ゲームをデザインするとき、多少なりとも有能な人々は確率計算を行うはずだ。ダイスを振ったとき、どのような確率でどのような目が出るか。これを知らずして、まともなゲームが作れるわけがない。
もちろん、たまにはそういうことを一切行わず、直感だけで優れたゲームをデザインしてしまう天才が、百万人に一人くらいいることは否定しない。しかし、確率計算をしないデザイナーのほとんどは、確率計算すらできない無能なデザイナーであることは火を見るより明らかである。
さて、そこで今回は確率計算の話である。確率計算をするとき、ほとんどの人は、平均を求めるのではないだろうか。そして、平均(期待値とも呼ぶ)をもとにして、ゲームバランスを取ろうとする。
ところが、これが大間違いの元であることが多いのだ。標準データを求める方法は、平均だけではない。しかも平均というのは、意外と人間の感性と懸け離れた結果を出すことが多いのだ。
そこで、標準データの求め方について、有名な三パターンをあげておこう。
平均:全データについて生じる割合とデータをかけあわせて、それを合計したもの。
中央値:全データを順番に並べて、そのまん中にある値。
最頻値:全データの中で、最も頻度の高いデータの価。
かつては、中学校の数学課程に入っていた内容であるが、今ではどうなのだろうか。
これらが露骨に違う例として、TRPGではないが、コンピュータRPGのエンカウンターについての計算を考えてみよう。
問題:1歩進むごとに、確率αでモンスターが出現するとする。何歩進むとモンスターと出会うのか、平均、中央値、最頻値を求めよ。
平均は、以下の式で求めることができる。
X=1α+2α(1-α)+3α(1-α)2+4α(1-α)3+……
詳しい計算方法は省略するが、X=1/αである。つまり、確率0.1ならば、平均で10歩進むとモンスターと出会う。
では、中央値はどうやって求めるか。モンスターと出会わないまま進む確率が50%を切った時点で、そこが中央値であると考えられる。
(1-α)n ≦0.5<(1-α)(n-1)
というnを求めれば、それが中央値になる。確率が0.1ならば、どうだろうか。
歩数 出会わない確率
1 0.9
2 0.81
3 0.729
4 0.6561
5 0.59049
6 0.531441
7 0.4782969
6歩目では、まだ出会わない確率のほうが高く、7歩目では出会う確率が高くなっている。よって、中央値は7歩である。
それでは、最頻値はどうやって求めるか。それは、各歩数におけるモンスターと出会う確率を求めればよい。これも確率0.1で求めてみよう。
歩数 出会う確率
1 0.1
2 0.09
3 0.081
4 0.0729
5 0.06561
一目で解る通り、1歩目が最頻値である。
さて、このようなコンピュータRPGをプレイしたプレイヤーは、モンスターと出会う確率をどのように感じるだろうか?
実は、10歩と感じることはない。というのは、平均とは全ての事象の合計から求めるものだが、人間は、このような感じ方をしないのだ。人間は、めったにないことをあらかじめ切り捨て、残った事象から物事を考える。
つまり、平均が10歩なのは、ごくまれに何10歩もモンスターと出会わない場合が存在し、それらを組み込むことによって引き上げられたデータなのだ。
しかし、人間は、そのような希な出来事を無視する。それよりもこう考えるはずだ。
「7歩も歩けば、たいていモンスターと出会ってるよなあ」
「一番多いのは、1歩目でモンスターにぶち当たることだぜ」
さて、平均だけ求めて作ったデザイナーと、実際に遊んだプレイヤーの感覚は、こうも乖離する。
スターロードのような上方無限ロールを行うタイプのゲームでこのことを忘れてデザインすると、プレイヤーの感覚に合わないゲームを作ってしまう(もちろん、スターロードでは検討した)。なぜなら、このようなゲームでは、平均と中央値と最頻値が異なるからだ。
逆に、2D6のゲームなどでは、問題は起こらない。なぜなら、平均と中央値と最頻値が同じだからだ。
このことを忘れてゲームを作ると、問題のあるプレイヤーの感覚に合わないゲームを作ることになる。