今日は事務所に、珍しい客がやってきた。
頭巾を被った和装の女だ。
「十四代目は、うまくやっていますか?」
「ええ、こっちも有能な助手を得て、助かってます。間もなく学校から帰ってきますよ。
それまでコーヒーでもいかがです?」
「不要です。それをあなたの口から確かめられれば充分です」
本当にそれだけで、和装の女は鳴海探偵事務所を後にした。
狐につままれたような気分だったが、しばらくすると鳴海はすっかり忘れていた。
ライドウと一緒に歩いていた悪魔は、ふと富士子パーラーをのぞき込んで仰天した。
どこぞで見た、ここにいるはずのない偉そうな女が、ひとさじひとさじ味わうように、アイスクリンを食べているのだ。
しかもその女には、あるはずのない立派な尻尾が生えていた。
その日、名も無き神社のオキツネサマの片方の口の周りに、白いクリームがついていた。
けれどそれを知っているのは、向かいのオキツネサマだけだった。
このところ、酷く暑かった。
夜になっても風もなく、ひどく寝苦しい日が続いている。
が、鳴海の部屋は別だ。
何しろ扇風機がある。が、書生であるライドウの分まではない。
それだけでなく、勝手に懐いている小さなイチモクレンもいる。
こいつも暑ければ好意で風を送ってくれる。
なら扇風機をライドウに貸せば良さそうなものだが、イチモクレンが扇風機と張り合っているというか、じゃれあっているというかで、離れてくれない。
扇風機があるだけで、コンセントを差していなくても羽根がクルクル回り、風が吹く。
おかげで電気代は助かっているし、鳴海が寝入るころには風も止まるしで、大助かりだ。
もちろんこの時代の扇風機には、タイマーなどない。
ついでに人々は、扇風機の風にあたったまま寝ると死んでしまうなんて信じている。
(そういやライドウは夏でも外套を手放さないが、暑くないのか?)
暑くない、なんてことはないだろう。
いくら暑さ寒さよりも形式を重視する度合いが強いこの時代とはいえ、この季節の学生は、外套どころか上着もなしだ。
(ありゃあやっぱ管を隠すためだろうな。)
自室で夜遅くまで試験勉強をしているのを覗き込んだ時には、シャツ一枚になっていた。
なぜか帽子は被っていたが。
(扇風機、もう一台買うか?)
だがそれは、実現しないだろう。
とにかく高価だし、無理して買ったとたんに熱帯夜が終わりそうな気もしないではない。
それに書生には団扇以上は贅沢だ、という風潮も強い。
(まあ、どうしても暑けりゃ、ライドウなら悪魔に風を送るよう頼めるだろうしな。)
そのころライドウの部屋は、風はなかったが程よく冷却されていた。
『こんぐらいでいいホー?』
ライドウは、小さな雪だるまのような悪魔に向けて、ありがとうと微笑んだ。
大國湯の平和と安息を護る関東羽黒組の幹部補佐の兄ぃたちは、少しばかりビビッていた。
朝から下駄の鼻緒は切れるし、黒猫には横切られるし、ふれてもいない茶碗は割れるしで、嫌な予感はしまくりだった。
それでも佐竹の親分の前で弱気は見せられないと、精一杯虚勢を張っていた。
ドスの一本でも頼りにしたいところだが、銭湯の中にまでそんなもの持ち込んだら、親分にどやされる。
このモンモン背負った身一つで親分と、親分が大好きなこの銭湯を護ってみせる。
なにせ親分は実力者だ。慕われてもいるが敵も多い。
身一つになるこの場所は、特に危険だ。
だが危険だからといって、小さな内風呂に閉じ籠もるようなことはしなかった。
それに親分は強い。拳を振るえば鬼神のようだと噂されているほどだ。
とはいえ、そうそう銭湯で騒動を起こしていたら、営業妨害もいいところ。
佐竹の親分はわかっているから、他のまだ日が高く客など滅多にいない、風呂が湧いた直後にやってくる。
やがて親分が銭湯を出ていっても、兄ぃたちはそこに残る。
でもって特に組の若いのなんかが普通の客に不調法をしないよう、しっかり見張る。
大國湯の平和は、兄ぃたちによって保たれていた。
***
で、嫌な予感がしまくりでぴりぴりしていたその日、ここらじゃ見かけぬヤツが、洗い場まで帽子を被ったまま入ってきた。
まだ二十歳になってるかなってないかの年頃で、普通ならただのうっかり者で終わっていただろう。
ところがこいつは、自分らのモンモンにびびりもせず、タオルで前を隠しもせず、堂々と洗い場を闊歩した。
怪しい。怪しすぎる。こいつは本当に風呂に来たのか?
