ワイルドアームズ5
拳友だち
うちのチャックとケントは、幼なじみの気安さで、拳で語り合ったりもする ことにしている。
チャックのイメージじゃないのは承知してるけど、チャックの中には、元気いっぱいなチャックもいるんだよ、ケンカできる友だちもいるよ、という自分の希望みたいなもの。
ルシルの目から見れば、ケントがやんちゃ坊主だけど先読みがしやすく、チャックは温和しそうだけど何しだすかわからない。ケントは気が強く、チャックが気が弱いのはデフォとしても、トータルとしては似たり寄ったり。
で、うちのディーンは、そんなチャックとケントが、ちょっとうらやましかったりする。
ディーンには、拳で語り合える系の友だちっていないから。
ディーンも男と男としてじゃれ合いたい。
けどチャックはもう大人に近いので、そういうことはしない。
チャックの対応が違うのは、ほとんど付き合い始めた時期の違いでしかないんだけど、それに「ディーンは仲間たちのリーダーである」「ジョニー・アップルシードである」というのが入ってくる。
チャックは組織にいたから、そういうのも一応わかっている。
これがディーンにはもどかしい。
けどディーンとチャックの関係は、ヴォルスングやファリドゥーンから見たら驚愕ものの馴れ合いなんだけど。
つまり、そのディーンとチャックの関係が、これまたヴォルスングには、うらやましい。
ディーンの地位にかかわらず、チャックはあの調子だろうから。まあ、人前ではディーンを立てるけど、かしこまったりしない。で、ディーンは常にマイペース。
そういうラフに人間関係成り立たせてく点で、ディーンと艦長似てるんだと思う。
今は艦長には、チャックにあたる人が身近にいない。
以前はどうだったかわからないけど、Ubやらなんやらでダイアナやらエルヴィスとも離れ、クルーは艦長に畏まっちゃうし。
平凡
普通。平凡。これ以上ないくらいに。ありえないぐらいに。
外見だって定型句になるぐらいの金髪碧眼で。
顔はいいけど、濃い特徴がないタイプで。
平凡な、そこはかとなく貧乏な田舎の農村で生まれて育って。
けどその貧乏は不幸ってほどじゃなくて、それはあたりまえの普通のことで。
だからお父さんが出稼ぎに行くのも普通のことで。
お父さん優しくて強いし、お母さんも優しくて強いし。
愛されていることも、幸せであることも、意識したことなんかないぐらいあたりまえで。
友だちがいて、遊んだりケンカしたり仲直りしたりしてて。
幼馴染みで気になる女の子もいて。
大人の中にはホラかってぐらい夢を語る人もいれば、現状を愚痴る人もいて。
けど身の回りには笑顔がいっぱいあって。
春がきて夏がきて秋がきて冬がきて。
村のゆったりした時の流れの中で、赤ちゃんが生まれたり、誰かが亡くなったりすることもあって。
渡り鳥がくるとか、ベルーニの視察があるとか、ちょっとしたイベントもときどきあって。
人生が変わるような特別なことは何もなくて。
けれど14歳っていうのは、だんだん現実の厳しいところも見えてくるころで。
世界に対して夢も見ているころで。
そして事故が起きて、自分を疫病神だと思うようになって、それから全部変わってしまって。
けれど変わらないところもあって。
明るくて、人なつこくて、誠実で、善良で、優しくて、努力家で、義理堅くて、融通もきく。
笑ったり、怒ったり、泣いたりするけど、恨んだり憎んだりはしない。
疫病神という縛りが、バカなくらいの軽薄さや、空気だったり、空気読めなかったり、ヒキ気味で自己を過小評価気味にしていたり、無意識レベルで自分をないがしろにしていたり、言動にいくつもおかしな影を落としていても、そういうところは変わらない、折り紙つきの好青年で。
恨んだり憎んだりしなさすぎるところが、少し非凡の域に達してるかな? とは思うけれど、普通のレベルの物事に対しては、やっぱり普通に反応してて。
14までの幸せな時期に形作られたベースが、疫病神になってしまったチャックを、支えてるんだと思う。
それがあるから運命を嘆いて死に身を投げ出したりもせず、世を恨んで他からも疫病神と恐れられるような存在にもならず。
自分は愛されてるんだ。愛される存在なんだという、無意識が。
だからどれだけ他人を拒絶しても、他人から拒絶される寂しさっていうのを、チャックは意識したことがないんじゃないかと。
チャックはこの星の子。世界の一部。平凡な、普通の、ありきたりの、この世界の一人。
この世界でうつろいゆく、人。
お父さんが好き。お母さんが好き。友だちが好き。誰もが好き。
善良な。ことさら善良な。泣きたいほどに。お人好し。
別に人の悪意を知らないわけじゃないけれど。
ある日自分が疫病神だと気づいて。けれど普通の人でもあって。
平凡な。ありきたりの。
ありえないぐらいに、平凡な。
寂しがり屋 ではない
明るいチャック書きたい。
暗い部分ばかり書いてるけど、チャックはたった一人で荒野にいても、しっかりそれを楽しんでいる部分もあると思っている。
たとえば荒野のど真ん中で一人バーベキュー、食べ放題バンザイ! みたいな。
いや、もちろん一緒に食べる人いる楽しみも知ってるよ。でも結構一人でも楽しかったりするんだチャック的には。
でも、ちょうど肉が焼けた時点で、ディーンとか来ちゃうんだ。荒野のど真ん中なのに。
で、あらかた喰われる。いやそれもチャック的には楽しいんだけど。
人を避けなきゃならないって想いがあるから、反動で孤独の寂しさも感じるけど、誰か一緒にいないと耐えられないとか、何もできないタイプではないと思っている。
いやむしろ、誰かといる時のほうが弱体化する。
