最初から、ひと目でそのガキを気に入った。
ニンゲンにしては、がたいも立派だ。
ガキのくせに、自分の前に立ちはだかり、にらみつけてくる。
こういうヤツは遊びがいがある。
もちろん手加減などせず、全力でいたぶってやる。
殴る蹴るは当然のこと。
足首をつかんで高く持ち上げ、地面にたたきつける。
腹の一番やわらかい部分を、おもいきり踏みつける。
しょせんガキはガキだ。
だがうれしいことに丈夫なガキで、なかなか死なない。しぶとく生きている。
つまりそれだけ長く、痛めつけることができる、ってわけだ。
最初、ガキは怒りと憎しみをぶつけてきた。
だが反撃もさせずいたぶり、死ぬまでこっちが止めないことを態度で示してやると、ガキの怒りは恐怖へと変わった。
確かにその怖いもの知らずのガキは、怯えを見せた。
これほどゾクゾクする瞬間はない。
最後の仕上げに、頭をぶちわってやろうとしたときだ。
ガキがニヤリと笑った。
まるで、今まで痛めつけられた分などなかったみてぇに立ち上がりやがった。
地面に叩きつけられた。
立ち上がろうとしたとき、両手足の先がなくなっていることに気がついた。
手からも足からも、大量の血が噴き出してやがる。
こいつオレの手を、オレの足を!
だがガキは、笑ったままオレをいたぶりはじめた。
オレがガキにしたことを、全部やりかえしやがった。
年も体格もちがうガキに、徹底的に。
その間もオレの血は流れ出していきやがる。
ガキはオレに気を失うことも許しやがらねぇ。
死んでもかまわねぇと、オレは先端のねぇ足で立ち、手のねぇ腕で挑みかかったが、ガキを喜ばせただけだった。
そしてついにオレは身動きできなくなった。
するとガキは、まだ死なせねぇとばかりに止血しやがる。
その間ガキはひどく嬉しそうにしてやがって、オレは生まれて初めてゾッとした。
いたぶられるのが怖いんじゃねぇ。
殺されるのが怖いんでもねぇ。
このガキの背負う闇が、オレの背筋を凍らせやがった。
だがよ、オレがそのガキに、とてつもなく魅かれたのも本当だ。
ガキは、身動きとれねぇオレをひきずっていき、魔獣の前に放り出しやがった。
この恐ろしくも惚れ惚れするガキに殺されるんなら、納得もいく。
が、普段なら退屈しのぎにもなりゃしねぇ魔獣の餌食じゃ、死んでも死にきれねぇ。
オレはガキに、恐怖に続いて、はじめてやるせねぇってな感情を味あわされた。
ところがガキは、いきなり魔獣を叩き潰しやがったんだ。
そしてガキは嬉しそうにオレを見下ろし、そして拾い上げやがる。
まるでボロ雑巾でも拾うみてぇに。
そう、オレは魔獣のせいで、両手足のない猫になっちまってやがったんだ。
猫にしたのは、そのほうが持って帰るのに都合がよかったからだろうが、両手足のねえ猫の姿で、小脇にかかえられて運ばれるなんざ、まったくやるせねぇ話じゃねえか?
ってなわけで、ヴォルスングはオレを手に入れやがった。
ヴォルスングもわかってるみてぇで、オレはファリドゥーンみてぇに、犬のような忠節を誓うじゃなく、猫みてぇに自由きままにやらせてもらってるってわけだ。