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ワイルドアームズ5

サブPC3人のレベル

なぜグレッグやチャックの加入時のレベルは、経歴の割に低いのか?
あるいは赤目の受付嬢が集めている精気の使い道

 ゲームとしてのバランス的に、と言ってしまえばおしまいなのだが、グレッグおよびチャックのパーティ加入時のレベルは、ディーンたちと大差ない。それどころかチャックの場合、おおむねディーンたちより低い。

 いくらディーンたちが次々危険に首を突っ込んできたとはいえ、たとえ近年急激に魔獣の勢力が増し成長の機会が増えたとしても、2年間破壊活動をしてきたグレッグや、一年間ハンターとして活動してきたチャックのレベルが、ディーンたちと同等というのは、どういうことだろう?

 そこで、実は二人ともディーンたち以上に経験は積んでいたのだが、赤目の受付嬢に奪われていた、というパターンを考えてみた。

 

グレッグの場合

 ブラックマーケットで買い物をした、わけではない。二人とも、それほど特別な物は、持っていない。確かにグレッグの方は、爆弾なんていうものを手に入れるのにブラックマーケットを利用していた、なんて話は、あってもいいだろう。
 だがなにせ、店を開いているのがギルドの受付である。
 いくらなんでも、犯罪者がギルドの受付に出向いて買い物をする、というのは、バカすぎる。
 いやいや、それもバカすぎてありかもしれない。グレッグがギルドの内部に入らなかったのは、逮捕されることを恐れてではなく、赤目の受付嬢と顔見知りであることを隠すためなのだ。
 そう考えることもできる。が、こういうのはどうだろう?
 実はグレッグは、すでに数度、ハンターに逮捕されていたのだ。

 さて、ハンターに逮捕された犯罪者は、どうなるだろう?
 まず一番簡単で一般的なのが、処刑だ。
 ちょっとした物の盗みでさえ、物証や自供がなくとも、ベルーニの権限なら処刑できる。これはベルーニから権限を委託されているギルドも、同じであろうと考えられる。
 だがそれなら、犯罪者を逮捕してギルドに連れていく意味がない。そうしないと賞金が貰えないからではあるけれど、生かしたまま連れて行く意味がないのだ。
 いくらギルドがハンターの手間など考えないとはいえ、別に死体でもかまわない。
 衣食住を犯罪者に提供するような、生やさしい刑務所もなさそうだ。
 そのかわり強制労働がある。
 実のところベルーニは、完全にニンゲンを自由に動かし使える道具や奴隷にしているわけではない。最低限で、不平等で、建前と化してはいるけれど、ニンゲンとは契約を交わし、雇用関係を結んでいる。
 その最低限の人権さえ守られていないのは、ニンゲンであるナイトバーンがらみの場所だけなのだ。
 ミラパルスにしろ、トゥエールビットにしろ、ハウムードにしろ、ニンゲンの労働条件は、ナイトバーンがらみの場所ほどひどくはない。彼が絡む場所では、人はただ使い潰されるばかりで、その分をまた他から連れてきて補充するということが、完全に常態化している。
 その現実と比べたら、ミラパルスでのベルーニ兵の発言など、ただの脅しと言っていいだろう。
 バイト代踏み倒した緑髪の逃亡者も、どこぞで強制労働させられている、らしい。

 が、なにが嬉しくて、そういう場所でこそ破壊活動をし続けるグレッグなんぞを、わざわざそんな場所に招き入れるだろう?
 ならばさっさと処刑するか?
 それが一番簡単だ。
 だがそうなっていないのだから、生かしてさらに破壊活動を許すような必要があるのだろう。
 それは何か?
 ギルドはベルーニの下位組織だ。
 常にベルーニに、その存在意義をアピールしなければならない。
 ベルーニのゴーレム&その採掘事業に噛みついてくるグレッグほど、ギルドの必要性を際だたせる存在が、あるだろうか?
 同時に、ナイトバーンが労働力としてのニンゲンをギルドに集めようとするとき、そして自身をニンゲンのヒーローとして印象づけようとするとき、もっとも手頃な悪役こそが、グレッグだったのだ。
 悪役なくしてヒーローは輝くことはできない。
 それが虚構のヒーローであれば、なおさらだ。
 こうしてグレッグは、悪役として祭り上げられた。
 ファルガイアの少年たちの、ゴーレムやハンターへの憧れを煽る一方、そのゴーレムと規律の破壊者としてのグレッグは、ナイトバーン同様に、ライラベルのテレビを飾ることになったのだ。

