「おっとっと」
なんでもない所でよろめいたディーンを見て、あたしはピンときた。
「ディーン。ちょっと! あんた、足怪我してない?」
「大丈夫大丈夫! ちょっと痛むけど、心配いらないぜレベッカ!」
こんな時のディーンのちょっとが、ちょっとだった試しはない。
だいたいさっきの戦闘が、ちょっとヤバかった。ヒールが効ききらなかったのかもしれない。
「STOP! そこへ座って。でもって、ブーツ脱いでッ!」
「えーッ、こんなとこでか? 魔獣に襲われたら、どうすんだよ」
「あんたが必ず前線に入ってなきゃいけないってわけじゃないんだから、文句言わずに下がるッ!」
確かに荒野の真ん中でブーツを脱ぐのは危険だけれど、ベンチがある街中じゃあるまいし。
ディーンはぐずったけど、他のみんなもあたしの意見に同調してくれて、そこで全員立ち止まる。
しぶしぶディーンは、地面に座り込み、ブーツを脱ぐ。
思った通り、おもいっきり、右足首が腫れていた。
「これ、一旦人里にテレポートして、ちゃんと治療した方がいいわよねぇ」
「えーッ! あと少しで、改造実験塔にたどりつく、かもしれないのにか!」
「その足でたどりついて、何をどうするつもりよ。ずっと後をついて歩くにしろ、最初から怪我してる交代要員なんて、チャックじゃあるまいし、意味ないんだし!」
「なんでボクッ! ボクだってわざわざ怪我した状態でスタンバイしたくないよッ! だいたいそれ、意味あるのかい!」
チャックの抗議は無視して、あたしはディーンから、強引にテレポートオーブを取り上げる。
「いいわね! 一旦戻るから!」
ディーン以外から、異論は出なかった。
でもって安全な人里で、ディーンの足をシップと包帯で治療すると、やっぱりディーンも痛みが取れて、具合がよさそうで。ゆっくり歩くぐらいなら何の支障もなさそうで、半日も安静にしていれば、治りそうで。
それをディーンもわかってたはずなのに、無駄に走り回って悪化させた。
まったくバカなんだからもう。
「レベッカ。許してくれよ。もう走んないからさぁ」
「ダメッ! そこで大人しくしてなさいッ!」
あたしはディーンのバカさ加減を、ちょっと可愛いなんて思いつつ、顔では怒って見せている。
アヴリルも、なんだか微笑ましいって感じで、ディーンを見ている。
「レベッカとグレッグは、まるでディーンのお母さんとお父さんですね」
「それは、かんべんして欲しいんだけど」
実はあたしも少しそう思った所で、まるで頭の中を見透かされたかのようなアヴリルの言葉に、頭痛がしそう。
「私にも、グレッグさんとディーンさんが、本当の父子のように見えますです」
キャロルはディーンの怪我を配しつつも、羨ましそうで。
「じゃあキャロルはボクが」
「はわわ」
いきなりチャックが、キャロルを肩車してるし。
つまり、どんなにじっとしてろと言ってもすぐ忘れて走り出すディーンを、グレッグがオンブすると言い出した。
「えー」
「オンブがいやなら、お姫様みてぇにダッコしてやろうか」
グレッグが、いわゆる子どもをからかう大人の笑みを浮かべて二択をつきつけると、ディーンはしぶしぶオンブされたわけ。
こうしてオンブが一組に肩車が一組という、世にも奇妙なパーティとなったわけだけど、これでしばらくディーンがおとなしくしてるだろう、って思ったけれど、ダメだった。
「行けーッグレッグ! 前進! 右折! もっと早くッ!」
半時もたたず、ディーンがグレッグの背中の上ではしゃぎ始めるとは、さすがのあたしも思わなかった。
A LITTLE WALKの桐原さと様より、絵&テキストをいただきました。
「行けーッ、グレッグ!」
「ディーンとグレッグには負けないよッ!」
「チャ、チャックさん!いきなり走らないで下さい~!」
「……。(何も言わずに走るスピードをUPするグレッグ)」
家族みたいなパーティ!
「もう、ディーンったらもう少しおとなしくできないのかしら……」
とため息をついていたら、アヴリルがアタシの手をとって、
「さぁ、わたくしたちもいきましょう、レベッカ」
とにっこり微笑んだ。