「ディーン、キミたちどこから来たんだい?」
「え? ……だけど?」
ダメだ……。
「へぇ。どんな所だい? 当ててみせようか。辺境の小さな村、って所かな」
「えーッ! チャックすげー! どうしてわかるんだ!」
「ディーンってば、初っぱなから田舎者丸出しだったじゃない!」
ダメだ。
「アヴリル、ミラパルスで助けてくれたことに、改めてお礼を言わせてよ。キミ、ベルーニをまったく怖がってないんだね」
「ディーンもですよ」
「二人とも怖いもの知らずで、大変だったんだから」
「レベッカは旅のつきそい、ってとこかい?」
「グレッグもつきそってくれるようになって、助かったわ」
「グレッグがお父さんで、レベッカがお母さんです」
「……アヴリル、その役割交代してくんない?」
「ではディーンがお父さんで、わたくしがお母さん。レベッカとキャロルはディーンの姉と妹、グレッグはレベッカの婚約者、という線でいかがでしょう」
「いやーッ!」
「あはは! 本格的なママゴトだね。キミたち、幼馴染みなのかい? ボクも加えてよ」
止めろ!
「キミたちさ、なぜ旅に出たんだい? ジョニー・アップルシードを探してるって言ってたね。ゴウノンでもライラベルでも見つからなかったみたいだけど、なぜ探してるんだい?」
「あぁ、オレたちさ……」
ダメだッ!
悪夢を振り払い、まだ暗いテントの中で目を見開く。
寝汗がじっとりと体にまとわりついている。
体を起こし、両手でこわばった頬をごしごしとこする。
頬は、やはりこわばっている自分のてのひらよりも、隣で爆睡しているディーンに安心し、ふっとゆるんで笑みを作る。
自分に大丈夫と言い聞かせ、もう一度横たわり、ディーンに背を向けて毛布にくるまり、両腕で痛む胸を抱きしめる。
そして自分の弱さを痛感する。
グレッグと見張りを交代してから、さほど時間はたっていない。
深夜長めに見張りをする代わりに、朝はみんなより幾分遅くまで休ませてもらってはいるが、眠りに当てられる時間は限られている。
寝不足はミスを呼ぶ。危険を作り出す。
それだけは、絶対に避けたい。
目を閉じて、自分の呼吸を数えることに集中する。
「キャロル、キミはなぜディーンたちと一緒に旅をしてるんだい?」
「私は、……というわけなんです」
「キミの知識、どこで手に入れたんだい? 驚いたよ」
「はい。……で学びました」
「へぇ、すごいね」
ダメだダメだダメだッ!
「キミたちのARM、レベッカを除いてみんな特殊だよね。支給品じゃないどころか、ギルドでも扱ってないタイプばかりだ。いったいどこで手に入れたんだい?」
いい加減にするんだ!
目的ははっきりしている。その仲間として、一緒に旅ができるだけで、十分じゃないか!
必要以上関わっちゃいけないんだッ!
けれど夢は、チャックの危険な願望を、次々と示し続ける。
眠るのが怖い。
起きている間は、疫病神のことなど忘れたかごとくに振る舞える。
そのことで、ディーンたちに気遣わせないと、心に決めた。
距離を置こうとしていることも、気づかせないようにしているつもりだ。
当たり障りなく、にこやかに、けれど決して踏み込まず。
だが夢の中では、それもままならない。
気がすむまで、気の向くままに話しかけ、知りたがる自分を、止められない。
関わりたいと願う自分を。
それでも今は、眠らなければいけない。
この仲間たちと、共に未来を目指すことを、選んだのだから。
大事な人は、この手で護ると、決めたのだから。
「なんでオレはスルーされてるんだ?」
「グレッグ・ラッセルバーグ。ゴウノン生まれゴウノン育ち。2年前妻子殺しの濡れ衣を着せられゴウノンを出奔。以降ゴーレム専門の壊し屋となる。
キミからも聞いたし、ゴウノンに立ち寄った時、いろんな人からキミの話は聞かせてもらったよ。若いころは、ケンカばっかりしてたんだってね」
「テメェ、ふざけてんのかッ!」
「いたってまじめだよ。ボクはハンターとして、獲物のことを調べただけさ。
いったんギルドに引き渡した犯人は、誰一人として戻ってこないんだ。少額の賞金しかかかってない軽犯罪者でも、濡れ衣でも、誤認逮捕でもね。
そして誤認逮捕の場合は、罰としてハンターも消される。もっともこっちは、運が良ければ逃げちゃってるらしいんだけど。そのまま賞金首になったりね。
ああグレッグ、キミは心配いらないよ。よっぽどの駆け出しじゃなきゃ、みんな知ってるからさ」
「オレの濡れ衣をか? ハンターの全てが、それでオレを見逃してくれるとは思えんが」
「あはは! そんなお人好しばかりじゃないよ。ただね、犯罪者だろうがゴーレムだろうが、高額賞金を得たはずのハンターが、みんな『いなくなってしまった』ことを、知ってるんだよ」