あるところに、優しくて大きなお父さんにかわいがられている、キャロルという女の子がいました。
けれどお父さんは、すぐに迷子になって、いなくなってしまうのです。
お母さん代わりにやってきたリリティア・ザ・アヴリルさんは、とっても怖い女性でした。
「あうあう わたくし、何をしたらいいのでしょう?」
キャロルをこきつかってください。
「こきつかうだなんてそんな。キャロルにクッキーを、やいてあげたいです。……わたくし、さっそくゆびをきってしまいました」
「はわわ! 私が焼きますからッ!」
お母さんは、クッキーを作る時に指を切ることができる、器用な人でした。
キャロルには、血の繋がってないお姉さんもふたりいました。
上のお姉さんは、頭に蛇をつけたペルセフォネです。こわそうですね。
「私がお姉さん? 別にいいけど。キャロルをいじめる? そうね、それはいい考えだわ」
キャロルはボロを着せられ、みんなからいじめられる所を、テレビカメラで撮影されました。
「はい、そこでカメラ目線で涙をこらえて」
「はいッ! がんばります!」
そのドラマの主演子役がハマり、たちまちキャロルは有名人の仲間入りです。
下のお姉さんは、メイドの恰好をしたルシルです。たれ目ですが、気が強そうですね。
「キャロルをこきつかえばいいの? じゃあ、びしばし行くわよ! 家事は手順が肝心! フライパンは手首じゃなく、ひじでささえるッ! こうよ! こう!」
なんだかほとんどルシルがやってる気がしますが……。
ともかく家事万能のルシルにしこまれ、キャロルの家事能力はめきめき上達しました。
「実の両親は、私をいじめるだけでしたが、お姉さんたちはいろいろ教えてくれますし、お母さんもやさしくて、私こんなに幸せでいいんでしょうか?」
なんかキャロルは満足しているみたいです。
ある日、ディーン王子から砦で舞踏会を主催するからみんなこいよ! と招待状が届きました。
お母さんは、お姉さんたちだけに、ドレスを用意しました。
「グレッグもチャックも、これいじょう精気をうばわないでくれと泣くので、2着しか買えませんでした」
リリティアっぽいことも、ちゃんとしているようです。
しかし、なんということでしょう。
「そんなぴらぴらしたの、お断りだわ。年下の男には興味ないし」
上のお姉さんはそう言って、ぴっちぴちのボディスーツに身をつつみ、デートに出かけました。お相手は、葉巻の似合うナイスガイだそうです。
「あたしも、彼の家で手料理を披露することになってるの」
下のお姉さんもそう言って、買い物カゴを抱えてメイド姿のまま出かけてしまいました。
アヴリルお母さんは、ドレスを手に目をうるうるさせています。
「王子様はディーンなのですよね?
わたくしも、このドレスを着て、しゅっせきしたいです」
いいんじゃないですか? キャロルが主役ってことだけ、押さえておいてくれれば。
「アヴリルだけずるーい! あたしもいくー!」
突如乱入してきた魔法使いのお姉さんが、もう一着のドレスをアイテムスティールしたようです。
キャロルが俄然、抗議します。
「レベッカさん! それじゃ立場が逆ではありませんかッ!
それにアイテムスティールが使える運のミーディアムは、もともと私のですよ!」
キャロルの勢いに、レベッカもたじたじです。
「ごめんねキャロル。ほらあたし素早いから、運のミーディアムで盗み担当になることが多いのよ。それにお姉さんたちのドレス、キャロルには大きすぎるでしょ。だからちゃんと、キャロル用のドレスを用意してきたから」
誰が精気を支払ったのか、聞くのは怖い気がしますが、なんとかなったようです。
こうして三人は連れ立って、お城へ出かけて行きました。
パーティ会場神々の砦は、きらびやかな照明に輝き、音楽がなりひびき、ご馳走の匂いに満ち溢れ、着飾った人々が集まっていました。
先に出かけたお姉さんたちも、パートナーと腕をくんで、やってきています。
もっと正確に描写するならば、無数のちょうちんがゆれ、太鼓と笛が鳴り響き、夜店が軒を連ね、中央のお立ち台、もといやぐらの上で、ディーンが太鼓を叩き、その周囲を踊りの輪がとりまいています。
「これが、ぶとうかい、なのですか?」
「ディーンに期待したあたしがバカだったかも。カポブロンコの盆踊り大会、そのまんまだわ」
「私、盆踊りもはじめてです!」
ベタな展開ではありますが、まさかレベッカも、年始早々盆踊りネタが来るとは思っていなかったようです。ちなみに私の地元では、シーズンオフに安くあげるため、花火大会といったら例年真冬です。
「あ! グレッグさんとチャックさんです!」
グレッグは夜店で射的屋の、チャックはヤキソバ屋の店番をしています。
「おうレベッカ。一発やってかねぇか? 得意だろう」
込み合った射的屋の屋台の奥から、グレッグがニヤリと笑います。
「ディーンのリクエストで、ハニースディ風ヤキソバさ。食べてきなよ」
チャックも笑っていましたが、突然笑顔をひきつらせて顔を伏せたので何かと思えば、向こうをルシルとファリドゥーンが、腕を組んで歩いていきました。
ともかく女の子三人で連れ立って、遊んで食べて踊って、楽しい時間が過ぎていきます。
「舞踏会って、とても楽しいものなんですね」
「まあ、間違いじゃないし、楽しいからいっか」
キャロルはご機嫌ですが、アヴリルが我にかえったようです。
「わたくしたち、なにか目的があってここへ来たような」
「あーッ! ディーンは何やってんのよ!」
ずっとやぐらの上で、太鼓を叩いています。
「ディーン!」
「なんだレベッカ!」
「あんたが踊らなくてどうすんの!」
「それもそっか」
やぐらから飛び降りてきたディーンに、キャロルを紹介します。
「今日はキャロルが主役なの、わかってるよね?」
「わかってるよ。オレが王子で、キャロルをプリンセスに選べばいいんだろ」
「つとめをはたしてくださいね」
レベッカとアヴリルは、そう言ってディーンの前にキャロルを押し出します。
「あ、あの、私でいいのでしょうか」
「もちろんだ!」
ディーンは胸をはり、鼻をこすります。そしてキャロルに向かって、手を差し出します。
レベッカとアヴリルが、ドキドキしながらディーンの告白を見守ります。
キャロルも真っ赤になりながら、ディーンを見上げます。
ついにディーンが満面の笑顔で、宣言しました。
「キャロル! オレの妹になれッ!」
「ディーンのバカーっ! いきなりフラグ叩き折って、どうすんのよッ!」
「そうですよディーン。それはまちがっています」
「えー? プリンスの妹ならプリンセスだろ?」
「兄妹でれんあいなど、キャロルにはマニアックすぎだといっているのです」
「え? これ、恋愛ものだったのか?」
「あんたはシンデレラを、何だと思ってんのーッ!」
レベッカが、どこからともなく取り出したスリッパで、ディーンの後ド頭をはたきました。
後日ディーンは、このスリッパを使って、キャロルを探そうとしましたが、何の手がかりにもなりませんでしたとさ。