(C)hosoe hiromi
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行き倒れ

 気づくと、いつもディーンの姿を、目で追っていた。
「あはは! わかるよ。ディーンからは目が離せないね」
 以前オレを追っていたハンターが、今はオレの隣を歩きながら、そう笑う。
 ディーンに関わってから、あの日止まったオレの時間は、少しづつ動き始めていた。



 荒野の道行き。いつものように、ふいにディーンが何かを見つけ、大喜びで飛び出していく。
 珍しいことに、チャックもオレの隣から飛び出して、ディーンを追いかける。
 オレは、チャックがそうした理由に気がついた。
 たぶん、そうだ。
 ディーンを含めこいつらは、ああいうものには、慣れていない。
 オレはディーンを追おうとする、他の仲間たちを止めていた。

 チャックと二人で、亡骸を検める。
 だが亡骸はすでに傷み、死因も生前の顔立ちもわからない。
 ARMも旅の荷物も失われてしまっている。
 残ったわずかな手がかりから、ありふれた渡り鳥だったのだろう、とは思う。
 どこかでこいつを待っているヤツがいるとしても、知らせる術は何もない。



 目の前で無残に散った妻子を、想い出さずにはいられない。
 二人をそのままにして、オレは町を飛び出した。
 義父が、町の者たちが、二人を丁重に葬ったと、噂に聞いた。
 だが義父は、かたくなに墓に参ろうとはしないという。
 二人の死を、受け入れたくはないのだ。
 オレと、同じように。

 死んだら、ただ腐っていくだけの肉と骨の塊だ。
 笑いもしない、怒りもしない、泣きもしない。
 少しの価値も、残っちゃいない。
 腐った肉が、愛する者の最後の想い出になる前に、埋めてやってくれ。
 だが愛しき者たちが、変わり果てた姿で、墓の下にいるなぞと、考えたくはない。
 そこにあるのは、意味を失った抜け殻だ。
 そしてオレは、ヤツをそんなもんに変えるために、ゴウノンを飛び出した。



 旅の間、死体を飽きるほど見た。
 どいつもこいつも、オレには腐っていくだけの、肉の塊にすぎなかった。

 しかし仲間たちと共に、見知らぬ誰かの抜け殻に出会った時、オレは肉の塊を、哀れんでいる自分に気がついた。

 チャックは、まるで愛おしむように、亡骸を丁重に扱っている。
 持ち物を検める時も、まるで怪我人にするかのように。
 その後も、手足を揃え、ボロと化した衣服を整え。
 オレはメリーにもテッドにも、そうしてやりもせず、町を飛び出した。
 肉の塊となった、愛しき者たち。
「やらせてくれ」
 オレの言葉に顔を上げたチャックは、泣きそうな笑顔を浮かべていた。

 義父に罪を疑われたからなのか?
 一刻も早く、ヤツを追いたかったからなのか?
 オレはその足で、ゴウノンを飛び出した。
 だがオレは、メリーとテッドを葬るまで、町に留まるべきだった。
 留まっていれば、無実も証明できただろう。
 だが、何をしたって愛しき者は取り戻せない。この世界のどこにも、もう二人はいない。オレの無実を証明して、それが何になる? それで何が取り戻せる?
 オレにとっても、義父にとっても、メリーとテッドにとっても。
 墓など形ばかりであり、花も祈りにも意味はない。

 だがディーンと出会い、時が動き始めたと気づくまもなく、オレは二人の墓に向かっていた。
 奇しくもその日は、義父が初めて墓に参った、その日でもあったらしい。
 互いにとって、楽しい再会ではなかったが、メリーとテッドが、引き合わせてくれたのか? と、そんなことを考えた。

 壊されたメリーとテッドの亡骸から、オレは目を背けていた。
 そのまま二人を放置して、オレは町を飛び出した。
 オレの手で、丁重に清め、葬ってやればよかったと、今更ながら考える。
 せめてこの見知らぬ渡り鳥を哀れみ、葬ろう。

 チャックが大地に穿った穴に亡骸を納め、土の毛布をかけてやれば、
 荒野に咲く花を手に、子どもたちがやってきた。
 

09/04/05
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