一番力を発揮できるのは、仲間のサポートを受けている時ではあるけれど。
クレイドルじゃ薄暗がりで一人になれなかったけど、あれは仲間がいるからで、一人旅してたときは耐えてたと思うよ。
寂しいのとは、ちょっと違うと思う。
チャックの性質
仲間になる前のほうが、チャックは自分のことを、ディーンたちの前で口にしてる。
ボクといると不幸になるとか、ボクは疫病神だとか。
けど、仲間になってからは、全然言ってない。
まるで忘れてしまったかのように。
一見、仲間になったことで、というか仲間を作るということに足を踏み出すこと=疫病神という思い込みを吹っ切っってるように見える。
が、けど吹っ切れるようなイベントは、何一つない。
直後ナイトバーンが、父親同様の死(死んでなかったけど)を迎えるし。
仲間入りしてからも、微妙に仲間たちと距離を取ってるし。
自分から自分語りしないし、人のことも聞かないし。
何か聞かれても、最小限しか答えないし。
時折ぽろっと、何かこぼすぐらいで。
チャックは仲間に対して、距離を取っている。
しかも距離を取っていることすら気づかせないように、努力している。
だって疫病神だから。
本当は、ぶちまけたいんだと思う。
わかって欲しいんだと思う。
でもどうにもならないって、信じてる。
偶然だって言われるだけだし。
信じてもらえても心配させるだけだし。
だから口をつぐんで、精一杯距離を取って、それさえ気づかせないように明るく振る舞って。
疫病神なんていう思い込みをしていたことすら、忘れたようなふりをして。
確かに仲間になった瞬間は、自分の手で仲間を守ればいいと信じた。
そう決意し実行することが、抱える問題の打開策になると。
けどナイトバーンが目の前で。
それでもケントが生きて戻ったからこそ、まだそこで踏みとどまることができて。
自分は、ケントは確実に、ディーンと同じことをチャックに言ってると思っている。
自分はいなくなったり、死んだりしないと。不運な出来事は偶然だと。
でもいなくなった。でも生きて戻った。けれど不運は続いた。何もできなかった。
仲間としてありつづける。
この手で守る。
けれど、守るために距離を取る。不運に巻き込まないために。
仲間はみんな、いい人たちだ。
けれどチャックにできるのは、口をつぐみ、距離を取り、仲間として仲間を守ること。
いったん仲間になってしまったら、今度は目を離すのが怖くてたまらなくなって。
だってみんなを好きになってしまったから。
相談できない。どうしようもないことだから。
暗闇が怖い。みんなを奪われそうで。
自分の情けない部分を、どれほど見られてもかまわない。
けれど、疫病神であることは、それを恐れていることは、気取られてもならない。
抱えこんで、距離を取って、何気なさを装って、軽く明るく振る舞って。
仲間になる前、チャックが話すことができたのは、所詮そこで別れることができる他人だからで。
仲間ではないからで。
本当は理解して欲しくて。
本当はぶちまけたくて。
けれど怖くて。困惑させ、心配させてしまうことが、申し訳なくて。
だから抱え込もうと。自分の問題でわずらわせたくないと。
だって、これはひどく重いことなのだから。
重くて、重くて、逃げ場などなくて。
荒野に住まう
チャックは、荒野に住んでしまっているイメージがある。
しかも結構、楽しそうだ。
一人だったり、誰かいたり、渡り鳥の来客があったりするけれど、目的地があって、目的地目指して渡る、ということはめったにない。
どっしり荒野に腰を下ろしてしまっている。あるいは、目的地を探して放浪している。それはまだ、名前のない場所だ。
長期間腰を据えてか、ほんの少しづつ荒野を移動しながら、かなり本格的に住んでしまっている。
調査目的なので、そのための道具が結構な荷物になっている。ので、移動にはモノホイールを使っている。
楽しみつつ食料調達と料理には時間を割き、結構食生活面は充実しているらしい。
状況が許せば、お前その細い体のどこに入れてるんだというぐらい、食べたり飲んだりする。許さなければ、状況に応じて食べる量を減らす。
サバイバル技能は結構あって、好き嫌いはなく、結構里暮らしの人々から見ればゲテな範囲までいけてしまう。とりあえず喰えそうなものは口に入れてみるという、こっそりいじきたないところがある。ステータスロックがあるとはいえ、ちょっと危険だ。
肉類、脂っこいもの、甘いものといった、カロリーが高そうなものが、体が求めるのか好きらしい。が、荒野ではなかなか手に入らない。どうしても植物系が多くなる。
ハーブも利用する。枝ごととっておいて乾燥させて、薬味やお茶として使う。ライラベルの行き着けの喫茶店へのお土産にもする。その手の嗜好品の中には、他人が目を剥くようなマズいものもあるが、チャックの味覚自体は正常で、一般的においしいものが何かも知っている。その手のマズいものは、健康を維持するために必要な薬に近いものらしいが、当人はあまり意識して摂取しているわけではないらしい。
人里には、必要があるときのみ寄る。ライラベルのギルドには、よく姿を現すし滞在もする。けれど、どこにも定住はしてない。ハニースデイの自宅も、あいかわらずほったらかしだ。
人里に寄る前には、意識して狩りをし、人里では手に入らないものを持っていく。人里にいる間は、荒野では食べられない物を好んで食べる。酒も人里限定だ。人里を出る時には、塩、小麦粉、油、それからスパゲティとチーズなどを仕入れておく。缶詰も状備品だが、主食ではない。小麦粉はパンを焼くかニョッキにする。スパは鍋に湯を沸かし、湯切りして具を追加する。
けれど里の食事は、彼を足止めするにはいたっていない。