◆このごろ堂 >  ◆もの書く生活

4 努力しているのに芽がでないのは、開業するという意識がないからだ。

 努力しているのに、いつまでもプロのもの書きになれない人がいます。
 決心していないから、という人が多いようです。
 といっても、当人に聞けば、決心しているという答えが、返ってくるでしょう。
 けれど、もの書きを自分の職業にするのだ、職業にしてその収入で生活していくのだ、ということが、よくわかっていないようです。
 よくわかっていないので、「お金のために書くんじゃない」とか、「もの書きで食べていけるのは、一部の有名人だけ」と、口にできるのです。
 職業にするとは、それでお金をもらい、食べていくことに、他なりません。
 絶対稼いで、これで家族ともども食べていくんだ、というのが、私の言う決心です。
 だからこそ決心する前に、ちゃんと調べて計画を立てるべきです。
 そんな決心をしたら、簡単に後戻りはできないでしょう。
 もの書きといっても、他の職業とかわりません。他の職業にあてはめて考えてみれば、わかります。
 気分で喫茶店を開いて、お客に愛想よくするために店を開いたんじゃないとか、お金のためにやってるんじゃないなんて言えるのは、その資本金と維持費用を、別のところから持ってくることができる人だけです。
 生活のための仕事をしたくないなんて言ってたら、仕事も生活も、趣味の延長になってしまいます。生活のために、書くことについて制限を一切受けたくないのなら、それを仕事にするべきではありません。
 仕事は成り立たせて、お金を稼ぎ、生活するためのものです。
 仕事にするというのは、そういうことです。
 そこまで考えなければ、決心は成り立ちません。
 特に最初は、成り立たせるために特別パワーとアクティブさが必要です。
 開業するのだ、という明確な意思も行動もなく、コンテストかなんかで選ばれたら、もの書きになろう、なんて漠然と行動しただけでもの書きになれる人なんて、そういるもんじゃありません。
 もの書き業を始めるには、いろんなことをして運を呼び込み、実力で掴み取り、実績に変えていくことが、必要なのです。
 努力してそれを乗り越える人もいます。
 ただ世の中には、嬉々としてそれを乗り越えプロになる人が、たくさんいます。
 なれない人には、「自分は努力しているのに、努力しない人が運だけでプロになる、世の中不公平だ」なんて言う人がいますが、そんな人がやってる努力は、開業するための助走にもなっていないようなことだけ、というケースが、ほとんどです。
 そういう人を見るにつけ、何がなんでも仕事にするぞ! いやしなければ! という決心が、足らないなぁ、と、私は思うのです。

 もっと仕事しろ~。
 以上 2001春追加


Q プロのライターになるには、どうしたらいいでしょう?

A あなたの肩書きとペンネーム、そして連絡先を刷り込んだ、名刺を作りましょう。
これであなたは、プロの仲間入りです。

……ふざけてるですって?
とんでもありません!
名刺がなくても、宣言しただけでも、プロになれます。
もし現在失業中で、失業手当を貰っている人がいたら、ハローワークで「今この瞬間から、プロのライターになることにしました」と言ってごらんなさい。失業手当、そこでおしまいになるはずですから。
それに八百屋だって、野菜が売れてから八百屋を開業しますか?
お店を構えて、野菜を仕入れて、それを並べた時点で、もう八百屋じゃありませんか。

売り込むための原稿を用意し、投稿やコンテストで名前を宣伝し、当面の活動資金をためたら、プロは開業できます。いえ、それどころか、それすらせず開業する人だっていますが、準備をちゃんと整えられる、計画性と行動力のある人の方が、より本気でプロを目指しており、より成功します。

ただ、最初のころは本業を持ちながらの方が、やりやすいのも確かです。
学生とか、会社員とかしながら準備を整えるだけでなく、活動を開始するんです。
肉体労働の場合は知りませんが、頭脳労働なら、本業がどんなに忙しくても、創作できる量というものは、専業とかわりません。
ええ私を含め、兼業から専業もの書きになったモノ書きの多くが、専業になれば今の何倍も書けるに違いないと思ったのに、ぜんぜんかわんなかった、と口をそろえて方っています。

え? 本業がヒマだったんだろうですって? とんでもない!
私の以前の仕事は、システムエンジニア。看護婦と同じく女性に対する残業規制のない、忙しい職場です。私は最初のアマチュア時代の本を、当時本体だけで3キロ、バッテリーもしこたま重くてすぐ無くなるノートパソコンを抱えながら、多少遠回りをして行き帰りの電車の中と昼休み、それから友人との旅行中までをも使って、3ヶ月で書き上げました。