 こうなると、当然グレッグを逮捕して名を上げよう、賞金を獲得しよう、ハンターとしての実績を積もうという者も現れてくるだろう。
 グレッグのレベルや、ギルドが出来た時期からして、グレッグ以上の実力を持ったハンターがいなかったとは考えにくい。赤目の受付嬢のセリフからも、うっとりメロメロ級のナイスミドルのハンター(あるいは渡り鳥)の存在を、うかがうことができる。
 そうした者たちを、グレッグが全戦全勝で打ち倒してきたとは、考えにくい。メシス駅でのファリチャク戦じゃあるまいし、彼らの目的は、はっきりしているのだ。
 こうしてグレッグは、何度かは逮捕され、ギルドに連れ込まれたと考える。
 だがギルドとしては、いやナイトバーン的には、まだ悪役に退場されては困るのだ。
 かといって、どんどん強くなられすぎても困る。
 ギルドは、ニンゲンの出る杭を打つ組織にすぎない。
 それが犯罪者であれ、そしてハンターであれ。
 逮捕された犯罪者は、始末される。
 ある者は強制労働力として闇の世界に送り込まれ、使い物にならなければ処刑された。
 あるいはベルーニ向けのブラックマーケットで売られたかもしれない。実験用の生体として。あるいは正真正銘の奴隷として、非常に不利な条件で。
 そしてグレッグというレアなケースにおいては、無かったことにされ、有耶無耶のうちに放り出された。
 吸精によって、そこそこ出る杭を打った上で、ほどほどにゴーレムクラッシャーという悪役を続けさせた。
 テレビの上でナイトバーンが虚構の星であったように、悪役としてのグレッグもまた虚構によってより巨悪に見せかけられていた。
 そんな悪役が、ただのハンターに簡単に倒されては困る。
 グレッグを倒した者もまた、ヒーローになるからだ。
 ナイトバーンは、自分以外のニンゲンのヒーローを、作り出す気はない。その時が来るとすれば、それは彼の手の内で、計画的に行わなければならない。
 そう。グレッグは逮捕されても、野に放たれる。
 だが逮捕してしまったハンターは、消されるのだ。
 そうすれば、賞金だって払う必要がない。
 消えたハンターは、ハンターを引退したとでも、荒野に消えたとでも、グレッグに罪をかぶせるでも、どうとでもできる。
 だが、それを完璧に隠蔽することはできない。
 だんだんと、噂が広まる。
 ギルドについての悪い噂は、すでにハンターの間に、広まりかけている。
 そもそも、受付嬢が言う、うっとりメロメロ級のナイスミドルのハンターは、みなどこへ行ってしまったのか?
 丸ごとのゴーレムを見つけ、あるいは高額賞金首を逮捕したはずの。
 世界中を渡り歩くハンターたちは、気がつき始めている。
 この世界のどこにも、手柄を立て財を築いた引退したハンターなど、いないということに。
 チャックがグレッグを追っている時点ではすでに、他にグレッグを逮捕しようと思うハンターなど、いなくなっていたのだ。
 グレッグは、裏と表の存在を知るが、そんなナイトバーンの思惑など、知ったことではない。
 ただ、自らの復讐の道を歩むだけだ。

 

チャックの場合

 ニンゲンばかりのギルドにおいて、ベルーニである受付嬢は、特別な地位にあると考えられる。
 だとしても、なぜベルーニの彼女が、ニンゲンたちの相手などというメンドクサイ仕事をしているのか?
 上から見下しながら監督するならともかく、ベルーニ的にはあまり面白い仕事ではないだろう。
 もちろんそれは、裏の仕事がしやすいからだ。
 ブラックマーケットと、そして吸精。
 いくらベルーニはニンゲンに対し好き勝手に振る舞えるとはいえ、ここほどニンゲンの精気を集めやすい場所は、ないのではなかろうか?
 大半が外に出ることもなく、いわばベルーニに護られて戦うこともなく、ニンゲンは一生を終えるのだ。
 だがギルドの受付にいれば、渡り鳥同等の者たちが、定期的にやってくる。そして出ていって任務をこなし、また戻ってくる。
 受付嬢にとってハンターなど、鵜飼いの鵜も同然というわけだ。
 もちろん普段は、大量に精気を奪うわけにはいかないだろうし、出る杭を打つというベルーニ的大義名分からいえば、常連ならともかく、あまりレベルが低い者に手を出す理由はない。
 だがハンターたちが育ちすぎないように、精気を少しづつかすめ取る。
 ハンターたちが連れてきた犯罪者からも、ごっそり頂く。
 強制労働送りにしても、あまり強すぎない方がいいし、処刑するなら根こそぎ頂いてもいい。
 そして同様に、手柄を立ててしまったハンターからも根こそぎ頂く。あとはアイテムさえ取り上げて荒野に放り出せば、あとくされもなく魔獣が始末してくれるだろう。
 取り上げたアイテムはブラックマーケットに並べ、さらにブラックパスを持つ者たちから、精気を吸い上げる。
 彼女はハンターからアイテムを買い取ってはいないのだから、出所は、怪しいこと、このうえない。そしてどう見ても、彼女が扱う物には、ベルーニ製としか思えないものもある。

