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ワイルドアームズ5

チャックとナイトバーン

 ナイトバーンは、チャックの父親と同年代の可能性が高いと思う。
 少なくともグレッグよりは、チャック父に近いはずだ。

 チャックがナイトバーンの真実を知るのはポンポコ山でなんだけど、普通あの経歴だったら、ナイトバーンに憧れてないってことは、ないだろう。

 チャックはグレッグがディーンにテッドの姿を見たように、チャックもナイトバーンに父親の姿を見ていたんじゃなかろうか?
 村の出世頭。力強い男。

 仕事に誘われたのは親友だけらしいし。
 チャックの方も、むやみと近づいたらとか思うだろうし。
 父親視するからこそ、失うかもしれないと近づけない。けれどナイトバーンは強いから大丈夫じゃないかと、求めてしまう。
 ハンターを目指したのは、ゴーレム好きとか、旅が好きとか、理想とかもあったけど、ナイトバーンにディーンとは別の意味で憧れたんじゃないか?
 そしてギルドの片隅で、ナイトバーンは雲の上の人と、線を引いたんじゃないか?
 ポンポコ山の状況があれで、ギルドがまともじゃないんだから、ハンターも相当大変だったと思う。
 それでも信じて、けれど近づかず。

 で、ポンポコ山でナイトバーンの真相を知る。
 チャックの父の死は、ナイトバーンによる人災の一つだ。
 知った直後、ナイトバーンはチャックの目の前で、同じポンポコ山で、父と同じ死に方をする。
 父とナイトバーンが同じ死に方をしたことが。自分が、殺すにしろ生かすにしろ何もできなかったことが、疫病神であることが、チャックには苦痛だ。

 グレッグに置き換えてみれば、ディーンが真犯人だったみたいな展開。しかも付き合いはもっと長く、なんか善人っぽく目の前で死んで、しかも、死んだと思ったら実は生きていた。

 後がつらいよな。

 ナイトバーン42歳。チャックとはふた周り違う。
 とすれば、ニンゲンが旅をしたり居住地を変えるのにいちいち許可が必要な世界だ。だからナイトバーンにしろ、チャックの両親にしろ、たぶんハニースデイに住んでた可能性が高いと思う。たとえチャックの両親の片方が、他の土地の出身だったとしても、両方がというのは可能性が低いだろう。
 またナイトバーン自身も、ハニースデイにあれだけ大きな家があるのだし、ハニースデイ出身という話もあるから、地元の人であることは、間違いないだろう。
 チャックの両親の、少なくとも片方ぐらいは、子どものころからナイトバーンと知り合いだった。いや小さな村の中の話だから、友人だったとしても、おかしくはないはずだ。

 わからないのは、ナイトバーンがいつハニースデイを離れたか? だ
 が、チャックが自分の父親ぐらいの年齢のナイトバーンを知っていても、おかしくはない。
 いや作中でも、ナイトバーンが村の若いもんを連れ出したと取れるセリフがある。村でも話題の有名人、ちょっとめっきがハゲはじめてるけど郷土の星だ。
 時期的には違うが、ケントもチャックも、ナイトバーンにそそのかされて村を離れた若者と考えていいだろうし、ナイトバーンも時折ハニースデイに姿を現していたと考えられる。ポンポコ山を視察した帰りに家に寄るとか。でもなけりゃ、ハニースデイにあんな大きな家を残しておく意味もないし。

 ただ、ナイトバーンの大切な人であるペルセフォネの姉を亡くしたのが、5年前。
 ということは、村を出たのは5年よりも前ではあるだろう。
 そしてその5年前がターニングポイントで。
 ナイトバーンは、ニンゲンなんか全部使いつぶしてやる! となった。

 ポンポコ山の強制労働が始まったのも、5年前だ。
 たぶん、ポンポコ山という名称自体が、この5年前以降の通称であるはずだ。
 チャックが、帰ってこない父親の様子を見に行ったのも、5年前。

 チャックの父親は、冬場出稼ぎに行っていた。ポンポコ山の採掘場だ。
 あの雪山だから、冬場山は閉ざされるだろう。そして春になったら出稼ぎの人々は帰ってくる。
 山の雪が多かったりすると、帰ってくる日が少し遅くなったりもする。
 けれど、村の周りの雪が消えるころには、帰ってくるはずだ。なんて考える。
 ところがその年は、予定を大幅にすぎても、出稼ぎに行った人々が帰ってこない。