もしかすると狙いは佐竹の親分では?
それこそ緊張している兄ぃたちの、猫の尻尾を踏んづけたようなものだ。
いや兄ぃたち的には、不機嫌なトラの尾を踏まれたと言わなければ、沽券に関わる。
「帽子かぶって風呂とは、ずいぶんバカにしてくれたもんよのぉ」
立ち上がり、帽子の前に立ちはだかる。
確かに帽子で風呂はおかしいが、もはや難癖以外の何者でもない。
幸い他に客はいない。
風呂屋の番頭は、口を挟めない。
だがそれでも、帽子の青年は動じなかった。
「やめんかぃ! お前らのかなう相手や……」
佐竹の親分が口を挟むが、言い終わる前に決着がついていた。
意識を取り戻した時、脱衣所の床に寝かされていた。
目に映るのは風呂屋の天井と、のぞき込んでいる佐竹の親分。
「ワシがやめろと言うたら、すぐにやめるんじゃ」
やっと何があったか思い出し、いや何がどうなっているのかわからなかったが、とにかくノされたと気がついて、飛び起きて親分の前に面目ねぇと土下座する。
そして、あいつはどうしたんで? と、恐る恐るお伺い。
「帽子は取らんかったが、ワシが教えた通りに身体を洗い、一番湯にのんびり肩まで浸かって帰ってったわ」
「お、親分を差し置いて一番風呂にッ!」
「ああ、あの熱い湯に肩まで浸かり、心底喜んどったわい」
沸かしたての一番風呂は、熱いのが普通だ。
大國湯の場合、特に熱い。そのお湯でお茶が入れられそうなぐらい熱い。
早く入りたいからと、せっかく湧かした湯を水で埋めるなど言語道断。
その熱すぎる湯が頃合いになるまで、湯船の縁に座ってのんびり待つ。それが親分の、誰にも邪魔されたくはない、一番贅沢な時間である。
「つまり親分が、あのヤロウの首ねっこ捕まえて、煮え湯を飲ませたってことで?」
兄ぃの言葉に、親分は嬉しそうに笑う。
「いいや、ワシにも入れん熱い湯に、涼しい顔で嬉しそうに浸かりよった」
兄ぃたちは、顔を見合わせる。
親分にとっての頃合いは、子どもなら泣き叫び、老人ならひっくり返り、若く健康な者でも飛び上がるほどの熱さなのだ。
兄ぃたちが止めなければ、湯気の熱気に気づかぬおっちょこちょいや、朝から飲んでる酔っぱらいが入ろうとした湯船は地獄の釜と化し、釜阿鼻叫喚の地獄絵図が出現するに違いない。
親分に続いて、兄ぃたちが湯に入る頃になっても、まだ熱く根性試されているような状態だ。
兄ぃたちが湯を上がるころ、やっと湯は並の熱さになっている。
その熱い湯を極めた親分が入れぬ熱湯に、肩までつかって喜んでいる帽子の男。
スゴイというより、不条理な風景に思えてならなかった。
「そういやあいつは、自分は『るー』やと言うとった。異人の名前は面白いのぉ。ワシのモンモンが珍しいのか、大黒さまに話しかけとったわ。それがまたライドウがどうしたの、キッカケがこうしたの、異人の考えることは、わからんな」
「げっ! あの書生の仲間やったんかいッ!」
佐竹の親分のモンモンは、大黒さまだ。といってもふくよかで袋を背負った方ではなく、恐ろしげな三面六臂の大黒天。
親分の振るう鬼神のごとき拳は、この大黒天の加護によるとも言われている。
一方兄ぃたちの言う書生の方は、先日やっぱり帽子で洗い場に入ってきたヤツのことだ。
でもって兄ぃたちは、その書生にもノされてしまった。
立場上、これは恥ずかしいし、情けない。
それだけならまだ、世の中すごい書生がいるものだで済んだ筈だが、二度目である。
どう見たってあの『るー』と名乗った男は、優男だった。
しかも名前が『るー』である。
親分に、見放されやしないだろうか? 親分に、見捨てられるんじゃないだろうか?
