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ワイルドアームズ5

チャック視点で仲間たち

 ディーンについては「いいヤツ」と、命の恩人ってこと差し引いても、かなり好感持っている。
 と、当人もモノローグってる。本心だと思う。なにせモノローグだし。
 
 チャックの歪んだ部分を除けば、結構似たもの同士。
 互いに違いの本質に引かれ合ってる。
 ゴーレム好きで、ハンターに憧れてて、そしてナイトバーンのファンで、女心に疎かった。
 ディーンが、ちゃんとレベッカに向かい合ってないように、チャックも向かい合ってなかった。
 自分がちゃんとルシルと向かい合っていなかったと気づけたのは、
 そしてルシルを失うことや、自分のルシルを思う気持ちと向かい合えるようになったのは、
 同時進行で、目の前にディーンとレベッカがいたから。
 いろんな意味で、ディーンは昔の自分を見ているようだし、昔の自分を上回るヤツだと思っている。
 年下だけど自己投影している理想でもある。道を間違えなかった、強くあれた自分。
 
 うちのチャックは、ディーンに限らず自分の夢を他人の上に描く傾向がある。
 だからこそ、他人の喜びや苦しみを自分のことのように感じる。
 そして他人の不運を自分の責任のように感じる。
 この手は一歩間違えたら正義厨になりかねないが、気が弱いのとあいまってか、そこは間違えていない。
 けどまあ、本物の犯罪者に同情して見逃すなんてしない程の正義感はある
 

 
 女性陣に対しては、結構あっさりしてる。
 ルシルという本命がいるというのもあるし、護らなきゃならない度が男より女の方が上っていうのもある。
 そこには、母親を病死させてしまったという罪悪感もあるし、さらにルシルが売られていくことについて何もできなかったっていう罪悪感が上塗りされている。
 もう一つ、ポンポコ山で父親の事故が再現された以上、次は女性だろうと恐れている。
 ルシルか、でなければ女性陣。
 だから女性陣には、あっさりというよりは、男性陣より距離を置いている。
 

 
 レベッカについては、「ディーンの幼なじみの彼女」という見方をしている。願望といってもいい。
 つまりうちのチャックは、ディンレベ派。ディーンに自己投影した上で、レベッカをルシルに見立て、二人がうまくいくといいなぁという、はた迷惑というか、自己中な考え方。
 ただし、チャックはメンバーの詳細については、出会った時の状況とか聞きかじったことから判断している。
 レベッカが、ディーンの幼なじみっていうのも、そのレベルでの理解。間違ってないけど。
 だから親切にするけど、恋愛感情はない。
 
 チャックは、思春期以前のディーン状態から、異性ときちんと向かい合う大人の対応までの間が、大きく欠けてしまっている。だからこそ、現在進行形でまだまだまるっきりうとくて子どものディーンと、そのディーンにやきもきしているレベッカを横目でみながら、自分の欠けた部分を埋める。
 チャックとルシルのことは、少なくともレベッカにとっていろいろ考えさせられる出来事だったが、チャックにとってもディーンの言動に一喜一憂しているレベッカを見て、ルシルもこうだったのかなと、考えさせられた。
 ルシルとレベッカには、似たところがあると、チャックは思っている。ディーンにガミガミ言ってるところなんか見ると、ルシルにガミガミ言われたことを思い出す。ディーンがあんまりわかってないし、堪えてもいないところも、以前の自分と同じだなと。おまけに、今のチャックにはレベッカが気が強いだけじゃなくて、ディーンの前では涙をこらえていることまで、わかってしまう。そしてルシルもそうだったんだろうなと気づかされる。
 チャックのディンレベについては、妄想と思い込みで出来ている。レベッカについても、そうじゃないところもいっぱいあるし、いろんな性質あげたらそりゃあいくつかはかぶるけど、ルシルと似てるところばかり目につくし、それに自分の思い込みを上塗りしている。
 