 だからその年にかぎって父親は予定通りに帰らず、心配したチャックは単身山へ出かけ採掘場へ潜入した。

 そして落盤事故がおき、チャックの目の前で父親は帰らぬ人となった。

 その年、ナイトバーンによる強制労働体制が、はじまっていた。
 昼も夜も鳴り響く機械音からポンポコ山と呼ばれ、働きに出た人々が戻らぬ帰らずの山となった。
 これからどんどん人を集めるのだ。ナイトバーンが、実態を知る人々を、山から出すはずもない。
 いやむしろ、この落盤事故は、この体制を確立するよい口実になっただろう。
 生き残った人々を、遺体さえ見つからぬ犠牲者に数え上げ、閉じ込め働かせるための。
 そして新しい労働者を集めるための。
 年貢が同時に引き上げられたとしても、払いきれぬ人々が、帰らずの山と知ってなお働きに出ていくまで、まだしばらくかかるはずだ。


 5年前だ。チャックは十四歳。
 小柄としても働き手にはなる年齢だ。
 ならばなぜ、チャックはハニースデイに帰ることができたのか?
 一つは、落盤事故の生き証人として。
 お前以外は皆死んだのだぞと言い含められて。
 どうしてチャックに、それを疑うことができるだろう?
 一つは、彼が労働力としての価値を失っていたからかもしれない。
 落盤事故による大怪我だ。


 チャックにとっては、禁を破って採掘場へ潜入したら、落盤事故がおきて父親が死んだ。のみならず、他の人々も死んでしまった。生き延びたのは自分ひとりだけ、という状況だ。
 だがそれだけであれば、不幸でショックな出来事ではあっても、それ以上ではなかったはずだ。

 二年後、チャックは十六歳。母親を亡くす。
 血を吐いて死んだらしい。
 砂喰み病もまだなかったはずの頃で、本当に偶然の病死とも考えられる。
 男の子のこの年齢なら、十分働き手になる。
 たとえ旅やゴーレムに憧れていたとしても、母親のための畑仕事を嫌がって外へ飛び出すような性格ではない。
 チャックの暗所恐怖症だとか、母親が夫が死んだ採掘場へ息子をやるのを嫌がったとか、母親が先に体調を崩し…いやそれは突然の話だったという。ともかくチャックは、村で精一杯働くことができたはずだ。
 だが、ベルーニに収めなければならない年貢は、5年前から重くなっている。
 山に働きに行けば年貢が軽減され副収入も得られるはずだが、それもしていない。
 生活は、慢性的に苦しかったはずだ。

 母親は、突然血を吐いて死んだ。チャックは、それを自分のせいだと思っている。
 なぜそこまで思いつめたのか?
 チャックが身勝手なことをして母を追い詰めた、ということはあのチャックの性格からして考えにくい。
 周囲の人々も、落ち込んだチャックに「チャックのせいではない」という言葉をかけていたようだ。
 単純に父親を失って生活が苦しくなったとしても、チャックという働き手がいるのだ。それだけで母親だけが体を壊すほど働きすぎる、とは考えがたい。
 だがそれも、チャックが健康なら、という前提があってのことだ。
 たとえば事故から生還したチャックが、回復に時間のかかる大怪我をしていたとしたら、どうだろう?
 事故から2年。怪我から回復していたとしても、それまで介護の時期が長かったとしたら? 一人前に働くことができなかったら? チャックは自分を責めただろう。
 母親の病気が、貧困とは無関係であっても、チャックはそう考えなかっただろう。

 別のパターンとして、大きな借金があったというケースも考えてみた。
 事故の原因がチャックのせいということになり、賠償金を請求された場合だ。
 だが、そうだとすると無理が出てくる。
 むしろ原因ははっきりと自分にあるとすれば、チャックは超常的なジンクスには、囚われなかっただろう。そしてチャックが原因と名指しされているならば、周囲からも「チャックのせいではない」という言葉も出てこなかっただろう。
 あるいは借金は、チャックの怪我を治すためのもの。いや、魔法で怪我を治す世界、ベルーニならともかく、ニンゲンのための医療は、まるで発達していない。それでも、ありえなくはない。
 だが金がないだけなら、それこそそれぞれの事情にかかわらず、母は奉公に、チャックは採掘場へと、駆り出されるはずだ。
 この時期すでに、南東地方では労働者狩りが、はじまっている。
 セレスドゥであんな書き方はしたが、本編を見るかぎり、当人以外、疫病神だなんて話は、誰も信じていないのだ。

