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ワイルドアームズ5

人間離れするチャック

 否定しても否定しても、湧いてくるイメージがある。
 それがどうにも気に入らなくて、今まで書いたものの中には、それを強いて否定するものがある。

 たぶん読んでいて、それらは消化不良という印象を与えたんじゃないかと思う。

 イメージの中のチャックは、だんだんと人間ばなれして、疫病神化していくのだ。

 あまりにも憎まなさ過ぎるから、ナイトバーンを憎むべき相手に据えた。

 一旦疫病神に近づけてから、グレッグに無理やり引きずり戻させた。

 なのに、それはそれ、これはこれのノリで、人間離れしていくチャックのイメージは、頭の中で育っていく。

 書くまい、出すまいとする方向性を改めて、いっそ書いてしまったら、決着がつくかもと、そう思い、これを書いている。



 疫病神化したチャックは、それを思い悩まない。
 誰をも憎まず、誰をも愛する。けれどそれは、誰をも愛さないのと同じことだ。
 誰のものにもなるけれど、誰のものにもならない。

 チャックは、むさぼられはしても、排斥はされない。
 ARM使いとして排斥されたロディとは違い、たとえ自分で疫病神なのだと主張しても、まわりはそれを否定する。
 徹底的に、こいつは無害だという印象を、周囲に与えてしまうのだ。

 もっとも弱き者ですら、チャックを無条件に受け入れる。
 普通では、ありえないほどに。
 キャロルだろうが。

 そして善良であるはずの普通の人にさえ、利用してもかまわない、大丈夫だと思わせる。
 レベッカにさえ。

 薄っぺらい軽薄な男を演じていとはいっても、だから無害で、だから利用してもかまわない、というところへ繋がるようなものではない。

 疫病神。
 疫病神に取り付かれているのではなく、なぜ疫病神そのもの。

 チャックが、大地に見える。
 ギリシャ神話のデメテル=ローマ神話のケレス的な大地母神。
 豊穣の神でもあるが、冥界の神でもあり、恵みをもたらすが、災厄をももたらす。

 誰が大地を排斥しようとするだろう?
 誰が大地を利用することに、遠慮をするだろう?
 誰が足元にある大地を、いちいち意識するだろう。
 誰が大地が、自分に敵意を持って荒れ果てていると考えるだろう?

 そう、Ubに苦しむベルーニなら、持つかもしれない。

 どれほど貪られても、ただ受け入れる。
 けれど災厄も、もたらす。



 元から優しかったとしても、人間ばなれした極端さは拒絶しようと、ケントと取っ組み合いをさせた。ナイトバーンを憎ませた。

 月ミーディアムを手に入れてから性格が変わったとしても、人格が支配されて極端になったわけではないのだと。

 けれど頭の中のイメージの一部は、そんな努力にもかかわらず、さらに人間ばなれしていった。

 失踪したチャック。
 手を尽くしても、居場所が掴めない。
 けれどチャックに出会う人は、少なくはない。
 荒野で、あるいは暗い遺跡の内部や採掘場でも、災厄と共に、彼の姿を見かける者がいる。

 いわく迷った時に、手引きしてくれた。彼に呼ばれてその場を離れた直後、落石があった。
 すさまじい寒気の訪れに凍えそうになった時、よりそって暖めてくれた。
 魔獣に不意をつかれた時、助太刀に現れ、共に戦い、怪我の手当てをしてくれた。

 多くは孤独な者たちの前に。
 まれには複数の者たちの前にも。

 そして危機から抜け出した時、チャックの姿は忽然と消えている。
 一緒にいる間、励まされたり、いろんな話をしたはずなのに、記憶から抜け落ちている。
 いつ彼が現れ、いなくなったのかすら、わからない。
 ただ、それに驚きはしなかった。当然のように彼を受け入れ、いなくなってからの戸惑いも、大きなものではない。

 ただ彼は確かにいたのだと、夢幻ではなかったと、なんとなく誰もが受け入れる。
 けれど彼と会いたいと願う者が、所在を掴むことは、できはしない。



 こんなの、かんべんしてくれだ。



 私にとって、チャックが疫病神であることは、絶対だ。
 けれど同時に、平凡な人間でもある。

 セレスドゥで、どん底のチャックを書いたつもりだった。
 その上で、問題を片付けたつもりだった。

 なのに、こんなイメージがまだわいてくる。

 私にとって払拭できないイメージというのは、その場で意味がわからなくても、やがていくつも繋がって、一つの絵を描き出す。

 あるいは考えに考えぬいて、その絵を描き出す。

 絵は必ずしも決まった正解があるわけではなく、努力によって望むイメージをつむぎだすことも、不可能ではない。……はずだ。

 ずっと疫病神であり続けて欲しいわけではない。極端に人間離れした性格をたもったまま、人間離れした存在に、なって欲しくない。

 それでもチャックは、自分を捨て、セレスドウにその身を捧げることを選ぶだろうか?



 自分の中でもやもやしているものを見極めたいなら、こういうの書くよりも、話を書いたほうがいい。
 けれど、時には総受けファリ編のように、自分が撒いたことにすら気づかなかった種の結論を突きつけられることはある。

 チャックに関しては、そういうことが、妙に頻発してもいる。
 答えはずっと前に出ていたのに、突きつけられるまで気づけない、ということが。



 荒野でたった一人、大地に溶け込み、そのまま消えていく、チャックのイメージ。



 ああ、やるせない猫になってしまいたい。