 
 アヴリルについては、とにかく混乱。
 チャック視点で見れば、ミラパルスで受けたほぼ第一印象と、仲間になってからの印象が、あまりにも違い過ぎている。他のメンバーは、そうでないアヴリルに馴染みすぎている。一番恐がりのキャロルも、アヴリル=教授っぽい人だし。うん、教授も優しくて頭良いけどちょいボケで、そしてめちゃ強い。
 チャックに戻って、アヴリルがいい人だっていうのはわかる。恐いアヴリルも天然なアヴリルも。
 だから逆に、アースガルズ登場直前のシーンでも、天路歴程号でも、恐いアヴリルに対する不安はない。
 すごくてキレイで優しくていい人だとは思ってるが、チャックの萌えツボは刺激されていない。
(ループアヴリルが、友人以上にならないようにしているというのもある。)
 ED後アヴリルに対しては、より大きな理解を示す。
 なにしろアヴリルは全部うしなってきた。家族も、友だちや仲間も、当たり前だが生存者は一人もいない。
 自分なんかとは比べものにならないほど、たくさん失ったんだっていうのがある。
 まあ、自分を客観的に見て、実のところありふれた不幸にしか巻き込まれてないって判断する能力もある。グレッグに対してもそんなこと言ってたし。
 
 アヴリルの経歴や、チャックから見ると微妙な立ち位置については、まるっきり想像できず、不思議に思っていた。
 途中で記憶喪失と聞いて、やっと少し納得した。
 
 
 
 キャロルに対しては、恋愛感情なし。
 かわいくていい子で、女でしかも子どもで、二重の保護対象っていうのがある。
 薄々、聞いてなくても事情を察している。
 なんか懐かれたなっていうのもある。ただし、猫や婆ちゃんに好かれるのと同レベルの話と思っている。
 さらに女の子にガミガミ言われるのは、チャックにとってはデフォすぎて特別じゃないのとか、キャロルが好きなのはディーンだろとか、好意の裏返しとしてのお説教、レベッカのディーンに対するガミガミと同じだと心の奥では感づいていても、このぐらいの女の子にありがちな気の迷いだろうとか。
 いやキャロルが異性に対する意味で自分に好意を持っているなんて勘違いだと自分に言い聞かせている。
 けれどチャックは、自分の外見や一通りの印象を、わかっている。だからキャロルが勘違いしてるんだと、考える。
 好意に好意は返せても、好意以上は無理。
 じゃあ、キャロルをモテモテディーンにと考えても、チャック的ディンレベが邪魔をする。
 ディーンみたいにお兄さんじゃだめなのか? とチャックは思うのだが、チャックの微妙な距離のあけ方が、むしろ兄妹という関係を阻害していることには、気づかない。
 
 キャロルの経歴については、同地方出身者ぐらいは気づいている。
 そうだろうとあたりをつければ、ハニースデイ以外の村はほぼ無くなっているので、途中いろいろあっても生き延びられるのはベルーニの所に働き口を得るか渡り鳥になるかだけなので、その口だろうとまでは考えている。
 他のメンバー同様、確認してはいない。
 
 他人に興味がないわけではないが、いろいろ観察し想像しているが、深く踏み込むとまずいと思ってるので、そういう確認はしていない。
 

 
 最後にグレッグ。
 メンバー中、チャックがきちんと経歴を把握しているのはグレッグだけ。
 逮捕すべき賞金首の犯罪者だから調べたし、事情聴取までした。
 チャック的には、最初反ナイトバーンとして捉えていた部分もある。
 グレッグに惹かれるというのは、ナイトバーンの呪縛から逃れるということでもある。
 (ちなみに自力で脱したディーンは、その分自分よりずっとすごいと思っている。もっともディーンにとってはテレビの中のヒーローだったが、チャックはまだ逆恨みしていない生ナイトバーンに憧れていたという違いはある。)
 
 他のメンバーに対しては、当たり外れは別にして、想像というより妄想や願望が入るが、グレッグについては当人を見ている。聞き込みにより、ゴウノンのグレッグの評判については、グレッグ以上に知っている。
 仲間になってからは、別段なにも聞かないのは、他の仲間と同じ扱いだけど。
 
 チャックにとって仲間たちは、夢みたいな存在。
 歪みのないディーンも、その幼馴染みのレベッカも、デウスエクスマキナで助けてくれたアヴリルも。
 キャロルは特にそう。
 あの地方には、生きるために村を出た人はたくさんいた。世界への憧れや成功を夢みてなんて生やさしい話はまずなく、生きるために、家族のために、あるいは狩られて。絶望して、あるいは絶望から逃れようと、あてのない希望にすがりついて村を後にしたのは、チャックだけじゃない。
 そして大半が、うまくいかなかった。大半が行方知れず。命を落としたとの知らせが故郷に届くなら、まだましという状況だった。
 そんな中で、きちんとした服と高性能ARMを手に入れ、なんらかの教育を受け渡り鳥としての力を備えられたキャロルは、指折りの成功者なのだ。
 ……これはボクが暗闇の底で見てる幸せな夢なんじゃないだろうか?
 