 その翌年、ケントがライラベルに向かったきり、そのまま消息不明になる。
 これもナイトバーンを頼って働きに出た、と考えるのが妥当だろう。
 だがなぜこの時、ケントはチャックを誘わなかったのか?
 最初から採掘場で働くつもりなら、まだしもわかる。チャックは暗所恐怖症だ。
 だがもしそうなら、ケントはポンポコ山に、あるいはライラベルで、他の採掘場の仕事を探すと言っただろう。それを隠す理由はない。
 単にライラベルで、身入りのいい仕事を探そうとしたのか?
 ライラベルにいるナイトバーンを、頼ろうとしたのか?
 村へやってきたナイトバーンにそそのかされたのか?
 ハニースデイの若者たちは、ナイトバーンにそそのかされて村を出たらしい。
 ケントは気が弱いチャックに先んじて一人で仕事を探し、状況をチャックに知らせ、よさげだったら誘うつもりだったのか?
 あるいは彼もゴーレムハンターになろうとしたのか? いや、ならばすでに両親を失っているチャックを、置いていく理由はないし、はっきりゴーレムハンターになりに行くと話したはずだ。
 たとえチャックが、親しい人を失うと思い込み、幼馴染たちとのも関わりさえ、絶とうとしていても。
 ケントとの関係は、最後まで良好だったはずだ。たとえチャックが一方的に拒絶しようとし、たとえケントがそれに怒ったとしても、二人は親友でありつづけた。
 あるいはチャックが、村を出ることを嫌がったのか? その理由も、ルシル以外にはなさそうだ。
 村を出る気がないルシルの元に、チャックを残していったのか?
 ともかくケントは、ふといなくなったわけではない。
 ライラベルへ向かったことは、わかっている。
 そして消えた。
 チャックの、自分が大切に思う人はいなくなる、自分は疫病神だという想いを、裏付けて。

 そしてその翌年、チャック十八歳。
 ゴーレムハンターになるべく、ライラベルに向かい、ハンターギルドの門を叩く。
 一年後、正規ハンターになるまで帰郷せず、ルシルに手紙一つ出さず。
 それがルシルを心配させることは、知っていたはずだ。
 けれど、たぶん、自分は疫病神だと信じるチャックは、ルシルが大切だからこそ、関わりを絶った。
 正規ハンターになれたら、自分は変れるとそう信じて、それを自分に禁じた。

 もちろんそれだけではないだろうが、もしかするとハンターになり、世界を自由に旅することができたら、ケントを探せると考えたのかもしれない。
 ゴーレムが好きとか、渡り鳥や旅への憧れもあったろうし、平和を護るハンターの務めにも引かれたろうし、単純に仕事を他に求めたという面もあっただろう。
 だが、渡り鳥ならともかく、仕事をハンターに限ってしまえば、道はたやすくないはずだ。
 しかも暗所恐怖症というハンデもある。
 それでも一年で、十三回の試験をクリアし見習いになり、六十六の功績を上げて正規ハンターになった。
 これが平均的なのかどうか、わからない。グレッグ捕まえたら一気に正規ハンターになんていう話が出るぐらいだから、功績の数え方もよくわからない。
 が、遅い方ではないと想像する。

 ちなみにディーンがカポブロンコを出る時は、ARMが足らなくて困っていたが、それは隠れ里であるためベルーニからARMが供給されてないせいなので、その点は問題ない。見習いになったときパイルバンカーを手に入れたらしいから、チャックが最初手に入れたのは、もっと普通のARMだろう。

 ハンターは、どうも脱落率が異様に高いらしい。
 合法的な旅と、列車パスだけが目当ての不真面目ハンターも多いようだ。
 というか、チャック以外に、たいして真面目に仕事してるハンターをさほど見かけない。ナルシーハンターとか、まだ真面目そうだよな。軽薄ハンターのチャックと一緒にしとくと、結構面白そうだし。
 いや、十分功績上げたハンターは、引退してどっかで安楽な暮らしをしているとかいうけど、消されてるらしいし。なんのこあたない。ナイトバーン以上のニンゲンが現れないのではなく、頭角を現した者が早々に消されていただけだ。
 なにせあのポンポコ山を支配するナイトバーンの組織だ。ギルドだってまともであるはずがない。力及ばず脱落したのではなく、実態に気づき失望し、あるいは見切りをつけ、離れた者もいただろう。
 チャックも、ギルドはグダグダだと言っていた。
 正規ハンターとなってすぐ、ディーンたちと合流した。だからこのグダグダは、ナイトバーンが行方不明になったためのグダグダではない。
 犯罪者を逮捕することの実質が、ベルーニに逆らったニンゲンをニンゲンに狩らせるのがメインというのは、明言されたことではなく捏造ではあるけど、あながち外れでもないと思っている。グレッグだってその一人だと言えなくもない。まあ、普通に犯罪を起こして逃げてるヤツを捕まえるのも仕事だろうけど。
 それを知っていてなお、チャックはハンターでありつづけた。その仕事に誇りを持っていた。
 ハンターギルド自体に失望はしなかった。

