ギルドまで旅をするだけでも、見習いになるための試験でも、風も通らぬ遺跡に立ち入らなければならなかった。
そのずっと前から、夜が来ない日などありはしなくて、人との係わりを絶ったボクは、一人で闇にひたっていた。
「怖くてならなかったよ。
けれどたった一人なら、誰を失うこともないからね」
怖くて、怖くて、逃げ出したくて、けれど闇がボクをいざなう。
この臆病なボクを、完膚なきまでに叩きのめしてくれと、闇に願う。
もう少し、あと少し、あの曲がり角まで、逃げ出したい気持ちを我慢する。
闇の中で、身動きできなくなればいいものを、恐れる足は止まらない。
錯乱し自滅すればいいものを、神経ばかりが張り詰めて、魔獣の気配を耳が捉える。
戦いへと身を投じれば、生きて戦うその手ごたえに、喜びさえ感じ取る。
けれどいつか、死骸と共に、闇の中に取り残される。
なぜ倒れているのは、ボク自身ではないのだろう?
手ごたえのない闇は、灯をかざしても退かず、魔獣のように打ち倒すこともできはしない。
ボクを責めたてるのに、拒絶する。
やがて課題をクリアして、ついでの探索もしつくして、通路であれば出口が見える。
居残る理由を失ったボクは、恐怖に負けて闇から逃げ出す。
逃げ出す前に、捕らえてくれ!
その願いは、叶わず終わる。
静寂に覆われた闇から逃れ、生きて戻ったことを知る。
そう、生きて戻った。
ボクだけが。
なぜボクだけが?
ずっと、あそこにいるはずではなかったのか?
あの永遠の闇の中に。
地の底に、父さんを置き去りにして、母さんを埋めた。
なのにボクは、ここで何をしているのか?
なぜこうして、生きているのか?
生きて世界に戻れたことに、喜びを感じているのか?
怖い。
闇が怖い。
死ぬのが怖い。
失うことが怖くてならない。
ボクは臆病者のエゴイストだ。
嵐の夜が、ボクは好きだ。
渦巻く力が、この世界が生きていると、声高々に叫んでいる。
その声を聞き、ゆさぶられれば、自分が取るに足らないちっぽけな存在であることに、安堵する。
けれどふと怖くなる。
ボクが好きになったりしたら、この世界さえ、失われはしないだろうか?
まさか、そんなこと、あるはずがない。
けれどときおり夢に見る。
血の色に染まる月に照らされた、風さえ吹かぬ枯れ果てた大地。
舞い上がる、器を失った魂たち。
魔獣たちと共に、死せる大地に取り残されて、ボクは魂を見送っている。
やがて災厄の矢を突きたてられ、疫病神となり果てて、大地に災いを撒き散らす。
「そして意外にも、そんな夢を見た後は、どこか満ち足りた心地で目覚めるんだ」
ああ、闇よ大地よ。
逃げ出さずにはいられない臆病なボクを、どうか飲んでくれ!
夢が本当になる前に。