雨の中に捨てられた子犬のような目で、兄ぃたちは親分に視線ですがる。
兄ぃといっても、いい大人だし、仮にも幹部候補ではある。
だが、余裕がないからこそ虚勢を張る。
虚勢だけで身を保つ。
そんな兄ぃたちに、佐竹は父親の威厳をもって教え諭す。
「最初から見かけで相手を決めてかかるのがいかんのじゃ。ありのままを見ようとしてりゃあ、いずれ背中のモンモンが教えてくれるわい」
「モンモンが?」
「ああ、背中の大黒さまがワシに教えてくれたんじゃ。あのルーとやらが入ってきたとたん、大黒さまがぴりぴり震えよったわい」
やっぱり親分はワシらの親分じゃ。どこまでもついていきやす。
その日兄ぃたちの目には、ことさら佐竹の親分の背中が、大きく映っていたという。
(いや驚いた。まさかあのような悪魔の中の悪魔が、人に擬態し銭湯に来るとは思わなかった。しかも湯にまで浸かっていくとは。あの方が動き、人の名を口にするなら、人の世と異界に関わる双方に、また何やら起きると見たほうがよさそうだ。)
佐竹親分の背中で、大黒天が唸っていた。
『大黒天(ダイコクテン)』
インド神話の三大神の一柱シヴァの戦いと破壊を司る部分が、仏教に取り込まれて生まれた神。
-中略-
密教では象皮を背負った三面六臂(三つの顔と六本の腕)の姿で現わされた三面大黒天が一般的だが、日本では袋を背負った二臂(二本の腕)の姿の方が有名である。
新紀元社『東洋神名事典』より
大正二十年。
それを正史ではないという者もいる。
大正は十五年で終わるのだと。
それが正史であり、大正二十年は後の世からの介入によって枝分かれした、平行世界の一つだと。
だが、大正二十年を生きる者にとって、お前たちの全てが嘘だと言われても、だからどうしたとしか、言いようがない。
知らぬ人もいるだろうから、平行世界について説明しよう。
もしあの時あの偶然がなかったら? 今こうなってはいないだろうと思えることはないだろうか? 紙一重の経験をしたことはないだろうか?
あるいは、同じ目的地に到達する分かれ道で、右を選ぶか左を選ぶか。
何事もないかもしれないが、その選択により生死を分ける事件や、生涯かかわる出会いと遭遇するかもしれない。
たとえば試験の一点差が、その後の人生を変える可能性。
それは試験直前のわずかな時間を惜しみ、適当に開いた本のページが偶然出題範囲だったために、得られた1点だったかもしれない。
開いた場所が1ページずれていたら、その1点は得られず、試験に受からず、その学校に通えず、知り合う友すら違っていた。
僅かな違いも人生をかえる。その人物が帝都や世界の命運にかかわるなら、それもまた僅かな違いに左右されたと言えるだろう。
その右へ行った歴史と、左へ行った歴史は、平行して本来交わることなく存在する。
それが平行世界の観念だ。
いかに低い可能性であろうと、可能性があるかぎり、それが実現する平行世界も存在するし、常に可能性がある限り、平行世界は増殖しているという者もいる。
ライドウは、様々な事件に巻き込まれるうちに、平行世界に紛れ込み、その世界の自分と出会った。
仮に雷堂と表記しよう。
読みはライドウで、体格も顔立ちも、よく似ている。
同じく帝都を護るデビルサマナーであり書生でもある。
だが、ライドウはハイカラなモダンボーイ、雷堂は強面のバンカラであった。
流行のモボに背を向け、硬派一直線の青年だ。