 渡り鳥は非合法な存在だ。だがハンターもベルーニの軍人も、別に渡り鳥を追い掛け回してまで捕まえようとしてない。それどころかハンターは、一般的には渡り鳥の一種として数えられ、区別すらされていない。
 ハンターも、保安官も、渡り鳥というだけで犯罪者扱いなどしない。兵士のほうも、同様だ。
 それどころかミラパルスでは、住民皆殺し宣言が出された時、渡り鳥であるグレッグは、住民じゃないということで、あっさり自由を手に入れてしまっている。
 それだけベルーニ側も、いい加減なことになっているようだし、人手も足らないんだろう。ベルーニの領分を侵さなきゃ何してようが構わないというか、労働力としてしか見てないけど、ポンポコ山のように閉じ込めて強制労働させてるわけじゃないなら、渡り鳥なんて逃げちゃうだけだから、余計な仕事をしたくないのかもしれない。
 労働者狩りは、今のところ南東地方とポンポコ山に限っての話のようだ。
 それだけ、ナイトバーンの強制労働採掘場というのは、新しい試みだったんだと思う。

 さて、気になるのはディーンたちとポンポコ山に潜入したシーンだ。
 このグダグダ発言を含め、ディーンのナイトバーンについての質問に対しても、雲の上の人だからとチャックはそっけない。
 そんなことが、あり得るのだろうか?
 ナイトバーンは、同郷の、父親と同じ世代の男だ。ハニースデイにも若者たちの勧誘に来ていた。
 にしては、チャックのナイトバーンへの反応は、そっけなさ過ぎる。

 そりゃまあ、ファリドゥーンにヴォルスングのことを頼まれてもスルーするのがチャックだけど。

 ケントを見つけ、ナイトバーンの本性を見た時にしてもそうだ。
 親友が生きていたことを、心から喜んでいる。
 ナイトバーンを、ひどいヤツだとも言う。だが、それだけだ。
 むしろディーンの、夢なんか見ない発言のほうに、チャックは反応している。

 父親が死んだ山に、親友も囚われていた。
 なぜ昔、あの年にかぎって父親が山から帰ってこなかったのか、チャックが気づかなかったとは思えない。
 いまだに自分を疫病神と呪い、暗所恐怖症を抱えている、チャックなのだ。

 目の前で、父親が死んだその山で、ナイトバーンが落盤に押しつぶされても、チャックはなぜ何の反応もしなかったのか?
 口も利けないほど怯えていたのだろうか?
 過去の事故の再現に、自分はやはり疫病神であると、その身を呪ったのだろうか?
 寸前、自分の手で大事な人を災厄から守ると誓った。
 もちろんナイトバーンは、大事な人であるはずがない。
 ナイトバーンが本性を出した直後のことなのだ。
 ディーンは、やはりナイトバーンは憧れのナイトバーンだったと、見直している。
 そしてナイトバーンは、ディーンの命を救った。

 だがチャックにとってのナイトバーンこそが、グレッグにとってのカルティケヤと同じなのだ。
 割り切れるはずがない。
 その後、ゴーレム暴走時にハニースデイを救ってもだ。

 だからといって、チャックは全てナイトバーンのせいだとして、罪の意識を消し去ることなどできないし、しないだろう。

 そしてポンポコ山以降も、チャックはギルドについて語っても、ナイトバーンについてはスルーしている。
 いや、ファリドゥーンにヴォルスングを頼まれても、スルーしている。

