理由もないのに寂しい日には、
ディーンさんに、笑顔をもらって、レベッカさんにも、笑顔をもらって、
それでもまだ寂しかったら、
アヴリルさんに、言葉をもらって、グレッグさんに、なでてもらって、
だいぶん元気が出るものだけど、それでも心の虚ろを埋めきれない日は、チャックさんのところへ行く。
ちょっとピントがズレてるけれど、とても優しく誠実で、泣いたり笑ったりする、普通の人。
ディーンさんと、ふざけていたり。 ……まるで昔からの、友だちのように。
レベッカさんに、指図されたり。 ……ヤボ用一つも、嫌な顔せずひきうけて。
アヴリルさんの話に、耳を傾け。 ……とてもまじめな顔つきで。
グレッグさんと、談笑していたり。 ……賞金首と追手だったなんて信じられないほど、穏やかに。
そんなチャックさんの所に行けば、「どうしたんだい?」って、微笑んでくれる。
果てなく優しい微笑みを浮かべ。
けれど私は、怖くなる。
その微笑みが、私の心に残る虚ろを、微塵も埋めないことに、気がついて。
それはまるで、乾いた喉を癒そうと、
水をたたえたコップを手にし、
喜びいさんでのぞき込んだその奥に、
底なしの深淵を見たような。
そんなことが、あるはずないのに。
手の中に収まっている、ありきたりのコップと水にすぎないのに。
その微笑みに、なんだか腹立たしくさえなってきて、チャックさんの手を取った。
手を握るのはなんだか怖くて、指三本。
人差し指と、中指と、薬指。
手袋に包まれたその指は、
思ったよりも堅くて太い大人の指で、私の手の中に、ぴったり収まる。
思ったよりも暖かくて、
思ったよりも怖くなくて、
私は指を、しっかり握って歩き出す。
何も言わずに歩き出した私の後を、
何も言わずにチャックさんがついてくる。
振り向かなくても、ちょっと困惑しながら私のペースに合わせて歩く、彼の姿が目に浮かぶ。
どんなにしっかり握っても、握り返してこない指三本。
それだけが彼の存在証明。
私がしっかり握ってないと、チャックさんが消えてしまいそうで、
振り向いたりしたら、チャックさんが消えていそうで、
そんなはずありえないと、わかっているのに。
だからそのまま指を三本しっかり握って、どんどんどんどん歩き続けて、
どんどんどんどん歩いていたら、黙っていられなくなってきて、
前を向いたまま、いっぱいいっぱいお話しして、
そのうちに、なぜチャックさんが消えちゃうなんて思ったのかすら、思い出せなくなってきた。
立ち止まって指を離し、振り返って見上げれば、いつものチャックさんが、そこにいた。