 けれどグレッグだけは違う。
 チャックにとってグレッグは、仲間の中でも現実を背負った存在だ。
 ゴウノンという恵まれた環境に生まれ育ち、家族という宝を得て、そして理不尽な事件で全てを失った。
 
 ハンターとして彼を追った。
 チャックにとってハンターは、たぶんゴーレムが掘れるってだけじゃなく正義の味方だ。
 そういう理想像は、ナイトバーンによって語られ、すり込まれた。
 だから、自分のことについては事なかれとじっとして、トラブルが大きくならないことを願うことしかできないのに、ハンターとしては犯罪か? と思えば、余計なことにまで首を突っ込む。
 グレッグが遭遇したような事件を防いだり、犯罪の本当の犯人を逮捕するのが、チャックが思っているハンターの姿だ。けれど見習いハンターとしても、すでにギルドの現実がそうなってないことを、知っている。
 グレッグはハンターがすべきことをしているにすぎない。
 ゴーレムクラッシュはして欲しくない。けど、そんなグレッグに比べ、ハンターである自分は、理想とはほど遠いギルドの任務をこなしているだけだ。
 グレッグを凶悪犯罪者だと追い始めたものの、現実はこうだ。
 だからチャック・プレストンとして見逃した。
 そして、仲間になった。
 
 仲間たちから見れば、チャックは薄皮一枚のあるのかないのかわからない微妙な壁をまとっている。
 あることさえ示されず、手応えもない壁。
 ディーンは、そんな壁なんか気づきもせずにチャックの本質を見た。
 ディーンだけじゃなく、チャックは仲間たちに対して、何も隠しきれないでいる。
 別に隠し事があるわけでもない。たまにぶちまけもする。
 
 チャックから見て、仲間たちが夢みたいな存在だからだ。
 ポンポコ山の入り口でディーンを助けて生き方に気がついた。
 ディーンの夢なんか見ない、現実にしないと意味がないという言葉で、夢から覚めた。
 けれど、夢から覚めれば地の底の暗闇の中にいることに気づかされる。
 そこで見た光景は、悪夢そのものの現実。
 現実であるディーンが、自分の悪夢に巻き込まれていく。グレッグがディーンの手を引いて引き離す。
 これは夢か現実か?
 あの時チャックが切望した、助けに現れる渡り鳥のヒーロー。
 父さんを助けて! けれどあそこにいるのは父さんじゃない。
 みんなを閉じ込め多くを死に追いやったナイトバーンだ。
 
 この事件で、グレッグは一歩チャックの夢の中に踏み込んで、ディーンを助けた。過去のチャックを。
 
 チャックにとってグレッグは、こうして今をディーンと共に生きる現実となった。
 
 ボクと夢のようなキミたちではなく、
 キミたちと、現実という夢を見させてもらっているボクと。
 
 それについて、チャックは何も語らない。
 ただ仲間たちがチャックに対して語ったことを、今後ルシルの隣を歩くであろうファリドゥーンに伝えるだけだ。
 

 

グレッグ

 本編中、グレッグの中では圧倒的にディーンの存在が大きかった。

 あの日グレッグにとって、世界は突然色を失った。
 モノクロの世界の中に、ただ復讐に染まった自分がいる。
 その世界のどこかに、顔さえはっきり思い出せないゴーレムの左腕を持った男がいる。
 オレとヤツ。頭の中にあるのは、ただそれだけだ。
 そこから繋がるのは、ゴーレムの左腕。ヤツがベルーニであるらしいということ。ただそれだけだ。

 たぶんグレッグは、それまでベルーニの存在もあまり意識してこなかったんじゃないかと思う。
 威張り腐った気にくわない連中ではあっただろうし、買い付けにくるベルーニの中には傲慢な者もいただろう。逆らうことはできない。だが、どんなベルーニも勝手にゴウノンの酒を取り上げることなどできはしない。なぜなら他のベルーニがそれを許さないし、ゴウノンに代る存在もないからだ。よそからニンゲンを連れてきて酒を造れと命じても、ゴウノンのうまい酒は、ゴウノンの人々でなければ造れない。
 グレッグはゴウノンの一人として、自分たちの生活の糧でもある酒造りの仕事に誇りを持ち、家族を愛し、子どもに理想を語ることを、当然としていた。