 …結局変わらなかったんじゃないか?
 変わることを諦めたんじゃないのか?
 そう誓ったそのポンポコ山で、すぐさま最初の事故が再現されるのを見て。
 ナイトバーンに対しては、複雑な感情はあっても、それをすべて内に閉じ込めていたのではないか?
 仲間になったディーンたちと共に戦う時は、HPが減るほどがんばるけど、大切な人を失うという恐怖からは、逃れられなかったんじゃないか?
 だからファリドゥーンに頼まれても、ヴォルスングのこともスルーしたんじゃないか?
 わざわざチャックを指名して、ファリドゥーンは頼んだのに。
 そしてチャックは、実のところヴォルスングとも面識があるはずなのに。

 近づけば失ってしまうから、他人と深い関わりを持つまいとする部分は、そのままだったんじゃないか?
 むしろ仲間たち以外に対しては、ますますひどくなってるのではないか?
 ルシルのことも、離れたまま見守ろうとしたのではないか?
 ライラベルで、ナイトバーンがハニースデイを救うのを見ても、ディーンは感激しているのに、チャックはまるで反応していないといってもいい。故郷がゴーレムによって破壊され、親友がその前に立ち、ナイトバーンが現れ活躍した、その様子を目前にしてなお。

 何を思っていたのか?

 そして、もう長くはなさそうなことを言ってるナイトバーン。
 後日宣伝フィルムは残るが、姿は消すらしい。

 ナイトバーンがチャックにとってのカルティケヤとしても、これじゃどうやったって、そのことを乗り越えられるとは思えない。
 たとえチャックが、ポンポコ山の二度目の事故を、自分で引き起こしたと思っていたとしても、それは復讐にもならなければ、乗り越えることにもなりはしない。むしろチャックの場合、罪悪感の上塗りだ。

 ライラベルで見上げれば、テレビの中じゃナイトバーンは英雄であり続ける。
 これまでも、これからも。
 ディーンはナイトバーンを、認めている。
 人々は英雄としてのナイトバーンを、当面必要としている。

 チャックは、怒ることはあっても、恨んだり憎んだりしない。極端なほどに。
 他人を退ける。深い関わりを持とうとしない。
 だからこそ、恨んだり憎んだりもしない。
 チャックは仲間に対しても、自分を真っ向からぶつけようとはしない。
 例外が、ポンポコ山で、ディーンに対して叫んだ時。
 そして改造実験塔での、ファリドゥーンに対してのみ。

 それ以外にも例外はある。ルシルとケント。自分を疫病神と思うようになる前からの人間関係。
 その関係は、チャックが人との関わりを避けようとするようになる前に、作られた。
 けれどチャックは、奉公に行くルシルを黙って見送ろうとし、全力でぶつかって失敗した。
 思いがけず、ケントを取り返した。

 では、ナイトバーンはどうなのか?
 あるいはヴォルスングは?
 公式設定では11年前。チャックの両親はまだ健在で、チャックは8歳程度。
 このときナイトバーンは31歳。村にいたかどうかは不明。
 ……この辺の時系列、セレスドゥシリーズでむっちゃ違えてる……。
 正直このへんで、ナイトバーンとヴォルスングに面識ができてると、後の展開がわかりやすいよなとは思う。
 ナイトバーンがニンゲンとベルーニの関係を拒絶する星の意思を感じ取り、ニンゲンの滅びを望んだ時、それは怨念に取り付かれたヴォルスングと共鳴するはずだから。

 ともかく、ナイトバーンはチャックにとってどのような位置にあるのか?

 同郷。ちょうど父親ほどの年齢。ギルドマスター。所属組織のトップ。
 父親視するとしたら、少なくともグレッグよりもナイトバーンのほうが近いのだ。
 後にわかったナイトバーンの悪行。
 わかったときにはすでに、ナイトバーンは、英雄的な死によって、本当に手が届かない存在になっている。
 落盤事故が二度目前で繰り返されたように、ナイトバーンの英雄的行為もチャックの目の前で二度繰り返され、駄目押しされる。
 彼の虚像は英雄として、巷にあふれかえっている。
 それは真実を含む虚像。
 事実チャックは、ナイトバーンのなした偉業について、誰よりもよく知っているのだ。
 ギルドの理想を、理念を、誰よりも理解しているのだ。
 ハンターであることに、誇りを持っているのだ。

 チャックはナイトバーンとは、まるで浅いかかわりしかないように振舞っている。
 同じハンターといっても、雲の上の人だと。
 まるで思うことが、何もないかのように。

 自分の経験してきたことを、グレッグほどつらい話じゃないんだと笑うチャックを、私は思い出す。

 なあグレッグ。復讐を乗り越えたあんたに聞きたい。
 チャックはどうすれば、それを乗り越えることができると思う?