あきらめなければ、何でもできるといったって、
時計の針を戻せないことは、オレにもわかる。
失いたくなんてないけれど、
過去にしがみつけば、オレは今の全てを失う。
今が過去の上にあるんなら、アヴリルがくれたこの今を、オレが丸ごと護って見せる。
この世界、あるだけ全部!
それがオレの、一番大切な宝物だ。
ひとつだけ、かなって欲しい夢がある。
初恋が実りますように。
ひとつだけ、かなって欲しい願いがある。
アヴリルが幸せでありますように。
ひとつだけ、かなえると決めたことがある。
あたしのこの手で、みんなを笑顔にしてみせる。
ひとつだけがいっぱいの、あたしがここに一人いる。
ひとつずつ、あたしは胸に抱きしめる。
願わくば、今日のアップルパイが、味も形も申し分なく焼き上がりますように。
わたくしは、つむじ風の中の、ひとひらの花びらです。
くるりくるりと時を巡り、あなたに出会い、別れます。
あなたへの永久の気持ちを道連れに、
定められた時の輪を、果てしなく巡りましょう。
お前は消えちまいそうだとふと漏らせば、
両手を広げて笑って見せる。
「まったくキミにこそ、復讐を終えたらいなくなってしまいそうだったのに!」
「チャックさん!」
年下の少女に引っ張られていく背中を見ながら、
ああそうだったと思い出す。
オレは全てを失ったと、長い間思っていた。
母は私の手首を掴み、不機嫌そうに歩いている。
転びそうになりながら、ただひたすらに足を動かす。
足がもつれ声を上げれば、憎しみの籠もった眼差しを私に向ける。
私たちの前を歩く父は、振り返ることはない。
唐突に、わだかまる破滅に続く道であることに気づく。
怯え、叫んでも、母は無言で掴む手に力を込める。
逆らい足を止めようとすれば、父が振り向き拳で服従を強いる。
二人はまるで、それを見つけた私こそが、それを作り出したとでもいうように、憎しみをたぎらせる。
『私の言葉を聞いてください。私の意志を認めてください。私は人形ではありません』
けれど二人は目を閉じて、私の言葉に耳を塞ぐ。
なのに私の手を離しはしない。
だから逆らい、手を振り解き、二人に背を向け走り出す。
追われるだろうと、怖かった。
叱られるだろうと、怖かった。
けれど二人は、逃げ出した私を見ようともせず、
まるで最初から私などいなかったかのように、
その道をただ歩いていってしまった。
なぜ連れ戻そうとしないのか?
いずれがいずれを捨てたのか?
『私が声を上げたからですか? 私がいい子ではないからですか?』
戻りたいと思う気持ちをねじ伏せて、道なき荒野を走り続ける。
望むことさえ禁じられていた、光に向かって手を伸ばす。
たくさんの人々が、私のその手を取ってくれた。
誰にも迷惑かけたくない。
誰もうしないたくはない。
ボクがいなくなればいいのだけれど、
けれど、せめて生きたいと、生きていたいと、そう思った。
たとえ一人、荒野を彷徨うことになろうとも。
荒野のただ中一人眠れば、うしなった人々が夢に現われ、ボクに笑いかけてくる。