夢を見ながら、生きてきた。
何も言わずに村を飛び出しても、彼女は待っていてくれるとか、
ナイトバーンが語った、ゴーレムハンターギルドの理想だとか、
大きなARMを自在に操る渡り鳥に、こんなボクでもなれるとか。
現実から目をそむけて、生きてきた。
暗闇や孤独を恐れる臆病者であることや、
人々が憧れる英雄や職業が、欺瞞に満ちていることや、
そしてなにより、ボクが疫病神であることを、
一番認めたくなかったのは、ボク自身だ。
だから……。
夢にすがって、生きてきた。
叶うはずもない夢を叶えられたら、現実も変わるかもしれないと。
ゴーレムハンターになれたなら、きっと全てうまくいく。
根拠なんてないけれど、そう思い込むことにした。
他に夢はなにもなかった。
けれど心の片隅で、所詮無理だと思っていた。
ゴーレムハンターになれるはずもなく、
万一その夢が叶ったとしても、疫病神とは関係ない。
けれど疫病神という現実は、荷が重すぎて、
ありえないと目をそむけ、逃げ出して、
夢にすがるしかできなかった。
夢にすがって、それだけを頼りに生きようと、
ゴーレムハンターになるために、村を出た。
父さん、ごめん。母さん、ごめん。
大事にしてくれたのに、ボクは恩をあだで返した。
ケント、ごめん。
もっと早くこうしていれば、キミを失わないですんだだろう。
ルシル、ごめん。
キミという現実から目をそらして背を向ける。
ボクはボクのことしか考えられない。
ボクはボクのことしか考えちゃいけない。
誰のことも、想っちゃいけないんだ。
けれどもし、もし奇跡が起きて、ゴーレムハンターになれたなら、
他の奇跡も起きると信じられるから、
その時は、列車に飛び乗って、誰よりも先にキミに報告しに帰るから。
ゴーレムハンターになれたなら、
もうキミに、迷惑かけたり心配かけたりせずにすむから。
ボクは、キミに向かい合える。
けれどそれは所詮夢だから、
なにもかも、信じきることのできない夢だから、
だからルシルにも言えなかった。
背を向けて逃げたボクを、彼女が待つはずないことや、
ギルドやナイトバーンが、理想とはほど遠いことや、
気弱なボクが、ゴーレムハンターになれるはずがないことは、
疫病神であることと同じぐらい現実で、
だから目をそむけ、夢にすがった。
夢にすがらなければ、生きられなかった。
村を出るときハンターになるまでは帰らないと決めたから、
二度と帰れないと、そう思った。
だから手紙も、出さなかった。
なれるはずがないと、思ったけれど、
夢見ることしかできなかったから、
ボクはハンターへの道を、歩み続けた。
ゴーレムハンターという夢を叶え、
奇跡を信じて村へ帰った。
突きつけられたのは、疫病神という現実だった。
「男なら、やれるところまでやってから諦めろよッ!」
「あとはチャックの『覚悟』だけだッ!」
「変わらなくてもいいッ!
