ところで編集者は、もの書きの同人活動を嫌う、という話を聞いたことがありませんか?
これは、本当でもあり、ウソでもあります。
嫌われる同人活動もある、ということに過ぎません。
嫌われるのは、プロのもの書きを目標としながら、作品の質ばかり論じ合っているような、なれない人ばかりの活動です。
プロになった人がリーダーとして引っ張っているなら、現実的な話も出ますが、なれない人ばかりでは、机上の空論の交換になってしまい、そこで馴れ合っているうちに、井の中の蛙になってしまう、というわけです。
井の中の蛙がクライアントに出会うと、で美味いラーメンを出すわけでもない、駆け出しのラーメン店の主人が、日本中のラーメンを食べ比べている客に、蘊蓄を垂れ、食べ方を指図するような状態が、発生するのです。
クライアントは、そんな人々に飽きています。
理想論より、証拠です。自らの理想は、語るより形にしてください。
同類の批評がどんなに好意的でも、同類はお金を払ってくれる不特定多数の一般読者ではありません。
同類と交換すべきは、互いの意見ではなく、より正確な情報です。
井の中の蛙は、編集者といった関係業界の人や、先輩にあたるプロに出会ったときも、いつもの「プロになれない仲間内」と同じ感覚で、話し始めてします。
この出会いを、仕事のチャンスに結びつけていこうという感覚が、ありません。
ゴマを擦れ、とまでは言いませんが、礼儀と営業スマイルぐらいは、身につけて欲しいものですし、言い負かすのではなく、言いくるめてその気にさせなければいけません。
相手をその気にさせるのが、仕事の門口というものです。
そして相手がその気になったら、すかさず口頭でぶち上げたことを、形にしたものを見せなければ、なりません。
ラーメンを出さずに、あるいはまずいラーメンを出しながら、どんなに蘊蓄を垂れ、食べ方を指南しようとしたって、誰も認めてはくれないのです。
ちなみに、趣味で書いた記事や作品を同人誌、あるいは個人誌化する分には、仕事にさしつかえない限り、問題にされることはあまりありませんが、十把一絡げに嫌うクライアントもいますし、喜んでチェックしているクライアントもいます。
後者の場合、出来がよければ仕事に結びつけようと、積極的に考えている場合もあるのです。
以上 2001春追加
「あなたは、何ができますか?」
就職の時の面接でも、フリーで売り込みにいったとしても、相手の質問を単純化すれば、こうなります。
なのに、すでに顔を合わせる段階まできているのに、これに答えられないばっかりに、チャンスをふいにしてしまう人は、少なくありません。
最悪なのは、自分はこういうモノを書く、という作品もなく、なおかつそれに何も答えられないというケースです。
同じくらい悪いのは、「なんでもできます」です。
実際に何でもできるとしても、私なら絶対に、そう答えた人が「フランスのRPG事情についてのレポート」でも、「食物連鎖をモチーフにした育成ゲームの企画書」でも、はたまた「シュミレーションゲームのゲームノベル」でも書けるとは信じません。
勘違いする人が多いので言っておくと、仕事は試験の問題でも課題でもありません。
フランスのRPG事情を調べるためには、どうしたらいいのか? も、レポートや企画書の書き方も、教えてもらえるわけではないのです。
それに、「何が書けるか?」ではなく「何ができるか?」という問いなのです。
「できる」の中には、「早く書ける」、「レイアウトができる」、「カットが描ける」といったことも、含まれるのです。
実際、こうしたもの書きの仕事と関わるスキルは有利に働きますし、どのくらいのペースで書けるのか? は、発注する側にとって絶対に知りたい重要項目です。
では、どうしたらいいのでしょう?
得意分野を作ることです。
それも「歴史に強い」ではなく、「中国の歴史に強い」とか、「三国志ならばっちり」のほうがいいですし、「小説が書けます」よりも、「恋愛小説が得意です」ならいいわけです。
「女子高生」でも「インターネット」でも、はたまた「日本の経済」や「マニュアル」でも、何でもあり。
得意分野は、オタク的なものでもいいでしょう。オタク様はお客様。オタク向けの仕事は、たくさんあります。
なんなら書店にいってあたりを見まわしてみてください。ありとあらゆる分野の本が売られているはずです。そしてもし、あなたが得意としたい分野が見当たらなかったら? あなたは第一人者として、金鉱を掘り当てたかもしれません。
ともかく得意分野を、いくつかつくって、それを「売り」にするのです。
得意分野を絞ってしまうと、それ以外のことができないと思われはしないか? と心配になるかもしれません。それゆえ「何でもできます」と口走ってしまうこともあるでしょう。
もちろん、それしか出来ないというようなそぶりをしろというつもりは、ありません。
しかし、一つの仕事には、いくつもの要素が含まれています。
そして一つの得意分野にも、……よほど偏った人の限定された得意分野でないかぎり、いくつもの要素が含まれています。
得意分野が「女子高生」なら、男性向けの女子高生の生態本もあれば、女子高が舞台の小説もあるし、女子高生向けの恋愛小説(ヤオイかも)だって、あるわけです。
どーせ全ての要素が共通する仕事など、ありゃしません。
何か一つがきっかけになって、あなたと仕事を、結びつけるのです。
得意分野は、そのひっかかりといって、いいでしょう。
逆に、あなたの得意分野の組み合わせが面白い場合や、珍しい得意分野を持っている場合、それでやってみないか? という話がそこから始まることもあるのです。
そしてもちろん、得意分野を証明するような作品見本の一つや二つ、常備しといてください。
この業界、供給過剰です。
この不況下、どこもそうだとは言えますが、なんの訓練も受けず、なんの勉強もせず、ただなんとなく、ある日ふともの書きを目指したような人も多いので、そういう人たちを、こんなものを読んでいる「あなた」が競争相手として意識する必要は、ありません。
だけどもちろん、人並のことをしていちゃダメなわけです。
作品の質で抜きん出られるなら、それに越したことはないけれども、すくなくともあなた自身には、それを客観的に確認するすべはないはずで。
いえ、世の中に氾濫する書きモノと比較すればいーんですが、自分の作品を客観的には、まず見れません。
それにそれができるなら、ここに書いてあるようなモノは、全て無関係。新人コンテストで華々しくデビューできるか、これを読む前に自ら道を開拓しているはず。
もっと客観的に、目に見える部分で、人から頭一つ抜きん出る必要があります。
自分の才能を、どう見せるか? ですね。
何が出来ます、と言ったって、やって見せなきゃ口先だけだし、どうせやるなら、それをうまく見せる工夫が必要です。
これをプレゼンテーションといいます。
なにせ結局表現の職業ですから、プレゼンテーションだってうまくやれなきゃいけません。
面接の機会は、自ら才能をプレゼンテーションする場と考え、準備しましょう。
特に会社でもの書きを雇う場合、100点の作品を年に1本書けるかどうか? っていうヤツより、75点の作品を確実に書けるヤツが欲しいんです。
それに組織の中で働くには、モノを書く以外の表現手段を備えてなきゃいけません。
で、人前でプレゼンテーションができ、その資料を整えられる人が、いいわけです。
なぜかっていうと、会社では複数のクリエイターが共同作業することになるからです。
会議したり打ち合わせしたり、つまりそーゆーのがちゃんとできないと、クリエイターにはなれても、クリエイター会社員にはなれなかったりするんです。