そんな無理しなきゃもの書き業はできないのか、ですって? そりゃ違います。
書きたかったから、書いたんです。
昼休みも、通勤時間も、とにかく書きたかったんです。
だから、その後プロを目指したんです。
だいたい今でも、システムエンジニアともの書き、どっちがハードか? って言われたら、システムエンジニアの方がハードだって即答しますし、ハードだったからこそ「YESマンになって何でも引きうけたら、自分が命を落とす」とか、「出来ないことは引きうけない。出来ないことを引きうけて、最後に逃げるやつが最高の愚か者」ってことを、身に染みて覚えさせられたんですから。

これはもの書きだって同じです。
新人は無理をしてでも仕事を全部引き受けてやりこなせ、って言う人もいますけど、断って相手の気分を害することを恐れたり、あるいは自分の実力を過大評価していて、新人が受けた仕事を落としたりしてごらんなさい。
特に最後の最後まで事態が悪化していることを隠したあげく、とんずらでもこいたら最悪です。遅れるってのも新人にとってはまずい状況ですが、逃げたらおしまいなのです。
この業界、横の繋がりが強いですから、二度とどこからも仕事が来なくなります。

で、話をもどします。
名刺でも作ってプロ化を宣言したとしますね。
名刺を作ればプロだと聞いて「えー」と言った人は、もしかしたら就職するのとかん違いしていませんか?
これは就職とは違います。自営業の開業です。

基本的に、仕事のやりかたを教えてくれる人はいませんし、自分で仕事を探してこなきゃいけません。仕事に使うものも、自分で用意しなくちゃいけません。
人より仕事が遅ければ、会社員なら残業代が出ますが、無論そんなものはありません。
有給も、休日もありませんし、もう辞めようと思っても、退職金もありません。
過労死しても、自己責任です。

しかしそれは、自己責任で自由にできるということです。
自分にあった仕事のやりかたをし、自分にあった仕事を見つけ、自分にあった道具を使えます。
人より仕事が早ければ、僅かな労働で同じ金額を稼げますし、あまった時間をさらに仕事を受けて稼ぐことにも、他のことにも使うことができます。
長期休暇も思いのままですし、売れれば普通のサラリーでは稼げ出せない額を、手にできます。

問題は開業してからです。
こっから先はもう人それぞれで、どうやればどうにかなるっていうのが、ありません。
書いた原稿を出版社に送ったら採用になって、その後順調になんていう人もいます。
先輩もの書きが編著する作品の手伝いから始め、それを実績として積み上げて自分の仕事を得るようになったという人もいます。この場合、まず先輩もの書きに自分の才能を売り込み、その先輩の作品に名を連ねさせてもらえれば、それは見せ原より強力な武器になります。
編集兼ライターのアルバイトから、もの書きになった人もいます。
サークルや部活動で、先輩が後輩をスカウトしてというケースも、多いようです。

……そーいや、ゲーム業界に入りたければ、六大学のその手の部に入るのが、一番の近道だと、うちのダンナが言っています。

さてさっき、この業界横の繋がりが強いっていいましたでしょ?
っていうか、もの書き、イラストレター、編集の、渾然一体とした口コミ網があります。
なにせみなさん表現したがりですし、世間は案外狭いものですから。
しかしこれは別に助け合い組合でもなければ、組織化されたものでもありません。
業界に関わっているうちに、いつしか関わっていくといった感じです。
で、編集は落として逃げた前歴のあるもの書きに仕事を任せたくはありませんし、逆にもの書きも、約束を守らないと評判のある編集を警戒したいと考えています。
また編集者や編著者は、組織化されていない無数のもの書きやイラストレターの中から、仕事を任せる適任者を見つけ出したいと考えていますし、もの書きもイラストレターも、作品を買ってくれたり、自分に合った仕事を発注してくれるところを、捜しています。

コネっていうより、人脈です。
求人票やアルバイトニュースにあたるものなんてありませんから、人脈は貴重な財産です。

仕事を続けていけば、人と人とがつながり合って人脈になり、こうした情報網にも関わることになるでしょう。
しかしそのとき、あなた自身の倫理観と判断力も試されます。
もしあなたが、言うべきではないときに、言うべきではない相手に、誰かの内部情報をもらしたりプライバシーを侵害したら? 不注意に噂でしかないガセ情報や、未確定情報を、真実として広めてしまったら?
「落として逃げる」同様、あなたは信用されなくなります。
そして自営業者にとって、信用はとても大切なのです。