 ともかくハンターたちが、受付嬢の鵜だったとして、そして毎回の吸精が、それとわからぬ程度に行われていたとしても、ハンターはやがて気づくだろう。
 同じ程度の経験を積んでいる渡り鳥と比べて、格段に実力が劣り始めるからだ。
 それが自分だけならば、個人の資質の問題だとか、見えない努力の成果だと考えることもできるだろう。だが、いずれいずれのハンターにも同じ傾向が見られると気づき始める。
 そしてハンターがギルドの任務に忠実ではなかったとき、命令違反をしたときには、あからさまに罰として吸精されるとすれば、どうだろう。
 そのような反ベルーニ的なハンターは、処分されるか処罰されなければならないのだ。

 チャックは故意に、グレッグを見逃した。
 しかもグレッグ移送のためのチケットを手配した、その後で。

 

受付嬢はなぜ精気を欲するのか?

 だが、受付嬢はニンゲンを見下してはいるが、ベルーニ上位主義を守ろうと一生懸命という感じではない。
 彼女にとって、ニンゲンは家畜に過ぎないのかもしれない。
 精気は、彼女の嗜好ないし空腹を満たすためだけのものなのだろうか?
 そのためギルドの受付嬢となり、ハンターが集めた品を横流しして、ブラックマーケットをやっているのだろうか?

 精気を必要としているのは、彼女だけなのだろうか?

 そもそも精気とは何なのか?
 経験によって掴んだ実力か?
 それは、うまいのか?
 吸精したものに、何をもたらすのか?

 ベルーニの受付嬢が、それをニンゲンから得ているのは、なぜなのか? ニンゲンは家畜と同等であり、同族の血をすするようなことができない、からなのか?

 そもそもブラックマーケットでごっそり持ってくあの精気、彼女一人で消費してるのか?

 ベルーニ向けのブラックマーケットもあるとして、売り物はなんだろう?
 ニンゲン? ハンターが集めてきた珍しいアイテム?
 あるいは……ニンゲンの精気?

 ベルーニは、何を対価に支払うのだろう?
 精気? それとも大金?

 ベルーニが欲するのは、ブラックマーケットでなければ入手しにくい物だろう。
 そして今ベルーニがもっとも欲しているのは、健康だろう。
 ベリーやアップル類といった、荒野でしか手に入れられない物なら、欲しがるかもしれない。
 だが、星とリンクしていないベルーニに対し、そうした恵みは、どれほど効果を現わすだろう。
 逆に言えば、そうしたものがUbによる体力低下に対し効果があるなら、ベルーニはあそこまで困りはしないし、荒野のその手の恵みは、すべてベルーニの元に集められるはずなのだ。
 それこそ地の果ての一本のベリーの木にさえ、周囲に柵が巡らされ、ベルーニ兵が監視に立つほどに。

 星とリンクしないもんだから異物として排除されるというUbの性質上、この星の一部であるニンゲンの、この星で得た経験そもものであるニンゲンの精気は、ベルーニにとって特効薬になりはしないだろうか?
 吸精する彼女だけではなく、他のベルーニにも分け与えられるとすれば。

 そうならば、彼女の商売が闇の商売で在り続けるはずがない。
 あっというまにニンゲン全体が、ベルーニに精気をもたらす家畜となってしまうだろう。
 だが、吸精は一般的なものではなさそうだ。
 家畜化されるのはニンゲンだけではない。精気を扱える彼女もまた、同じ立場に立たされ、種族の命運を背負わされ、自由を失うだろう。
 さらに、たとえば精気のやりとりはひどく効率が悪く、できる者も彼女以外に知られておらず、効果もあるとはいえ、気休めでしかないとしたら?
 たとえ気休めにすぎなくとも、それを欲する者は山ほどいる。
 たとえニンゲンの若者百人の命を奪っても、あと一年生き延びたいと考えるベルーニは、少なくないだろう。
 そしてそれは、ニンゲンの命だけでなく、たとえベルーニでなくとも、彼女自身をも危険にさらす。

 そこで、ギルドでありブラックマーケットなのだ。
 彼女はニンゲンに囲まれ、ギルドで精気を集める。
 そして与える時は、ハンターが集めたレアアイテムに紛れ込ませる。
 ベルーニの権力に食い込んでいるギルド、そしてナイトバーンの後ろ盾が、強硬派とは考えにくい。
 だが、浄罪の血涙が放たれクレイドルの使用が絶望的になった後、ベルーニたちは、半信半疑であろうとも、藁にもすがる思いでブラックマーケットを訪れるしかなくなるのだ。
 こっそり与えるそれにより、彼女がベルーニから得ているものは、自身の自由かもしれない。

 

「ハンターが、どうやって学生服なんか手に入れてくるんだい?」
「ああこれか? これはUbで命を失った身よりのないベルーニの若人の遺品じゃ」
「あ……はは……。そう、なんだ」

 
(ホントは学祭のバザーの売れ残りじゃがな。)