(C)hosoe hiromi
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復讐


 復讐に身を焦がされて、
 背負う闇など、気にならなかった。

 家族を失った怒りに燃えて、
 自ら孤独を選んだことに、
 気づきもしなかった。

 あの瞬間だけが、
 そこから始まる復讐だけが、
 オレと妻子をつなぎ止める、
 最後の絆だと。

 それだけが、
 オレに遺された全てだと。

 憎くて、憎くて、ヤツが憎くて、
 ヤツは今日も生きて、
 どこかで笑ってやがると思うだけで、
 はらわたが煮えくりかえる。

 それを許す自分の無力が、
 ひたすらに悔しくて、
 荒野に拳を打ち付けて、
 幾度も叫んだ。

 悔し涙は流したが、
 妻と子のための涙を流しちまえば、
 妻と子との絆も、流れちまうと、

 あの瞬間から前に進めば、
 妻と子からも、離れちまうと、

 オレはそれを、オレに禁じた。



 ガキと出会った。
 出会い頭にARMを向けてきやがった。
 後先を考えられねぇ、無謀なガキだ。

 見ず知らずのマヌケの命を救おうと、
 見当違いの暴挙に出たと、
 後で知った。

 バカなヤツだ。

 ベルーニの気まぐれに、
 逆らう手段なんぞねーものを。

 絞首台の上に立つ、
 当のマヌケのように、
 運が悪かったと、
 あきらめりゃいいものを。

 己の命だけでなく、
 連れの運命も危険にさらしていると、
 気づきもしねぇで。

 ガキには連れが二人いた。
 一人はガキの無茶にあわて、
 もう一人は、
 オレの前に立ちやがった。

 マヌケはマヌケで、
 絞首台に立たされて、
 その運命を受け入れたまま、
 自分を助けようとしたガキどもの、
 命乞いをしてやがる。

 どいつもこいつも、気に障る。

 だがガキどもは、
 見当外れに走り回ったあげく、
 できるはずがないことを、
 やりとげやがった。

 いや違う。
 ベルーニの気まぐれに、翻弄されただけの話にすぎん。

 おかしな連中だ。
 だがヤツ以外、誰が死のうが生きようが、
 関係ねぇと、背を向けた。

 ガキと再会した。

 ガキは、
 オレにARMを向けたことを、
 オレにARMを向けられたことを、
 わかってねぇみてぇに、オレに懐いてきやがった。

 危なっかしいヤツだ。

 ガキは、
 見るもの聞くもの珍しがり、
 どこへ行くにもかけずり回り、
 誰彼かまわず手を差し出し、
 飲み食いすれば機嫌よく、
 警戒しもせずぐっすり眠る。

 危なっかしくて、目がはなせねえ。

 いつも笑っていやがって、
 目が合えばますます笑い、
 オレの視線に気づけば、
 何事かとやってくる。

 心配なのは、てめぇの方だ。

 なんでも知りたがり、
 何でも教えたがり、
 うるさいほどに、まとわりつく。
 かと思えば、どこかへ走って行っちまう。

 復讐しか見ていなかったオレの目が、
 いつしか世間知らずのガキの姿を、追っていた。

2008.6.21 


「ディーン、お前のようなヤツをな、『便所の100ワット(無駄に明るい)』ってんだ」
「すげー! カポブロンコの便所には、電球なんてついてねーぜ? だから夜なんか真っ暗だし、家の外だしで、レベッカなんか一人じゃいけないって、レベッカの母ちゃんが……」
「いらんことまで教えるなーッ! いつの話してんのよーッ!」
「レベッカ、私も暗い場所が苦手です」
「そうじゃなくてぇ!」

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