(C)hosoe hiromi
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レベッカ
「チャック……。女の子からこんなこと言うのは、すごく恥ずかしいんだけど、その恥ずかしいのを我慢して言うから、一度しか言わないけど、……………抱いてくれない?」
「いいよ」
「え? えぇッ!!」
予想外のチャックの返答に、レベッカは頭の中が真っ白になる。
なぜそんな事を自分が言い出したのか、まるで思い出せない。
ただなんとなく、チャックは絶対に真っ赤になりながら自分を拒絶すると、信じていた。
そんなことを言って、そんな風に拒絶されて、何のためにそうするつもりだったのか、それからどうするつもりだったのか、何か考えがあったはずなのに、すごく思い悩んで、考え抜いて、勇気を振り絞って行動に出たはずなのに、まるっきり思い出せない。
目の前にいるのが、自分が恐ろしいことを口走ってしまった相手が、幼馴染の男の子とは全然違う、年上の男であることを、唐突に意識する。
顔から火を噴きそうで、頭に血が上って、目が回りそうで、何か言いたいのに、何も言えない。
「あはは。たとえボク相手にでも、そういう冗談は、言わない方がいいよ」
「じょ、冗談じゃなくてッ! あたしは本気!」
一生懸命「今のは冗談!」という言葉を搾り出そうとしていたのに、唐突にチャックからそう言われ、口をついて出たのは正反対の言葉。
チャックは優しく微笑んでいる。
「ゴメン。冗談、ってことにしてくれないかな」
自分の女である部分を否定された気がして、なんだかとても腹立たしい。
そうだ。ちっとも振り向いてくれないディーンのことを考えているうちに、自分の女としての魅力を試してみたくなったのだ。その相手としてチャックは、絶対安全な相手だったはずだ。なんとなく、そう思い込んでいた。
「チャック! 襲うわよ!」
「逃げていいかい?」
チャックは絶対真っ赤になって、ものすごく慌てふためいて逃げ出すはずだったのに、頬を赤らめもせず、そんなことを言う。
確かに彼は、『逃げる』とは言ってるけれど。
「逃げなきゃいけない時には、逃げないくせに! ディーンに言いつけるから! チャックがあたしを襲ったって!」
「いいよ」
「ディーンは、きっとあたしの言い分を信じてくれるんだから!」
「ボクもディーンに、レベッカを襲ったけど失敗したって言うよ」
見透かされてたと、そう思った。
自分の、ディーンへの気持ち。
そしてチャックを、利用しようとしたことも。
ひどく情けなくなって、惨めになって、涙が次々と零れ落ちる。
「……………ごめんなさい。こんなこと、するつもりじゃ、言うつもりじゃ、なかったのに」
「いいさ」
さっきとは違う意味で、目の前にいる金髪の青年が、幼馴染の男の子とは全然違う、年上の男なのだと意識した。
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