(C)hosoe hiromi
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疫病神っていうのは

 買い物帰り福引券を握り締め、抽選会場へ寄り道する。
 狙うは高級ディナー、ペアでご招待。
 キャロルはチャパパンガに祈りながら、福引機をグルグル回す。
 赤玉、赤玉、オレンジ、赤玉、そして赤玉。
 ポケットテッシュとウチワだった。
 完敗だ。
 当たりはホントに入ってるのかしらん?
 後に並ぶオバサンが、そんなことをつぶやいた。

「キャロル。はいこれ」

 笑うチャックに福引券を差し出され、

「ご自分の分はご自分でどうぞ」

 ツンとすまして、それを断る。
 押し問答の末、チャックがグルリと福引機を回す。
 コロンと転がる白い玉。
 ガランガランと景気よく、ハンドベルが鳴り響く。
 続いて青玉、ガランガラン。
 またまた白玉、ガランガラン。
 最後に特等、金の玉。
 やけくそのようにハンドベルは鳴り響き、係員が喉も枯れよと大当たりを告げる。
 目を丸くしてチャックを見れば、困ったようなヘラヘラ笑い。

「ねえキャロル。この賞品、いくつか返上してもかまわないかい?」
「どうして私に聞くんです?」

 結局大きなクマのヌイグルミと、ディナー招待券だけ貰って帰る。

「チャックさんは運が悪いから、よいものは一つも当たらないと思ってました。だから福引券を、私に下さろうとしたのかと」
「違うよキャロル。欲しいものは当たらないけど、クジ運はいいほうさ。不運はボクのまわりに渦巻いている。疫病神っていうのは、こういうことでね」

 確かに後に並んでたオバサンも、目を丸くしてつぶやいていた。
 中に当たりは入ってたけど、もう残ってないんじゃないかしらん?
 キャロルはクマを背負ったチャックを見上げる。
 もう困った顔はしていない。
 チャックが返上した当たりの玉を、係員が福引機に戻すと、チャックも後のオバサンも、ニッコリ笑顔になっていた。
 結局そのまま見ていたら、そのオバサンもキャロル同様の戦果ではあったけど。

「でもキャロル」

 クマを背負ったまま、チャックはその両肩をすくめて見せる。

「福引券ぐらい、その裏のことなんか考えず、貰ってくれないかな。なにしろボクは、そのことを、すっかり忘れてたんだから」

 その日キャロルは、一つ学んだ。
 レストランのディナーには、誘われるのもいいものだ。

09.01.12

クマぬいは、結局教授のものになりました。
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