 振り子が一瞬にして逆に振り切られる。
 ベルーニの気まぐれで命を落とすといった話は、聞き知っていたかもしれない。けれど人の移動も情報も制限されている。それはどこか遠くの、ゴウノンにはかかわりのない話だと。
 ゴウノンにだって事故もあるだろうし、事件もあっただろう。けれどそうした理解の範囲を超えていた。
 そうでなくとも、目の前で起きた事を心が受け入れなかったとしても、しかたない。
 ゴウノンを出て、すぐに各地の現実を知っただろう。けれどグレッグの心は、もはやそれにショックを受けないほど凍りついていた。ああこれがこの世界の現実なのかと納得しただけだ。

 色を失った世界は、何もかもが記号にすぎない。ベルーニも、ニンゲンも、その間で起きる出来事も。
 かつてテッドが、他の男の子たち同様に大好きであっただろうゴーレムも、ゴーレムハンターも、そしてARMも。
 酒の味も、料理の味も、全てが精彩を失った。

 そこに割り込んできたのがディーンであり、グレッグの前に立ったアヴリルだ。
 けれどなお、チャックの処刑を目の当たりにしても「この世界はこんなものだ」で終わってしまう。
 グレッグの復讐とは無関係だと。
 その「こんなもの」を、目の前でディーンがねじ曲げてしまう。
 けれどその時は、そこまでの話にすぎない。

 成り行きでディーンと一緒にゴウノンへ一時帰還する。
 ゴウノンの香りはグレッグを包み込む。
 妻子の墓という現実と向かい会う。
 このころから、失った息子の代わりとしてディーンを手がかりとして、あの日凍りついてしまった全てが少しづつ溶け出したんだと思う。
 そして追っ手であるチャックと向かい合い、事情徴収に応ずる。
 グレッグはそれまで、自分の事情を誰かにきちんと話すということは、なかったんじゃなかろうか?
 ディーンたちに対してさえも。
 自分の事情を理解してもらい、協力を得ようなどという考えは、世界に自分とヤツしか存在しなくなっていたグレッグには、無縁のことになっていた。
 記号でしかなかったもの。ベルーニの気まぐれで殺されるニンゲン、追っ手であるゴーレムハンターの問いかけに応えたのは、ディーンの存在によって、グレッグの心が溶け始めていたからだ。
 そして記号ではなく人としてチャックを見て、やっと他人も苦しみを背負って生きているのだと心が理解する。

 物事は見た目通りではない。
 大人としてそのことは、ゴウノンで平和に暮らしているころから、知っていただろう。
 ゴウノンを出てからは、それは単なる事実になった。
 だが、記号としてだった。
 それを心が理解しはじめる。
 たとえ追っ手であっても、ベルーニの犬でしかないゴーレムハンターであっても、世間知らずで自分の力を見誤って増長している軽薄な若造に見えたとしても、見た目通りではないということ。
 心で感じられるようになったのは、ディーンと出会ったからだ。
 グレッグは、ディーンを息子の代わりとして見ている自分を受け入れる。
 そして、積極的に保護者の役割を果たし始める。

 ライラベルのことも、ミッシーズミアのことも、グレッグは知っていたようだ。けれど、ミッシーズミアの子に入れ込んで保護者になりはしなかった。全ては記号にすぎず、世界にはオレとヤツしかいなかった。
 グレッグの中で、ディーンを最初の手がかりにして、世界は精彩を取り戻していく。
 ディーンがモテモテなのは、息子がモテモテみたいで単純に嬉しいし、ディーンが出会う人々に一々入れ込んで頑張るたびに、グレッグも世界との繋がりを取り戻していく。

 そしてキャロルが加わりミッシーズミアのパステルを救った後、南東地方に入る。
 ゴウノンと違い、常に厳しい現実に晒されてきた。
 状況は悪くなるばかりで、希望にさえ背を向けて滅びるのを待つばかりの地方。
 このころのグレッグは、仇の手がかりが途切れたこともあり、ディーンの出方を見ていることに熱心なようだ。
 同時にまだ、ディーンを通して世の中を見ているようでもある。
 そしてディーンを通してチャックを見る。簡単には思い通りにならない現実を。
 それでもこの世界ごと変えると決心するディーンを。
 そしてチャックが仲間となる。