ハイカラとバンカラへ至る分かれ道が、どこにあったのかは、わからない。
帝都にやってきてからなのか、あるいは発生時点からなのか。
つまり受精を待っていた卵子に、タッチの差でたどり着いた精子の違いかもしれない。
精子の持つ遺伝子の僅かな差は、同じ帝都を護るサマナーとして十四代目を襲名しつつも、後にハイカラとバンカラという違いになった。
とすれば、ライドウと雷堂は、最初から兄弟程度には似てもいるし違ってもいると言えるだろう。
違いはもっと大きかった可能性もある。大学芋より甘納豆が好きだとか、師範学校の入学試験に失敗して浪人したまま書生になり私服で活動しているとか、明るくて軽くてお喋りだとか、猫毛アレルギーがあってゴウトとの付き合いが大変だとか。
もちろん、何もかもそっくりだけど葛葉ライドウの名を継いだのは、まったくの別人だった世界もあるだろう。
ともかく平行世界は、可能性の数だけ存在する…かもしれない。
と、いうわけで。
「おーいライドウ。お前に来客だぞ」
鳴海に言われてライドウは、そして連れの雷堂も、目を剥いた。
以前ライドウは、雷堂の世界に紛れ込み、雷堂の協力も得つつ帰還した。
今回雷堂がライドウの世界に紛れ込み、今帰還のために力を合わせている所だが、すぐには無理そうなので、いったん腰をおちつけようと、鳴海探偵事務所に戻った所だ。
鳴海相手なら、平行世界のことを説明してもいいし、それ以外の者の目に止まっても、どう見たって兄弟にしか見えはしない。
だが、事務所にはもう一人いた。
たぶん、かなり離れた平行世界のライドウだ。
面立ちや雰囲気は似ているし、間違いなくサマナーでもある。
だが、女の子だ。
女学生だ。
しかも、ひどくちんまりしている。
泣いてたのか、大きな目と頬が、真っ赤になっている。
事務所の来客用の椅子にちょこんと座って、両手でコーヒーカップをかかえている。
「なんだライドウ。お兄さんを迎えに行ってたのか。先に言っといてくれれば、妹さんが来た時、オレも慌てずにすんだんだがな。さてと初めまして、鳴海です」
何も聞かれず雷堂が、ライドウの兄にされてしまった。
とりあえず、そういうことにしておく。
この状況で、平行世界について説明する気力など、強敵と戦ってきたばかりのライドウにも雷堂にも、ありはしなかった。
とりあえず、彼女を『らいどう』と表記する。
この時代、兄弟姉妹がたくさんいるのが普通だから、見た目そっくりなライドウたちを、鳴海が無条件で兄弟だと思ったのも、不思議ではない。
もっとも年は、『らいどう』も含め、同じだった。
そして当人の話によると、『らいどう』も雷堂とよく似た状況で、この世界に飛ばされて来たらしい。
ただし『らいどう』は、平行世界の自分と出会ったこともなく、こんな経験も初めてで、彼女のゴウトともはぐれてしまい、何が起きたのかもよくわからないまま、鳴海探偵事務所に帰って来た。
そしたら鳴海ちゃんが、『らいどう』のことをまるで知らないもんだから、びっくりして、泣いてしまった。
ライドウと雷堂は、ため息をつく。
状況的には、雷堂と『らいどう』の世界の帝都は、今似たような大きな危機に晒されている。二人とも急いで帰らなければならない。
雷堂一人が帰還するにも、かなり難しい試練をくぐり抜けなければならないのに、そこに『らいどう』が加わった。
試練…、こっちで引き受けてやるしかないよなあ。てか『らいどう』は自分の世界で、帝都を護りきれるんだろうか?