でも、今回だけでもいいから、覚悟を決めて克服しろ、チャックッ!」
彼女が大事なら、たった一回の覚悟を決めろと、ディーンは言った。
ボクは覚悟を決め、夢を叶えようと彼女を追った。
けれど現実は厳しくて、彼女はボクの手を取ろうとはしなかった。
それでもボクは夢にすがり、無謀な戦いを挑み、破れた。
夢を、
生きる理由を失って、
けれど死ぬこともできず、
手に残ったゴーレムハンターの地位も捨て、
荒野へ逃げ出した。
誰にも近づかず、死ぬまで荒野を彷徨うのだと。
荒野のどこかで、人知れず死ぬことだけが、ボクに許された運命なのだと。
それでも、その一度の覚悟がボクを支配して、
まだ夢を追いたくて、まだ終わりにはしたくなくて、
まだやれるところまではやっていないと、そう信じたくて。
ボクは確かに、覚悟を決めた。
自分の手でディーンを助け、ケントを取り戻した。
ルシルだって、消えてしまったわけじゃない。
そして夢に挫折したナイトバーンの現実を見た。
そのナイトバーンが、夢など叶うはずがないとディーンに語る。
「それでもお前は、夢を見続けるのか!?」
「-いいや、そんな夢、見るつもりはないさ」
ボクにとって、彼は新しい夢だった。
またも夢に裏切られるのかと、ボクは叫んだ。
「-オレはただ、夢を見るつもりがないって言っただけさ。
オレが目指しているのは現実だ。
ゼッタイと言うからには、現実にしないと意味がないだろッ!!」
ボクは夢にすがるのをやめた。
ボクは、疫病神だ。
みんなが、不運は偶然だと言った。ディーンさえも。
誰よりも、ボク自身がそう信じたかった。
その現実から目をそらし、ひたすら夢にすがり、逃げていた。
ボクが大事な人々に災いをもたらすならば、
その災いをこの手で防ごう。
覚悟を決めて、現実を見て。
あきらめるのは、やれるところまでやったのだと、
納得できてからでも、遅くない。
ポンポコ山 ナイトバーンとのやりとり直後。
そんなわけで、チャックにとってディーンは、特別な存在。
キャラの心情を書くと、時折=私の心情と受け取られることがある。けれど私は、逃げてもいいと思っている。逃げられないよりはずっと。
チャックは、確かに逃げっぱなしだったかもしれないし、夢ばかり見てきたかもしれないけれど、そのために使った力だとか、その過程で身につけたものは、半端なものじゃないし、本当にそれ以外なかったから、本気で夢を見てきたと思う。
そういう本気で夢を見続ける力、見続けてきた経験は、いずれ現実を変える原動力になっていくと信じている。
そりゃあチャックの努力の方向性はズレてたけど、その原因が疫病神なんていう現実の理からズレたところにあるんだから、しかたないじゃないか。
チャックにとってディーンは特別な存在、とはいえチャックの場合特別な存在や大事な人を、かなり簡単に作ってしまう気がする。極端な形で他人と距離を置こうとするのは、その反動で。
空気読めないとか言われるけれど、ものすごく他人の話には耳を傾けているし。悪く言えば影響されすぎなぐらいに。
たぶんパーティインした後も、そうやって他人の言動見ながら、さりげなくそつなくやってきたんだと思う。自分から踏み込まずに。だからものすごい重要な情報がすっぽ抜けて、そのズレがいきなり出た時に、空気読めないって言われてるんだと。
いや、チャックが、ディーンたちが旅に出た理由とか、アヴリルが記憶喪失なこと知らずにいて、あそこで口にするのもアレだけど、チャックはグレッグ以外の事情を一度もきちんと聞いてない。
仲間たちも、説明してない。たぶんなんとなく、チャックは知ってるもんだと思い込んでいたんだろう。チャックがあんまりにも、さりげないから。空気だから。
あのアヴリルのことがなければ、画面外で聞いてたっていうのもあるんだけど。
チャックの方は感情が高ぶると手の内全部ぶちまける。そして普段、たぶん、異様にさりげない。あの軽薄見習いハンターが嘘みたいにさりげないんだと思う。っていうかアレ嘘だし。
っていうか、軽薄じゃないときは、さりげなさで自分を空気にしているところがあると思う。人との係わりを浅く保つために。
……いや、そういう故意でもなければさ、もっとパーティメンバーが、チャックから情報を引き出そうとしててもいいと思うんだ。
ゴーレムとナイトバーンのことしか興味がないディーンだって、夢なんか見ないで現実云々するなら、……いや、ディーンは聞いてる。ただチャックが、「雲の上の人だから」で流しちゃっただけだし。けど村で「親友がナイトバーンに気に入られて……」って話出てるのに。もうそのころには本当に雲の上の人だったのかもしれないけど。
その村に、ジョニー・アップルシードかもしれないナゾの少年が訪れていることも、わかってるのに。
ナイトバーンについては、チャックのほうにこだわりがあって、ぼかした回答しかしなかったかもしれないけど、ヴォルスングについては、聞けば何かわかったかもしれないのに。毀された祭壇であったことはチャックは知らないんだから、聞かれなければわかんないぞ、と。
グレッグも、元追っ手が仲間に入ったんだから、ちょっとは情報引き出そうとしてもいいと思うんだ。