(C)hosoe hiromi
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暗闇の中で

 そう、暗闇の中で、喉がつぶれるまで助けを求めて泣き叫んだ。
 喉をひどく痛めてたから、たぶんそれは夢じゃないんだろう。
 けれど喉を痛めた記憶も、夢かもしれない。

 そう、暗闇の中で、素手で父さんを掘り起こそうとした。
 指もぼろぼろになってたから、それも夢じゃないんだろう。
 けれど痛んだ指を見て、そう思い込んだだけかもしれない。

 誰かの声を聞いたような気もするけれど、ボクはそこへたどり着けず、ずっと暗闇の中にいた。
 そして、その後で、いったいどれほどの時間が経ったのかわからないけど、ボクは全てをあきらめた。

 もう父さんは死んでしまった。
 そして、ボクも助からない。
 この暗闇の中で、ボクは死ぬんだ。

 死ぬんだなって思った時、ホッとした。
 母さんに迷惑をかけずにすむって、そう思った。
 ボクが大怪我をしたことは、わかってたから。
 母さんを悲しませてしまう。
 けど、怪我人を抱えた家がどうなるかも、知ってたんだ。

 ボクはひどく穏やかな気持ちで、死を待っていた。
 それも夢かも知れない。
 最初ひどく恐かったけど、あきらめたら恐くなくなった。
 それだって夢かもしれない。
 けれど父さんと、父さんの仲間たちと、ボクは一緒に行くんだ。

 たくさん、夢を見た。
 あきらめる前に感じた怖さを、幾度も夢に見た。
 ああ、怖いっていうのは、生きたいって思うから感じるんだね。
 ボクは生きたいって想う夢を、幾度も見たんだ。

 暗闇の中に父さんたちがいる。
 ボクが生きることを終えたなら、痛みからも孤独からも逃れ、ボクは父さんと一緒になる。
 それまでは、時が来るまで、じっと待ってなきゃいけないんだ。

 そして気づくとボクは明るい中にいた。
 母さんは喜んでくれたし、ボクも生きて母さんの所へ帰ることができたことが、嬉しくなかったわけじゃない。
 けど母さんは、ボクのせいで働きすぎて死んだのさ。
 ボクは暗闇への恐怖を抱えたまま、生き続けてる。
 怖い。怖いよ。
 暗闇が怖い。
 暗闇をもたらすボクが怖い。
 そう、これは夢なんだ。ずっと夢を見てるんだ。
 生きたいっていう夢を見てる。

 あの暗闇の中で感じた安堵を、ボクは忘れていないのに、手が届かない。
 怖くて手を伸ばすことさえできないのさ。
 なさけなくてならないよ。

091027

 希望は絶望の始まり。
 ハニースデイの村人は、そう言った。

 チャックの気弱であきらめがちっていうのあ、後天的なものだと思う。
 本来脳天気で、前向きで、あきらめるってこととは無縁で、次々夢を見て、そのために歩を進めて。
 キャロルやロディの逆っていうのは、そういう意味。
 楽天的なんだ。
 新しいスタートを切るときに、ビクビクしたりはしなかった。
 見知らぬ場所、見知らぬ人、うまくいかなくても、そうそうめげたりしなかった。
 カポブロンコを出たばかりのディーンがそうであったように。
 けれど、世の中にはどうしようもないこともあって、その一つは、死んだ人は取り返せないということで、そんなことはわかっていても、あきらめきれずに苦しんで苦しんで。
 そして暗闇の中で、あきらめた。
 父さんは死んだんだって。
 自分も助からないんだって。

 そのとき、セレスドゥに抱き取られた。

 チャックは怖い。暗闇と、自分が周囲にもたらす災厄が。

  希望は絶望の始まりが、そのままチャックの人生で、それでも絶望に背を向け希望に手を伸ばし続ける。それがどこへ至るか、知っていてなお。
 人は誰でも、あの暗闇にたどりつくはずだから。
 本当に? 疫病神になっても人として、あの暗闇に帰れるんだろうか?
 この身も心も粉砕され、このファルガイアの大地とまじりあい、消えてしまえばいいものを。

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