「へえ、二人共ファリドゥーンに似てるね。あ、ファリドゥーンが似てるのか」
亡くした両親に対し、似たような感情を抱く者として、ファリドゥーンは自分の両親の写真を見るチャックを、どこかくすぐったいような気持ちで、見守っていた。
その写真の中の両親は、まだ死の影を背負ってはおらず、優しく力強い笑みを見る者に投げかけている。
ファリドゥーンがRYGS邸を離れ幹部候補生として軍務についた時、両親は一人前になるまで帰宅に及ばずと言ってきた。
覚えなければならないことはたくさんあり、ホームシックにもならず、それでも時折映話で近況を報告した。
その時すでに、両親をUbが蝕んでいることを、知りもせず。
そして両親もまた、それを知らせもせず、短い映話のさいにも異常を隠し切っていた。
先にUbに侵されたダイアナの病状が、割と安定していたこともあり、ファリドゥーンは両親の急変に気づくことができなかった。
ダイアナからの知らせで急ぎ帰宅したファリドゥーンが見たのは、もはや以前の面影もなくやつれ果てて横たわる両親の姿であり、それはまさに悪夢だった。
その光景は、今でも時折記憶の底から浮かび上がり、ファリドゥーンを苦しめる。たが、普段の想い出の中の両親の姿は、健全なころのものばかりだ。
それに、手元にこうした写真もある。
写真は、それがなければ知ることができなかった両親の姿も、教えてくれる。
結婚式のまだ若い二人。生まれたばかりの赤子のファリドゥーンを抱く二人。ダイアナを囲む一族と共にある二人と、そして赤子の自分。
背景の多くは、当時とさほどかわらぬRYGS邸や、面影が今でも残るトゥエールビットで、こうした写真を見るうちに、ファリドゥーンは自分もそこにいたように思えてくる。
他にも様々な写真がある。
まだ少年の、ヴォルスングとファリドゥーンが一緒に写っているものや、さらに古い、ダイアナの現役時代のもの。
かつての生活や、かつてこの世にいた人々の生きた証がそこにあり、切り取られたその瞬間が、時間を飛び越えて、見るものに語りかけてくる。
チャックは、死ぬ間際の両親の姿しか、思い出せないという。
その姿が記憶に焼きついて、他の姿を思い出すことができず、そして写真もないと。
自身の写真も、ハンターライセンスのものしかないと聞き、ファリドゥーンは提案した。
「一度、ちゃんと写真を撮ったらどうだ?」
「いやだよ。ナイトバーンじゃあるまいし」
確かに特別な機会でもないのに、わざわざ写真を撮るとなれば、身分証用か、ブロマイドしか思い浮かばないのだろう。
特別な機会、でファリドゥーンは思い出す。
独立宣言のとき、デュオグラマトンがずいぶん熱心にムービーを回していた。
当然チャックも写っている。
よさそうなショットをトリミングしてプリントし渡したら、彼はどんな顔をするだろう?
「なんだか、ご機嫌だね」
「いや、なんでもない」
内密にデュオグラマトンに頼んでおき、次に出会った時、いきなり渡してみるのもいいだろう。
「ゴメンなさいねー。ろくなのなかったわ」
デュオグラマトンは、それでも数枚の写真を、ファリドゥーンに手渡した。
いずれもチャックの写真だが、その言葉どおり、どれもパッとしない。
「彼に注目してチェックしたんだけど、いつも彼一歩後ろに引いてるのよね。
でも、ペルセフォネからこれを預かってきたわよ」
デュオグラマトンは、他の写真とは別に、一回り大きな写真を取り出して、ファリドゥーンに渡す。
そこに写っているのは、ニンゲンたちではあるが、独立宣言の時のものでもなければ、チャックも写っていない。
見ず知らずの人々だ。
「まったく、こういう時に能力の差を見せつけられちゃうわ。さすが四天王になるだけはあるわよね」
「これは?」
「二十年ちょい前の、ニンゲンの結婚式。
ちょうど巡察があって、その兵士が個人的に撮影したものが、ニンゲンの風俗資料みたいな感じで情報局にデータが保存されてたの。
ナイトバーンに見せたら、間違いないって。
その真ん中の二人、チャックのご両親よ」
あらためて見入り、ファリドゥーンは顔をほころばせる。
写真の中の人々は、かなり緊張しているようだし、大勢の集合写真であるため、写っている一人一人はかなり小さい。
だからこの写真のみ、一回り大きくプリントされたのだろうが、それでも人々の顔つきは、かろうじて判別できる程度だ。
それでも中央の二人はそうと知れた。
「確かにチャックに似ているな。いや、チャックが似ているのだな」