 たぶんグレッグにとっては、デカイことを目指す息子(ディーン)にに賛同してくれる仲間=男友だちができたというぐらい。
 嬉しいは嬉しい。グレッグの場合、熱血的な意味で男の親友を特別視しそうだし。
 きちんとチャックを見て、思うところを口にもする。
 けれどディーンの比重は、大きすぎる。ディーン中心に人間関係を捉えていく。
 アヴリルはピンポイントで突いてくるし、キャロルには自然な大人としての保護欲をそそられる。まあ少し前までのグレッグならどうかわからないけど。で、レベッカとチャックは、基本しっかり者だ。
 レベッカの乙女心はよくわからないとしても、チャックのことは一通り出来る子だけど精神的に華奢な所がある、ぐらいの評価じゃないだろうか? 

 ディーンを通して見ると、グレッグにとってチャックはディーンの同年代の友だちだ。
 なのにグレッグ自身の目で見ると、チャックは自分と大人の話ができる相手になる。
 チャックのグレッグに対する態度は、ディーンとさほど変らない。フレンドリーだ。ややチャックの方がグレッグを、大人としてきちんと認めている。
 チャックの認識からすれば、グレッグは命の恩人でも、犯罪者と追っ手だった者がすんなり仲間になれるのか?
 チャックはその関係を忘れ、すんなり仲間に収まり、グレッグに対して仲間として振る舞う。グレッグの方がまだしも以前の関係を覚えている。
 グレッグからすれば、チャックの命の恩人という意識はないだろう。だからチャックに借りはあっても貸しはない。

 チャックの軽薄さを含む多面性の根っこが、普段表に出さないつらい経験に基づくものだろうとグレッグは思うだろう。
 けれどチャックのつらい部分は、グレッグにとっては自分のつらさを映し出す鏡になってしまう。よい意味でも、悪い意味でも。
 グレッグがチャックにかける言葉は、意識されないまま、これからの自分への言葉となっている。
 長らく復讐が全てになり、自分をないがしろにしてきたグレッグの、今後あるべき自分への。
 チャックという鏡に、映し出された自分に対する。
 そうしたグレッグの言葉は、チャックの本質を見てのものでもあるから、チャックに大きな影響を与えていく。
 本編では、そのような事態は起こらなかった。
 だがチャックがグレッグにとって鏡であるなら、グレッグは自分への憤りをチャックにぶつけかねなかったのではないだろうか? そしてその場合、チャックはそれを自分への憤りとして受け入れてしまうのではないか?

 けれどグレッグは、自分にないがチャックにはある部分を、見落としもする。
 まったく同じであるなら、チャックはゴーレムハンターになろうともしなければ、自ら故郷へ帰ることもなかっただろう。チャックはみんなと生きたいからこそ、変ろうとし続けてきた。

 全てが終わったら、死ぬのもいいと考え、仲間の前でそう口にするグレッグ。その頃のグレッグは変りつつあるが、まだ過去を引きずっている。ディーンの反発を喰らい、アヴリルの問いについて考え、具体的な通過点としてのカルティケヤを越え、グレッグは先を見る。
 その時グレッグが鏡としてのチャックに見たのは、現実と向かい合い先を見ているグレッグ自身だったのではないだろうか?
 

 

上続き 仲間たちから見たチャック

 チャックを鏡として、自らを映し出し見ているのは、グレッグだけではない。
 ディーンも、自分と同質の部分をチャックに見出す。
 レベッカは恋愛要素を、キャロルは人に対する恐れを。
 そしてもしかするとアヴリルも、仲間と共にいても感じる孤独を。

 鏡に映し出された自らを見るといっても、そこに現れるのは虚構ではない。チャックの本質の一部だ。
 だがその一部が、チャックを含めたそれぞれにとって大きすぎる。
 それぞれが、チャックの異なる部分にかけた言葉を、チャックはまとめきれないでいる。
 ゴーレム好きでハンターに憧れていたチャック。
 ルシルに恋をしているチャック。
 孤独を隠しているチャック。
 家族を失ったチャック。
 人に踏み込むことを恐れるチャック。
 すべてチャック自身だ。
 そしてチャックも、それぞれに自分を見出す。

