その日私は、グレッグさんやチャックさんが、私たちの後ろを歩いていることが多いのは、私たちを見守るためだと、気づきました。
私たちは、いつものように荒野を渡っていました。
ディーンさんが一番前を歩き、何か見つけては走っていきます。
すると、レベッカさんは怒りながら、アヴリルさんは微笑んで、ディーンさんを追いかけます。
私は置いていかれるのが恐くなり、一生懸命追いかけますが、どうにも追いつきません。
グレッグさんは、ディーンさんに、先行しすぎるなと呼びかけ、チャックさんは笑っています。
そしてある日、グレッグさんとチャックさんが、私など簡単に追い抜かせるにもかかわらず、私の足に合わせて走っていることに、気づきました。
私たちの旅は、だいたいそんな感じです。
けれどその日は違いました。
一番前のディーンさんがものすごい勢いで走り出してすぐ、チャックさんも飛び出して行きました。
一方、ディーンさんを追いかけようとした私たちの前に、グレッグさんが立ちはだかったのです。
私の前に、アヴリルさんとレベッカさん。さらに前にグレッグさんが立ったわけで、一番小さな私には、その向こうにいるディーンさんに何があったのか、追いかけたチャックさんがどうしているのか、見えませんでした。
けれど、二人の態度から、ただ事ではないと思ったのです。
理由は、すぐに分かりました
ディーンさんが見つけ、駆けよったのは、荒野に墜ちた渡り鳥。
倒れている人を見つけ、ディーンさんは急いで助けなければと走ったのでしょう。
けれど旅慣れているグレッグさんとチャックさんは、救援が無駄である可能性が大きいことに気づき、私たちにショックを与えまいと、少なくともその衝撃を最小限にするために、いつもとは違う行動に出たのです。
そして、グレッグさんとチャックさんの予想は、当たっていました。
ただ事切れている人、というだけではなく、その亡骸はひどく傷ついていたらしく、そして真っ先に駆けつけたディーンさんは、それを目の当たりにしたようです。
気が弱いチャックさんと、恐い物知らずのディーンさんの立場が、その時ばかりは逆転したようでした。
悲しそうな顔をしつつも、チャックさんは動顛したディーンさんを、キビキビと私たちの所へと連れ戻しました。
そしてグレッグさんとチャックさんの二人で亡骸を検め、そして荒野に埋めたのです。
最初ディーンさんは、死者の持ち物を漁る二人に向かって怒りを表しました。が、死者の身元を検め場合によってはその身内へと知らせを運ぶ事が、渡り鳥の礼儀でもあり、そして私たちが荒野で手に入れる値打ち品の出所もまた、こうして命を失った渡り鳥の形見だと諭されると、すぐに早とちりを謝り、そして二人を手伝おうとしました。
が、二人は頑として、私たちに手伝わせようとはしませんでした。
私は、大丈夫です。初めてではありませんから。
それに私も荒野で倒れた所を、教授に助けてもらったのです。
教授が通りかかってくださらなかったら、私を無視して行ってしまったら、私もこうして命を失い、荒野に消えたことでしょう。
ですから、少しだけ運が良かった私は、少しだけ運が悪かったこの方に、何かしてあげたいのです。
私は一生懸命、そう訴えかけました。
そんな私に、グレッグさんは、そっと肩に手を置いて言いました。
「背伸びはしなくていい」
チャックさんは寂しげに微笑で言いました。
「みんなで花を摘んで来てくれないか?」
花を探している間に、チャックさんがパイルバンカーで大地に大きな穴を穿ち、そこに亡骸を納めたようでした。そしてグレッグさんが、私たちが近づくことを許した時には、すでに亡骸は土に被われていたのです。
私たちはみんなでさらに土をかけ、形ばかりの印に石を積み上げ、花を捧げ、その魂の安息を祈りました。
本当に、亡骸は恐くないのです。亡くなった方は、私をいじめることは、ありませんから。
荒野で命を落とす怖さより、大事であるはずの人にないがしろにされる事の方が、ずっと恐いのですから。
こんな事を考える私は、恐い子なのかもしれません。
もっと素直に、亡骸を恐がり、死者を悼むことができればいいのに。
グレッグさんの言う通り、私は子どもなのですから。
そんな事を考えてしまい、その夜はなかなか眠れませんでした。
けれど仲間を失う夢を見て飛び起きました。
荒野で朽ち果てるのが、見知らぬ人ではなく、自分でもなく、この私の大切なお友だちであったなら。
私はそれを恐ろしく思い、飛び起き、悲しくなって泣いたのです。
レベッカさんとアヴリルさんが、代わる代わる私を抱きしめてくれました。
私は二人を起こしてしまったことを謝りましたが、二人とも、自分たちも今夜は寝付けそうにないし、悪夢を見そうだと、打ち明けてくれました。
グレッグさんとチャックさんは、私たちを遠ざけました。けれど、私たちがまったく見知らぬあの方を目にしなかったというわけでは、ないのです。
私は、あの亡骸そのものに、ショックを受けてないつもりでいました。
けれどレベッカさんやアヴリルさんの目には、ショックを受けつつ気丈に振る舞おうとしているように、見えたそうです。
私たちはそのままテントで少しオシャベリし、それからこのままでは眠れそうにないと、三人一緒に起きだして、グレッグさんとチャックさんが用意しておいてくれた甘いミルクを飲みました。