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Name:山北 篤

RPGとはストーリーを作るゲームだ
~コスティキャンの誤読~

Date:1999/10/26(火) 10:21

 この文章も、『コスティキャンのゲーム論』に関する文章である。

 このゲーム論では、「ゲームはストーリーでない」と述べられている。全く正しい。しかし、これは当然のことを言っているに過ぎない。ゲームはストーリーではない。

 しかし、これを誤読して「RPGにストーリーは必ずしも必要でない」などと言っている人もいるようだ。しかし、これは誤読である。もちろん、ゲームはストーリーではない。しかし、ストーリーを作ることを目標にしたゲームの製作は、可能なのだ。そして、RPGとは、そのような目標を持ったゲームである(もちろん、全てのRPGがそうだとは言わないが、多くのRPGはそうである)。

 この違いが解るだろうか。

 この文章は、本来ならここで終わりである。言いたいことは、言い尽くしたから。しかし、解らない人もいるだろうから、もう少し続けることにする。

 実のところ、RPGというゲームは、ゲームとして本質的に問題を持っている。というのは、ゲームマスターは、ゲームができないのだ。

 少しコスティキャンの用語を使うことにしよう。ゲームとは「意思決定」である。そして、意思決定を行うために、ゲームには「目標」が必要で、その目標を素直に達成させないための「障害」が必要となる。そして、障害を突破するための能力としての「資源」と、突破させる主体としての「トークン」が存在し、それらを「情報」としてまとめることで「意思決定」を行うのだ。

 さて、ゲームマスターには、どのような目標が存在するのか。障害とはなにか。資源は配分されるのか、資源を使用するトークンは存在するか。どれも、全く存在しない。少なくとも、これらがルールで規定されているRPGは(『トレイダーズ!』を除き)、世界に存在しない。

 つまり、たった一つのRPGを除いて(『トレイダーズ!』のアプローチに関しては別項で扱う)、他全てのRPGでは、ゲームマスターはゲームがプレイできないのだ。だから、誰もゲームマスターなどやりたがらないのだ。証明終わり。

 ……そんなはずはない。しかし、これでは大変困ったことになる。

 しかし、ゲームマスターがプレイできるゲームのルールは存在しない。にもかかわらず、ゲームマスターはゲームをしているように思える。とすれば、ゲームマスターは暗黙のルールを元に、暗黙のゲームをプレイしていると考えるしかない。

 ならば、その暗黙のゲームを明らかにし、そのルールを記すことができるのではないだろうか。

 もちろん、暗黙のゲームなので、ゲームマスターごとに暗黙のルールが異なり、異なるゲームをプレイしている可能性は非常に大きい。しかし、その中の最大公約数を見つけることは、不可能ではないだろう。

 では、その暗黙のゲームにおいて、そのゲームの「目標」はなんだろうか。それは、セッションを終えることだろうか。しかし、どんなに失敗してもセッションはいずれ終わる。とすれば、勝利条件としての目標にはセッションの終了はふさわしくない。

 とすれば、セッションが成功裏に終わることならば、どうだろうか。なるほど、目標として使えそうである。しかし、全く意味の無い言葉でもある。セッションか成功裏に終了するとは、いかなる状態を意味するのかが解らないのだ。

 いくつかの答えが考えられる。

・全プレイヤーに、きちんとゲームをプレイさせることができた

・全プレイヤーが、ノリノリでプレイできた

・全プレイヤーによって、良いストーリーを作り出せた

 様々なゲームマスターに聞いてみたが、その多くは「面白いストーリーができあがったときに、セッションが成功したと感じる」と答えてくれた。

 とすると、最大公約数として、暗黙のゲームの目標は「面白いストーリーを作ること」と考えてもよいであろう。もちろん、もっと多くのゲームマスターにアンケートを行って、さらなる検討を加えて見たいところではあるが、暫定的にはこの結論を採用する。

 とすると、面白いストーリーを作ろうとした場合、どんな「障害」が存在するだろうか。それはストーリーを破綻させる様々な事態である。

・PCが愚かな行動をとる

・最も重要な判定に大失敗する

・プレイヤーが非協力的である

 これに対し、ゲームマスターは「資源」と「トークン」を駆使して、修正を計る。ゲームマスターにある資源とは、「プレイ時間」「RPGのルール」「ゲームマスターの権限」「口先のうまさ」などであり、トークンは自分自身である。

・NPCにヒントを言わせる

・判定に失敗した場合のわき道ストーリーを作って、後で合流させる

・迷惑なプレイヤーを追い出す

 もちろん、ゲームマスターが得る「情報」とは、残り時間、PCやNPCの残りHPやMP、プレイヤーの表情などである。

 これらを総合して、ゲームマスターは「意思決定」を行う。

 そして、最終的に、「意思決定の結果」を得る。

 これが、ゲームマスターのプレイしている暗黙のゲームの正体である。

 この暗黙のゲームをもって、「RPGはストーリーを作るゲームである」と言うのである。

 もう一度まとめてみよう。

 ゲームはストーリーではない。しかし、ストーリーを作成することを目標とするゲームは存在しうるし、ゲームマスターはそのようなゲームをプレイするプレイヤーなのである。