 別段相反するものではないとはいえ、それぞれが重すぎる。
 それぞれに影響されすぎる。
 消化するのに時間がかかる。
 たぶんそれが、チャックの流されやすさ なのかもしれない。

 さらにチャックは、ファリドゥーンに自分を見出す。
 ルシルのことだけではなく、軍人であることとハンターであることも含めて。
 たぶん結論として。
 そして自らが仲間たちから学んできたことを、全てファリドゥーンに明け渡す。
 
 ポンポコ山の暗闇から村へ戻りたかった気持ちも、ケントが引き受けた。

 チャックはファリドゥーンのヴォルスングへの気持ちを、受け取らないですませてしまう。
 それはファリドゥーンでなければならない。
 自分は、終わっているのだから。

 

発掘 仲間たちから見たチャック

収録前後がズレたが、上の二つより前のもの。

 周囲はチャックを、こんな風に思ってる。

 善良で、努力家で、善悪はきっちりしてるけど、バランスは取れていて、融通も利く。
 正義は愛してるけど、正義厨ではない。
 ディーンほどは暴走しない。むしろ大人しい。
 これで変なカッコつけと、疫病神だって思い込みさえなければねぇ……。

 疫病神という斜め上の要素が入ってきて、それを普段見せないくせに他人と距離は微妙に保とうとするから、微妙にゴーストが出てるテレビを見ているような二重写しのようなズレが出てくる。
 このズレは、本来の気のいい青年の部分があるからこそ存在する。

 ディーンは、軽薄さに隠されたチャックの本質を、見抜いたんじゃないかと思う。
 そしてチャックにとってもディーンは、自分が作った虚像ではなく、自身を見てくれた相手だったんだと思う。
 軽薄を装って、軽薄であるがゆえにトラブルに巻き込まれ、困っていても通りすがりの他人はあきれるばかりで、トラブルに巻き込まれまいと係わり合いを避けるはずで。
 チャックはゼット系だと言われるが、ゼット系なのは軽薄な部分だ。たとえばゼットが大げさなポーズで登場したとたん、落とし穴になぜか頭からコケ落ちて、足だけじたばたしていても、誰が助けようとするだろう。チャックが装った軽薄さは、そういう類だ。
 そんな軽薄を装っていたのに、ディーンは真剣に助けてくれた。
 ディーンがチャックに見たのは、好青年の部分であると思う。

 レベッカは、見た通りを信じる。だから悪気なく、チャックを騙そうとする。

 アヴリルは、無意識であろうと、ループでカンニング状態だ。ディーンがチャックを友だちだと意識する前から、チャックがディーンの友だちであることを、知っている。深い考察によりではなく、経験で、そう口にすることでディーンがチャックは友だちだと意識するよう、もっていく。


 グレッグにとって、チャックは最初、見た通りの不運な愚か者であったはずだ。
 けれど列車内で、チャックの軽薄と重なる重いものに、気づいてしまった。
 グレッグ自身が重いものをかかえていたから、だけではない。
 たぶんディーンと関わることで、一切の人との交流を拒絶していたグレッグの心が溶け始めたからこそ、他人の抱えるものにも、目を向けることができたのだと思う。
 だから、ミラパルスでは、ベルーニに理不尽に殺されようとしている青年のことを、なんとも思わなかった。グレッグは、背負った重いもののために、まわりが見えなくなっていた。


