宿は苦手、という程ではないけれど、少々困る。
見張りもいらないし、窓もカーテンも閉めるものだし、風も通らない。
常夜灯の、中途半端な暗さも怖い。
ディーンのいびきと歯ぎしりが、救いだけれど、耳を澄ませているうちに、それが消えてしまわないかと、だんだん不安になってくる。
「灯りをつけといていいから、さっさと寝ろ」
夜中に目覚めてしまい、眠れなくなっていたボクに、目を覚ましたグレッグが気遣ってくれた。
ボクは微笑んで感謝を示すけど、むしろ明るさを求め、まぶたを閉じることができなくなる。
やがてカーテン越しの窓の外が白みはじめたのを感じ取り、ボクは安堵し眠りに落ちる。
「あれ? チャック、目が真っ赤じゃないか」
「あはは、はは」
翌朝ディーンに指摘され、ボクは困りつつ笑ってごまかすことしか、できはしない。
「この野郎、明け方までスケベ本を読んでいやがった」
グレッグに、みんなの前で、バラされた。
「まったく、いい年して何してやがる」
「チャックさん、不潔です!」
「面目ない」
「せめて、あたしたちにはわからないように、楽しんでくれない?」
「バラしたのはグレッグだよ」
「それとディーンには、絶対に見せないでよね」
「えーッ! なんでオレはダメなんだよ!」
「まあまあみなさん、ディーンには早すぎますし、グレッグはいい大人なのだとしても、チャックはそれこそ『いい年』なのですから」
「あ、ありがとうアヴリル」
「しかも、おさななじみの彼女にはあいそをつかされ、他の生身の女性に手も出せないヘタレなのですから、スケベ本を読むぐらい、あたたかく見守ってあげましょう」
みんなの暖かい視線が、痛かった。