのにチャックがなかなか来なかったからだ。
なぜ来なかったのかは理解できたが、チャックと似顔絵という組み合わせには、単純に驚いた。
驚きついでに鉛筆を走らせるチャックの背後から覗き込んでみれば、絵は微妙だった。
上手いとは言い難いが、下手とも言い難く、ビミョーとしか言いようがない。
構図も真正面からただ顔を描いたというだけで、何の工夫もない。ただそこに顔があるだけだ。
が、特徴は掴んでいる。
誰が見てもちゃんと当人だとわかる。
けれど、それ以上でもなくそれ以下でもなく、それだけだった。
それでも子どもたちには、受けているようだ。
「わかりました。あと三人ですね」
その三人を描いている間に、希望者が二人ほど増えてしまう。キャロルもダメとは言えず、ついに戻ってこないキャロルとチャックを探してディーンたちまでやってきて、さらに三人ほど増えてしまった。
もちろんディーンとレベッカとアヴリルだ。
キャロルはそれ以上増えなかったことにホッとした。
その夜、キャロルは出発がひどく遅れたことを説教しようと、チャックを捕まえた。
「え? キャロルも描いて欲しいの? 見ての通り、ボクの絵は上手くはないよ」
最近チャックに話しかけるだけで、説教されるのだと思い込まれているのに、こんな時だけこんなことを言う。
なのになぜか、キャロルはチャックの向かいに座り込んで、似顔絵を描いてもらってしまっていた。
「これが私ですか?」
「だから、あんまり上手くないって」
できあがった絵を受け取って、すでに説教くらうモードでヘラヘラ笑って言い訳をするチャックに向かって、隠しもせずにため息をつく。
確かに自分だ。
けれどなんていうか、可愛くない。
チャックには自分が、こんな風に見えているということだろう。
せっかく描いてもらったが、嬉しくない。
「上手いもんだと思うぜ?」
突然後ろからグレッグに声をかけられ、飛び上がる。
「どうも可愛く描けなくてね」
「ハンターが、可愛い似顔絵を描いてちゃ、仕事にならねぇからな」
「あ……」
キャロルが手元の絵とチャックを交互に見比べると、チャックは大げさに肩をすくめた。。
「ギルドの試験に、似顔絵描きってのもあってね。犯人の写真があるとは限らないからさ」
グレッグがニヤリと笑って、キャロルの手からスケッチブックを取り上げ、チャックに渡す。
「ならチャック。オレが目撃者になってやる。オレの言う通りに描いてみてくれ」
「なんだい? もうキミには、仇の似顔絵なんか必要ないだろ?」
「いいから描け。まず、年のころは12才。いや10才ぐらいに見える女の子だ」
キャロルが目を丸くしているうちに、チャックはグレッグに向かってニッと笑い、そして鉛筆を走らせはじめた。
「チャックってば、キャロルばっかり、ずいぶん可愛く描いたじゃない?」
「わたくしたちの絵よりも、ずいぶん手をかけたようですね」
「はわわ! こ、これはグレッグさんのおかげでして」
キャロルはレベッカとアヴリルに言い訳しつつ、その絵を見ていると、絵の中の自分同様、ホホがほころんでくるのを、止められなかった。