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青き星の半年

角川スニーカー文庫のノベライズを執筆後、筆が止まらなくなって、書いたもの。
コメディ系です。

 ガレオンは、言った。
「人はいつも、私の想像を越えていく。わかっていたはずなのに、驚かされる……」
 ヒイロは今、心の底からその言葉を噛み締めていた。別の意味で。


 ヒイロは、さまざまな苦労の末青き星へと至り、ルーシアを目ざめさせ、そして二人は、再生を間近に迎える青き星の、最初の夫婦となる決心をした。

 それはいーとして……。

「あの、ルーシア?」
「なあに、ヒイロ」
「服を着たほうが、いいんじゃない?」
「どうして?」
「外は寒いし、あの、その、目のやりばに困るんだけど」
「大丈夫よ。すぐ暖かくなるわ。今はまだ、この神殿のまわりだけだけど。それにヒイロ、以前はあんなに、私が何も着ていないところを、見たがっていたじゃない?」
「それはそうだけど……」
「それに、私たちはもう夫婦なんでしょ? ここには他に誰もいないし、恥ずかしがるなんて、おかしいわ」
「そーはいっても……」
 なんとかルーシアに服を着せ、数時間後。
 ルーシアは両手いっぱいに、小さな生き物を抱えてきて、こう言った。
「ねぇヒイロ見て。私たちの子供たちよ。なんて可愛いんでしょう」
 めいっぱいの母親の笑顔で、ルーシアはその生き物たちを、愛でていた。


 いくらヒイロがそういうことにうとい方だとはいえ、ヒイロだって正常な男の子。
 ついでにいうなら、人類大昔からすべからくスケベだったらしく、高尚なる考古学の資料の中にも、ちゃーんと大昔の人々の夜の営みの記録ってやつがあったりして、ルビィに隠れてそれをむさぼり読んだ日々は、もう遠い思い出だ……。
「ヒイロ、何をトリップしているの?」
「あ、いや、別に……。ル、ルーシア? キミが……、産んだのかい?」
 言ってから、ヒイロはバカなことを聞いたと思った。でもまさか……。
「あら、もちろんよ。他に誰が生むっていうの? ヒイロが来てくれたからだわ。ほらみんな、お父さんよ」
 ヒイロは頭がクラクラしてきた。
 どう見ても、ルーシアが抱きかかえているのは、人間の子供じゃあない。いくらヒイロに、獣人族の血が混じっているとはいっても、獣人族の子供でもない。
 それは、まだ目も開かぬ、子ネコのかたまりに見えた。
 4匹の。白、ピンク、水色、灰色の。
 背中から突き出した細長いものは、たぶん羽だろう。
「ねぇヒイロ、名前をつけてやってくださらない? ……ヒイロ、どうしたの?」
「こ……、腰が抜けた」
「まぁ、そんなに嬉しかったのね。ヒイロ、あなたのために、いっぱい子供を生むわ」
 さらに1時間後。とにかくすれちがいまくるルーシアとの話で、わかったのは(またヒイロが、無用な気配りをするものだから余計に混乱からなかなか脱出できなかったのだ)、つまりルーシアが「産んだ」のではなく、ルーシアが解放した魔法力によって「生まれた」らしいということと、ヒイロは決して無関係ではなく、その新たな生命たちに深くかかわっているらしいということだ。
 ルーシアが魔法力を解放するたびに、これから青き星に満ちあふれる生命は、……草も木も虫も動物も、こうして生まれ出てくるらしい。
 そして、一通り生まれ終わった時点で、というか一通り生んで魔法力を使い果たした時点で、ルーシアは人になることができるらしい。
 でもって、今ルーシアの神殿で、ルーシアの魔法力を乳がわりにすくすくと育っている4匹の子竜は、その中でも別格の、青き星の目ざめにかかわる魔法生物らしいのだ。
 らしいが続くが、さすがにヒイロにも、短時間ではその程度しか、理解できなかった。
 そして、ルーシアは世界創造に6日かけ、その後1日眠りこけた。
 なんかそういうことに、なってるらしい。


 翌日、目ざめたルーシアは、いきなりこう言った。
「ヒイロ、夫婦でしかできないことを、しましょ」
「え?」とかうろたえながら、ヒイロは頬をそめた。
「じゃあ、いくわよ」と、ルーシアがにっこり笑った。
「は?」いやな予感がする。
 ぺし! ルーシアはいきなり、ヒイロを平手打ちする。さして痛くはないが、ヒイロは混乱した。
「……ルーシア?」
「この浮気もの!」
「あの、これ、なに?」
 ルーシアは、にこやかに笑った。
「夫婦ケンカよ。犬も喰わないんですって」
「……ルーシア、ボクがここで誰と浮気するっていうんだい?」
「ごめんなさい……。私、夫婦でやることは、全部経験してみたくって」
「いいんだよ、ルーシア」
「今度は、ちゃんとしたネタを仕入れてくるわ!」
「ど、どこから……」
 その後しばらく、青き星では「夫婦漫才」な日々が続いた。


 その3ヶ月後、神殿の周りは緑につつまれ、小川が流れ、湖ができ……。
 ヒイロは、ルーシアのために、森で果実を集めていた。
 香りのよい、酸っぱい果実を。
 そして、ハッと気づいた。
「しまった! ボクたちの子供の、結婚相手がここにはいない!」
そして半年後。
 ヒイロとルーシアは、ルナにいた。
「というわけで、移住者を募集したいし、ルーシアもボンとショーガツには故郷に帰るものだっていうんで、ちょっと顔みせに……。アハハ」
 ヒイロのとなりで、お腹がめだってきたルーシアが、微笑んでいる。
 だけど、やっぱり星竜の試練は難しくって、なかなか青き星への移住者は増えなかった。