 キャロルは、チャックの軽薄な部分をほとんど見ていない。
 ハニースデイの一連の騒動、身売りされていく娘を見送るチャックの姿は、あきらめの混じった軽薄さも、追いかけてベルーニに打ち倒される姿も、同地方出身のキャロルにとっては、衝撃ではなかったはずだ。
 ベルーニに虐げられた人々は、不満を口にするばかりで、問題を解決しようとはせず、次第に追い詰められながらも、より弱い者を相手に鬱憤を晴らしていた。
 最弱者であるキャロルにとって、頂点であるベルーニは雲の上で関わらず、身近な人々こそがキャロルを痛めつけた。キャロルは、ベルーニの教授という保護者と、身を護るためのARMという力を得ても、他の人々への怯えを払拭しきれなかった。
 それも、グレッグと同じく、ディーンとのかかわりによって、変り始めていた。
 だが教授も、ディーンたちも、グレッグも、所詮自分とは違う、恵まれて生まれてきた人々だ。
 だから、弱い者にも優しくできるに違いない。
 グレッグでさえ、子どもを失っているからこそ、自分に優しくしてくれるに違いない。
 けれどチャックは、違う。キャロルの村と、状況は大差ない。
 キャロルが最初に見たチャックの姿は、軽薄というよりも、むしろあの地方の典型的な、これが現実だとあきらめきってベルーニの横暴を許す、あわれな人の姿だ。
 にもかかわらず、チャックは自分自身を責め立てるばかりだった。
 もしあのとき、チャックがミラパルスの時のように、ベルーニはニンゲンを道具としか思ってないなんて言ったら、キャロルのチャックへの印象も、変っていただろう。ごく当たり前の、ヒエラルキーの中にいる人なんだと。正規ハンターになって、ヒエラルキーの上位に立つことも、ヒエラルキーから脱することもできるのに、その精神は、村人たちとなんら変っていないのだと。
 キャロルが知っている、恐れるべき普通の人。
 なのにチャックは、自分ばかりを責め立てた。
 ヒエラルキーの一番下の者の反応だ。
 けれど、それとも違う。自分のように、他人を怖がってない。
 疫病神はともかくも、この違和感はキャロルでなければ、わからないだろう。
 チャックは自分より弱い。腕力の問題ではなく、弱者なのだ。だから彼は、自分にとって安全だ。
 それはキャロルの勘違いにすぎない。
 チャックはニンゲンの中で始めて、キャロルが強く出ることができる相手なのだ。
 そして本当に、キャロルにとって安全な相手だった。キャロルが怒っても、困りはしても怒らず、不機嫌にもならない。
 たぶんチャックは、疫病神になる前から、今キャロルが見ている資質を、持っていたのではないかと思う。疫病神というものが入り込むことによって、わけがわからなくなっているが、生まれながらの資質もあるだろうけど、両親や幼馴染の友だちという環境にはぐくまれた、チャックの素質。
 その環境は、小さなキャロルが得ることができず、そして今やっと得始めたもの。
 そしてチャックが、失ったもの。さらに失うことを、恐れているもの。
 チャックは、疫病神などではない普通の人として、ふるまうことができる。けれど本質的に、人を恐れない。疫病神になることで、その傾向が病的にまでなっている。
 けれどそれは、危険なことだ。怯える小動物のように恐れ注意を払った方が、より確実に生き延びられる。チャックは怯えないから、人と距離をとろうとしていてなお、やすやす危険な相手の懐にも飛び込んでしまう。
 キャロルは、その危うさに気づく。
 チャックが羨ましい。そして、あぶなっかしい。さらに腹立たしい。
 その危険に目を向けようとしないチャックが。
 危険がわからないわけじゃない。
 なのに、それを心配するキャロルの想いに気づかない、あるいは気づこうとしない。
 けなげに明るく、とはちがうチャックの軽薄さが。 
 キャロルはチャックのおかしな部分を、感じ取る。
 けれどチャックは、キャロルが思っているよりずっと普通の人間だ。怒りもする、不満も持つ。
 キャロルは気づいていない。キャロルがチャックの性質に気づいたように、チャックも、キャロルの性質に気づいている。そして、気遣っている。
 キャロルは成長するにしたがって、チャックが自分に反論しないことに、不満を持っていく。

 

チャックにとってのミラパルス

 縛り首になるのを待ちながら震えていたチャック。
 あの濡れ衣事件が起きたのがミラパルスだった、っていうのはチャックにとって大きいんだと思う。
 鉱山町。
 採掘夫たち。
 チャックはそこに、ポンポコ山と父親をだぶらせたんじゃないかと思う。
 
 14の時の事故の規模はわからない。
 けれどあたりが真っ暗になるほどの、暗闇に閉じ込められるほどの事故だ。
 犠牲者はチャックの父親だけではなく、他の採掘夫や、もしかしたら見張りのベルーニも、巻き込んだのかもしれない。
 それを確かめることさえ、チャックにはできなかったかもしれないけれど、ミラパルスが鉱山町だからこそ、チャックは何も出来ず、大人しく縛られて処刑を待つことになったのかもしれない。
 自分さえ大人しくしていれば、何事も起きずにすむのではないか? と。
 自分が死ぬ以外、何事も起きずに。
 
 ディーンたちは関係ない。
 14の事故のとき、助けに現れる渡り鳥は、いなかった。
 
 
 そんなことを、考えてみたりした。