「なーんーでーすーかー これー!」
キャロルが教授に突きつけたものを見て、教授は縮み上がっている。
「お父さん! そりゃあディーンさんと結婚します! っていったのは私です。
でもそれが、その場かぎりのウソだったことは、わかってますよね!
私にとってディーンさんは、そういうウソの相手にできるぐらい、甘えられるお兄ちゃんです。
それ以上でも、それ以下でもありません!」
「だって、ボクとしてはキャロルに幸せになってほしいわけで、やっぱり結婚っていうのは女の子にとって……」
「女の子にとって、結婚はすればいいってものじゃありません。
結婚しなくても、幸せな女性はいくらでもいます。
むしろ結婚しないと幸せになれないっていう考えが、女性を不幸にするんです」
「いやほら、だからこそね、相手が重要なわけで、その点ディーン君なら申し分ないし、早くツバつけとかないとライバルも多いしね」
「奪い合って手に入れたからって、価値が上がるものじゃありません。そんなにさっさと私を嫁に出したいんですか!」
「いやディーン君なら両親いないから、もしかしたら婿養子になってくれないかな、なんて」
「教授。今とってつけたみたいに、それ考え付きましたよね」
「そ、そんなことは」
「よね!」
「ごめんなさい」
実は結構本気で考えてたりするのだけれど、キャロルの勢いにまけて、ごめんなさいする教授。
「嫁とか婿養子とか、私考えてません。結婚は、家とするものではなく、相手とするものです。
私は当分お父さんの娘でいるつもりですし、将来を考える相手ができたら、必ず紹介します。
二度とお父さんを騙すようなこともしません。
だから! 玉の輿だけが私の幸せだとは思わないでくださいね!」
キャロルが手にし、教授につきつけたのは、ちょっと古めのゲームソフト。
発売日を確認すれば、キャロルが教授と出会う前ごろだとわかる。
養女を育てる育成系。
なぜか育てるのは、義理のお父さん、しかも独り者ということになっている。
育て方によって、娘はやさぐれたり、貧乏性になったりしながら、いろいろな人生がまっている。
王子様と結婚してプリンセスになったらベストエンディングの、マルチエンディングゲーム。
「ところでキャロル。それ、やってみたのかい?」
「もちろんです」
「で、結果はどうなったね?」
「当然、ベストエンディングです」
「他のエンディングは?」
「見てませんけど?」
とりあえず教授は胸をなでおろす。
エンディングのうちの一つには、養父と結婚 というパターンもあるはずなのだ。
教授はそれを目指しているが、見たことはいちどもない……