(C)hosoe hiromi
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チャックの失恋

「ああ、彼女なら!」
「ディーン!」
「何すんだよレベッカ」

 カルティケヤとの決着をつけたグレッグが、晴々としているのとは対照的に、ファリドゥーンとの決着をつけた後のチャックは、今一つ元気がない。
 っていうか、普段自分の弱みを隠さないチャックが、ことさら平気そうにしてるから、かなりキてるってのがバレバレで。
 そこで、あたしたちは適当な理由を作って、ハニースデイに寄ることにした。
 けれど、すぐに後悔。
 ハニースデイの人たちは、チャックがルシルを取り返すために頑張ってるんだって思ったまま。その上、ベルーニを恐れている人や、反感を持ってる人も少なくないから、ルシルの方も満更じゃないみたい、なんてチャックも話せないみたい。
 チャックが話さないなら、あたしたちが勝手に話せるわけもない。言いそうなヤツ約一名については、厳重に実力行使で注意した。
 そのあたしたちのやりとりを見た村のおばさんに「ああ、やっぱりチャック、ふられちゃったのかい」なんて言われて、笑ってごまかす。 チャックもへらへら笑ってるばっかだし。
 何か感づいたのか、チャックの親友のケントが、突然恋愛の相談も大親友の俺にしろ、なんて言いだして。
 そんなわけで、チャックがあたしたちからそっと離れた時、ピンと来て、こっそり後を追いかけた。

「やっぱりお前、ルシルにふられたのか」
「ははは……。ずっと前に愛想尽かされてたのさ。そして彼女が村を出る時に完璧にふられたよ」
「取り返しに行ったんだろうが」
「まあね」

『いいよなー』
『ででででディーン!』
 耳を澄ませて聞き入ってたら、いきなり耳元で呟かれて、叫びそうになった。
『レベッカ。声押さえろよ。チャックたちに気づかれるだろ』
『ここで何してんのッ!』
『何って、レベッカと同じことしてんだよ』
 あたしは指先を額にあて、小さくため息をつこうとして、息を飲んだ。
『まあ、あんまり褒められたことじゃないがな』
『友だちの心配をするのは、当然のことです』
 うわー。グレッグにアヴリルまで。来てないの、キャロルだけ?
『はうぅ。なのになぜ、チャックさんは私たちに相談してくれないのでしょう』
 あ、グレッグの影にいた。まあ、みんな来てたら、キャロルも当然来るわよね。
『水くさいぜチャック! オレとチャックだって友だちじゃないか! いいなあ、チャックとケントは大親友で』
『恋愛ごとだ。年下のお前や異性の仲間に相談できなくとも、しかたねぇ』
『ならグレッグは、チャックに相談持ちかけられたのかよ』
『うッ』
 グレッグがイジケたのは、見なかったことにする。
『静かにしてよ! 気づかれちゃうじゃない』
 こっちでごちゃごちゃ言ってる間に、話が進んでるし。

「チャック。オレは前から言ってただろうが! お前が一緒に苦労してくれとクドけば、必ずルシルは……」
「そうするには、半日ばかり手遅れだったのさ。もっと早くボクが決意していれば……」
「遅いなんてあるもんか! ルシルは面食いだ。オレはお前に顔じゃ勝てない。だから一山当ててルシルを振り向かせようとして、このザマだ。だがお前の顔なら、金がなくても」
「ふっ……。相手は顔がいい上に大金持ちで背が高くて、オマケに性格までいいのさ」
「い、いや、ルシルは口ではヘタレは嫌いと言ってるが、超ヘタレ好きだ!」
「相手は、超ヘタレなんだッ! このボクが、思わず説教してしまうぐらいにッ! ……こればっかりは、勝てる気がしないよ……」

「そこッ! マジメな顔で語るな! へらへら笑って目を伏せるなコラーッ!」

 あたしは仲間たちに引きずられて、その場を去った。
 そしてあたしたちは、チャックの恋について、一切語ることも心配することも、やめにした。

08.09.19




「いいのかチャック、ほっといて」
「ああ。いい仲間たちだろ?」

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