ライドウも雷堂もそうは思うが、結局自分たちの世界は、自分たちで護るしかないのだから、『らいどう』の世界は『らいどう』が、護るしかないのだが。
とまあ、同じ年ではあるけれど、男組は完璧に父兄になっている。
一方『らいどう』は、帰還の方法があるとわかったとたん、まるっきりこの状況を楽しんでしまっているようだ。
「ねえ、『お兄ちゃん』と『お兄様』と『兄上』の、どれで呼ばれたい?」
だとか、
「やっぱり男女差ってあるのかなぁ。仲魔にする悪魔の趣味って、二人とも私とずいぶん違うのねぇ」
なんて、実にお気楽だ。
彼女は彼女の帝都の危機よりも、早く帰らないと向こうの鳴海ちゃんが外食ばっかりになっちゃうことを、心配している。
「お料理は和食の方が得意なんですけどぉ、あっちの鳴海ちゃんも、こっちの鳴海ちゃんも、洋食の方が好きみたいですねぇ」とかいいつつ、洋食の腕も磨いているそうだ。
鳴海は鳴海で、すでに手料理をご馳走になるつもりになっている。
さて、それから。
ライドウと雷堂は、二人が試練に立ち向かっている間、『らいどう』を鳴海探偵事務所で、待たせておくつもりだった。
「私だって、葛葉らいどう十四代目ですぅ! ちゃんと戦えますッ!
それに、任せっぱなしにしたなんてバレたら、私のゴウトちゃんに、また怒られちゃいますぅ。こっちのゴウトちゃんより、すっごく厳しいし、怒ると怖いんですよ? 私のゴウトちゃん。なにしろ抱っこさせてくれないんですから」
ゴウトもぶつぶつ言っているのだが、『らいどう』はこっちのゴウトが気に入って、ぬいぐるみのごとく抱きかかえっぱなし。抱っこされつつの小言には、迫力がない。
そんなわけで三人で試練に挑戦しに出かけたのだが、『らいどう』は、ライドウや雷堂が連れ歩いてる仲魔とお喋りしたり、からかわれて泣きそうになっていたりする。
ちなみに『らいどう』が普段連れているのは、モコイのモコちゃん。
一番最初に仲魔になってから、ずっと一緒にやっているそうだ。
ともかく一緒に戦おうとする『らいどう』を説き伏せて、とりあえずこっちがヤバくなったら交代してもらうということにした。
もちろんヤバくなる前に、終わらせるつもりでのことだ。
少しづつ、見学ばっかりの『らいどう』が、不満を募らせつつあるが、ハイカラだろうがバンカラだろうが、女の子に対する態度の根本に大差はない。
いや、もっとしっかりした女性なら共に戦う気にもなるが、とにもかくにも『らいどう』はダメだ。
だが試練は厳しく、しかも二人分。
なんとかこれで最後の試練という所までたどりついたが、これが本気で厳しかった。
ダメージの回復もままならず、押され押されて負け戦。
「『らいどう』ちゃん、参戦しまーすッ!」
ヤバイと思った瞬間に、元気なかけ声と共に『らいどう』が飛び込んできた。
今二人に、『らいどう』を庇う余裕など、ありはしない。
二人の前にすっくと立ち、『らいどう』は相手をきっと睨む。
「ばしゅっ! ばしゅっ! ずばーッ! バンバンバーン!」
間の抜けた効果音を叫びながら、『らいどう』がオモチャのような剣を振り回し、銃を撃つ。
敵は怯んで、いや呆れて動きを止めたように見える。
「いっけーッ! ルーちゃん!」
輝くばかりの翼を何枚も持つ彼女の悪魔が、一瞬にして敵を薙ぎ払い殲滅させる。
こうして戦いは、一瞬にしてあっけなく終わってしまった。
その場にファイティングポーズのまま呆然と立ち尽しているライドウと雷堂に、『らいどう』が、かわいくぺろっと舌を出す。
「えへッ! 私のゴウトちゃんに、変な所にこだわるなって怒られながらも、男性系美形悪魔をそろえるの、がんばっちゃいましたぁ! 中でもルーちゃんは、一番のお気に入りの子なんですよ」
ルーちゃんと呼ばれた彼女の仲魔は、帰還する寸前、ライドウと雷堂に向かって、意味ありげな笑みを投げかけた。
『人を見かけで判断せぬほうがよい、というよい教訓にせねばなるまいな』
ずっと『らいどう』の片腕に抱きかかえられたままのゴウトが、ニャァとなく。
ごうと『なぜもっと早く参戦しなかったのだ』
らいどう「え? 『らいどう』ちゃんが参戦したら、試練っぽくなくなっちゃいそうだったし、お兄ちゃんたち苦戦したいのかなって。ほら、男の人ってそういうとこあるでしょ?」