私は、自分で言うのもなんですが、有名作家でも、大先生でもありません。
ごく普通の、文筆業をなりわいとする者です。
そんな私のところにも、ときおり「どうしたらプロになれるでしょうか?」という質問が、舞い込みます。作品を読んで、アドバイスして欲しいという人もいます。
けれど大半の人が知りたいのは、「どうしたら上手に書けるようになるでしょうか?」ということであり、上手に書けたら自然にプロになれると、思っているらしいのです。
まあ中には、どヘタな文章しか書けなくても、プロとお友達になりさえすれば、仕事を回してもらえると思っている人もいます。そう思って、つきまとってくる人(※1)も、そしてあの人がプロになったのはコネがあったからで、自分がプロになれないのは、そういう知り合いがいないからだと信じている人も。
もちろん、コネだけでプロが続けられるような甘い業界では、ありません。
けれど、上手に書けるだけでも、プロにはなれないのです。
それだけでプロになれるのは、ものすごく上手な人だけで、それは私ではありませんし、そして確率的に言って、あなたでもありません。
「細江」程度に書けるのに、どうして自分はプロになれないのだろうと悔しい思いをしているのだとしたら、十中八九、書く以外の仕事をしていないからです。
繰り返しますが、上手に書けるだけでは、プロにはなれません。
プロのもの書きになるための本は、たくさん出版されています。しかしそのほとんど※2が、上手な書き方についての本です。
たぶんその理由は、小説ならばものすごく上手で、上手なだけでもプロになれた、天才型の大作家による著が多いからであり、またそうした大作家への憧れがあるからでしょう。それに、さすがに大作家による著は魅力的です。読むと、なんだかなれそうな気がしてきます。
そして読者は、そんな夢を見たいのです。※3
他のマニュアル作法の書き方の本であれば、いかにわかりやすく書くかが中心です。
作文や手紙の書き方の本もたくさんありますが、これはプロになりたい人向けではありません。
もちろん、それらも大切です。
『文章の書き方』の本を読めば、基本的な書き方のルールを覚え、文章力が上達するでしょう。
こうした本を一読もせず、プロのもの書きになろうということ自体、間違っています。
けれど、『あなたも小説家になれる』といったたぐいの本を読んだぐらいで、万人の心を掴む小説を書けるようになるなら、誰も苦労はしないのです。
というわけで、文章の上手な書き方についてなら、他をあたってください。
仕事にしたい人は、仕事の方へ踏み出してください。
そして踏み出したなら、ゴチャゴチャ言う前に仕事をするしかありません。
プロになると口では言いつつ、文学や文章の質の話しばかり。コンテストに投稿して入賞したらデビューできて、あとは回りがプロへの道をお膳立てしてくれる……。
これでは、趣味を仕事に持ち込もうとしているだけなので、いくら自分では本気のつもりでも、他人が本気でプロになろうとしているとは、認めてくれません。
もちろん、この業界内いろいろあって、例外だらけなので、私が書いたことが、かならずしもあなたの周辺にあてはまらないでしょう。
けれど、コンテストでデビューしただけで、次々と執筆を依頼され、書いているだけで仕事は終わり、なんて人は、プロのもの書きとしては少数派です。
書くだけが、もの書きの仕事ではなく、上手に書きさえすれば、いいのではありません。ものを書いて仕事をするとは、個人事業主になるということで、営業も経理も将来の計画も、仕事の一部です。
ものを書く商売は、他のたくさんの仕事同様、普通の仕事の一つなのです。脚光を浴びるのは、売れっ子のもの書きだけですが、この仕事をして、お金を稼ぎ、家族をやしなっている普通のもの書きは、たくさんいるのです。
ですから、少々そうした普通のもの書きの仕事の話をしようと思います。
もの書きを仕事にしたいと思っている方の参考に、多少なりともなれば、幸いです。